「……なるほどのぅ、事情はわかった。姫は我が国で保護しよう」 三度目となるサマルトリア王との会見で、王は沈痛な面持ちでそう言った。
ちょーこの呪を解くにも時間はかかりそうであるし、国を懸けて守ってくれるのなら少なくとも連れ回すよりはマシだろう。 ひとまずホッとした。しかしそれは飛鳥だけだったらしく、羽鳥の表情から緊張が解けない。 (自国で、何を緊張する?)
「羽……」 「僭越ながら、王よ」 呼びかけは、羽鳥の硬い声に遮られた。
「申してみよ」 「ムーンブルクが真っ先に狙われたのは、彼の国の魔力が脅威となるからでしょう。そして王女は彼の国ひとつにも匹敵する程の魔力をお持ちだ」 「うむ」 「先日までは、獣の姿となる事でその膨大な魔力を封じられておられました。ですが今はその呪も解けかけ、その膨大な魔力の余波を感じる事ができます。いえ、完全に呪が解ければ彼女自身の力で制御も効きましょうが、隠す事ができない今が最も外から感知しやすい」 「うむ」 羽鳥は何を言いたいのだろう、と思っていた飛鳥は、次の言葉で目を見開くことになる。
「それはきっと、闇の勢力とて同じ事。王女を保護すれば………次に攻め込まれるのはこの国です」 人払いをされた謁見の間が、痛い程の静寂に満ちた。
「承知の上じゃ」 沈黙を破ったのは王だった。 それに驚いたのは飛鳥だけで、羽鳥は予想していたのか眉を寄せただけで言い募る。 「父上!」 「力、ムーンブルクに及ばずとも、王族の誇りというものがある。女神に造られし人の情も然り」 「それが民を守る者の選択ですか!」 「ならばどうする?王女に路頭を彷徨わせるか。お主は王女を犬にしたままの方が良かったと後悔しているか?」 「まさか!………ああそうだよ、僕もどうせむいてないよ父さんの意地悪!」 口調が突然崩れたのでぎょっとした。……のは、またも飛鳥だけだったらしく、王は表情を動かさないで次の羽鳥の言葉を待っているようだ。 「でもこの国がむざむざと滅ぼされる理由を黙認したくないし、大体それじゃあちょーこの安全を確保した事にはならないし………ああもう飛鳥ちゃん!!」 「あ、ああ?」 何の指名だ。
「ちょーこを守るって誓えるか」 「え……」 「守りきれるって、誓ってよ。………無理ならいいけど」 強要はしないと言いながら、それは懇願の響きだ。
「この命に、代えても」 「それじゃあ駄目だ」 無意識に滑り出た言葉はあっさり却下された。
「………必ず、平和になったこの地を共に訪れよう。ルビスの名の元に」 「しかと聞き届けた」 この国で最もルビスの恩寵を戴く二人が微笑み、頷いた。
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もっと崩れて普通の親子喧嘩みたくなったら、サマ王は住職のイメージで行こうかと思ってました。思ってた程崩れなかったや。