ロト王家を示す、不死鳥の紋のついた緑のマントを靡かせて。

 マントに負けずフワフワした足取りは、こんな時なのに至極楽しそうだ。

 

 

「あのさ、お付きの人は?」

「は?」

 外に出て、何か探すようにきょろきょろしていると思ったらこれだ。

「撒いた?」

「何の話だ」

「いないの?へー、随分信頼されてるんだね」

「だから何の・・・・・・・・・誰に」

「ローレシア王」

「なぁ、本当に何の――――――構えろ!」

 

「へ?」

 咄嗟に反応できない羽鳥の肩越しに、飛び掛ってくる青いものを見る。スライムか!

 牙が覗く大きく開けた口に、そのまま銅の剣を滑らせた。

 ベチャリと、2つに別れたゼリー状のそれが動かない事を確認して、もう一方の気配へと向き直った。

「ぼやぼやするな!」

「う、うん!」

 羽鳥はようやく構えた棍棒で、アイアンアントの牙を受け止めた。

 しかし6本ある足のひとつに腕を薙がれ、無傷ではない。

 反撃するのは無理そうだと判断して、蟻の背後から銅の剣を突き刺した。

 

「凄い凄い、強ーい」

 パチパチ拍手を送ってくる様子から、命がけの緊張感は微塵も感じられない。

「剣術の天才って噂は伊達じゃないねー」

「弱いぞ、お前」

 気遣う気も起こらず、直球で言ってもまだニコニコしている。

「うん、ごめん。今のが初戦闘だったもんで、反応できなかった。

 できれば後何回か、戦い方見せてもらえない?参考にするから」

 ・・・・・・初?

「待て、泉に行ったのにか?」

「だから、魔物が出ても僕が構えるより早く付き人が倒しちゃってたんだもん」

 ようやく先程の問いかけの意味が分かった。

 護衛が居たのか。

「大事にされてるというか・・・・・・過保護だな」

 呆れたようにそう言うと、それも否定しないけどー、とパタパタと手を振った。

「それ以上に信用されてないんだって。逃げるとか、帰って来ないんじゃないかとか思われたみたい。

 護衛ってより見張りだね。無一文で棍棒ひとつで油断させてやっと撒いたと思ったらさっき君に声掛けられて、見つかったかと思った。」

 何だ、俺から(ひいては使命から)逃げていた訳ではなかったのか。

 心の中で、どん底だった彼への評価を少し引き上げた。

 

「心当たりでもあるのか?」

「継ぎたくありませんって置手紙残して家出した事数知れず」

 とんでもない王子だ。

「・・・・・・お前、第1位だよな」

「うん。でも向いてない。責任重い役職はヤダね。王なら妹が継げばいーんだ。あの子しっかりしてるし」

「女王など前例が・・・・・・」

「たかだか100年やそこらの新興国で何が伝統だよ。

 ムーンブルクだってあのままなら女王で落ち着いた筈だったのに・・・・・・!」

 怒りを滲ませた言葉に、また少し評価を上げた。

「なんだ、討伐する気はあるんだな」

「何、今更・・・・・・当然だよ。まぁ使命云々よりも個人的なものだし、終わった後に帰ってくる気もないけど。

 でも、王子として大事に育ててもらった分は返すよ。」

「・・・・・・・・・・・・・」

「幻滅した?」

「・・・・・・?」

 むしろ再評価していた所なので、不思議に思って瞬いた。

 

「今の話がってんじゃなくて、もっと全体的に。期待してたんじゃないかなって。

 隣国の、同い年の、顔まで同じロトの再来。

 立派な人物じゃないかと思われてたなら、ガッカリしたろうなって」

「つまり、お前は俺に幻滅したのか?」

「へ?な、何でまた」

「思想の違う者を認められない、という話だろう?」

「・・・・・・僕は、君は噂の通りだって思ってたよ。強いし、僕と違ってキリっとして威厳あるし、多くを語らず行動で示すのもカッコイイなって。いい王様になりそう」

 ちなみにローレシア内での飛鳥の評価は、取っ付き辛い。偉そう。あの愛想の無さは国交の際に問題だ。など等。

「僕は、気安すぎて威厳がない。それじゃあ信用されずにただ舐められる。少しはローレシアの王子を見習えってよく言われてた」

 前にも述べたと思うがローレシア内での羽鳥の評価は、社交性に富む交渉術の何たるかを極めた優秀な王子。飛鳥も少しは見習えとよく言われた。

「隣の芝は青いという事か・・・・・・」

「え?」

 社交性の点では正しいか。人見知りの飛鳥が、まるで10年来の付き合いのように話している。

「いや・・・・・・・・・お前、それなりに王に向いてると思うぞ」

 

 何の気なしの言葉だったが、羽鳥はひどく驚いたように目を見開いた。

 それから、少しだけ寂しそうにありがとう、と笑んだ。

 ありがとう、でも・・・・・・

 

 

「仕えたい人が居るんだ」

 少し遠い目をして、大事そうに告げた。

「もう8年越しの願い。僕は僕の認めた人に全て捧げたい。どんな風にでもいいから。

 だから民衆の為になんて尽力できない。そんな奴が王になれると思う?」

 咄嗟に返事が出来なかった。

 おかげで、それが何処の誰か聞き損なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

仲間にして最初の何回かは、サマルくんはひたすら防御が基本。

お前そんなのでどうやって泉まで行ってきたんだよ、と誰もが思うところですよね。