「お疲れ、スープできたよ」

「ああ・・・・・・」

 

 何でこんなに手際がいいんだ?

 今、二人は野営の準備をしていた。

 一雨来そうだねと言われたので、飛鳥は羽鳥に指示されるままに辺りの木に雨除けを張っていた。

 四方にロープを渡して、撥水製の布を掛けて。初めての作業なので随分もたついたけれど、それだけだ。

 どうしてその間に、水を汲んで薪を集めて火を熾し、あまつさえ簡易とはいえスープなんぞ作れるのだ。

 内心首を傾げながら一口啜る。単純なものだが、疲れた体に温かさが染み渡る。

「どうやって作ったんだ?」

「固形食糧持ち歩いてるから。あ、干し肉とかもあるけど、炙る?」

「いや。水は何処から汲んできた?川の音はしないが」

「この近くに湧き水あるんだよ」

「薪も。俺は調度良いのを見つけるのは時間がかかったが」

「どこら辺の木が良さそうかは見当付いてたから」

「・・・・・・慣れてるな」

「ま、ね。この辺で野宿すんの初めてじゃないから」

 野宿自体は飛鳥も、今回の旅が初めてではなかったが。

「自分で設営したのか?」

「言ったでしょ、何度も家出してるって」

「・・・・・・馬を駆って街に行く程度の話かと」

「立場に甘えたくはなかったから。まっさらな状態から自分を鍛えないと、売り込みにも行けないもん」

 ・・・・・・意外なのだが、こいつは実はかなり真面目な性質じゃなかろうか。

 そう思いつつ、もう一口カップを啜る。あ、具まで入ってる。

「火種はどうした?湿気った空気では着きにくかっただろう」

「え?こうやってだけど」

 一本立てた指の先に、ポッと小さな火が灯る。

「魔法!?使えたのか!」

「あれ、言わなかった?」

「聞いてない!戦闘中も使わなかったじゃないか、剣も頼りないくせに」

「うっわ、言い難い事をズバズバと・・・・・・攻撃手段として組み込むほど威力のあるのは使えないんだよ」

 容赦ない物言いに羽鳥が顔を顰める。

 しまった言い過ぎた。

「あ、いや、今は頼りなくともお前素早いし、もう少し経験を積んでコツを掴めば多分・・・・・・」

 フォローするのも苦手。

「いーよ実際頼りないし。えっと、回復呪文は使ってたんだけど、気付かなかった?」

「そういえば、手の怪我が治ってるな」

「君も怪我したら言ってね」

「ああ、頼んだ」

「うん、頼まれた」

 クスクスと屈託なく笑う様子に、引き摺ってはいないようだとホッとした。

 ロト直系のくせに全く魔法の使えない飛鳥は、少し劣等感を持っているのかもしれない。

「回復だけでも、使えるだけいい」

「ムーンブルクの王女くらいに使えたら、もっと良かったんだけどね」

 その言葉に、一瞬体が強張る。

 ポツポツと振り出した雨の音が、やけに耳についた。

 

 

 

「王女の事、好きなの?」

 突然言われて思わず吹いた。

「な、ななな何をいきなり」

「あー・・・・・・もういいや。分かったから」

 慌てる飛鳥に、羽鳥はカップを啜りながらひらひらと手を振った。

 

「話変わるけど、目的地どうする?」

 今更何を言う。話題を変えたかったにしても強引だぞ。

 何しろ、雨の中の移動は危険なので野営してはいるが、もうローラの門がみえる所まで来ている。

「ムーンブルクだろ。だから関所まで来たんだろうが」

「さて君は、王子様か騎士様か?」

「何の話だ」

 そしてどうしてコイツはいちいち芝居がかっているのか。

「ちょっとした扉なら大抵は開けてしまえる、金の鍵と銀の鍵の噂は?」

「あ、ああ。聞いた」

「OK。その片方、銀の鍵はこの大陸にある。世界を救う事を目的とするなら、これを優先して手に入れるべきだと思う。本当に人々の事を考えるなら、今この時も魔物に襲われてる人もいるんだから、一刻も早く」

 立て板に水とばかりに、流れるように話す。

「一方、ムーンブルクを確認するのは・・・・・・・・・生き残りを探すなら早い方がいいけど、えっと、全滅したのは確かな情報みたいだし、それなりに時間も経ってるし、その・・・・・・」

 立て板が横板になった。

 

 

 本格的に降り出した雨が、激しく天布を叩く。

「絶望的だと?」

「・・・・・・・うん。でも、自分の目で確かめたいならそれでも良いと思う。判断は任せるよ、勇者様」

「そう呼ぶという事は、お前は鍵を急ぐ方がと言っているか?」

「とは限らないよ。100年前ロト三国を興した竜の勇者は、竜王を倒すよりもローラ姫救出を急いだ」

 それもまたセオリーでしょ。と淡々と告げる。

「不特定多数の民衆を思うは王族。1人の大事な人を守るは騎士。どうする?」

 どうする勇者様、ともう一度問われた。

「その・・・・・・」

「ん」

「多分な・・・・・・」

「うん」

 話し好きなだけでなく、聞き上手でもあるらしい羽鳥が、余計な事は言わずに促す。

 

 彷徨わせた視線の先で、ローラの門は雨に煙り、その輪郭を滲ませていた。

 

「確かめて、実感するまで。それまで俺は王族にも勇者にもなれない」

 ずっと焦っていた心は、世界を救うよりもそれが願いだったのだと、やっと気付けた。

 

 

 

 

「うん、わかった。雨が上がり次第ムーンブルクへ急ごう」

「失望したか?」

「安心したよ。僕も個人的理由って言ったろ?僕も蝶子好きだもん」

「好っ・・・・・・・・・し、親しいのか?」

 異性に対してサラリと告げた言葉に、動揺。

「あ、僕君の事も好きだよ?」

「質問に答えろ!」

「うん、可愛い子だよね。10年くらい会ってないけど」

「10年・・・・・・・・・」

 飛鳥と同い年の羽鳥は当時5歳、彼女に至ってはひとつ下なので4歳の時の話か。

 いや、だからといって安易に考えてはいけないのだが、しかし。

「そっちはもっと会ってる?美人になってた?

 聞くまでもないか、君のお姫様みたいだし。楽しみだな。・・・・・・無事だと、いいね」

 ポツリと付け加えた言葉は、慰めではなく本音だろう。

「・・・・・・ああ」

 

 ピークを過ぎたらしい雨は、どこか物悲しい音色を奏でていた。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

実際にプレイ中、ムーンとのレベル差が開くのが嫌だったので、鍵は後回しにして大陸越えをしました。で、ムーンペタで装備を整えた。

だって飛鳥だし。ちょーこを優先させるべきでしょう?サマル羽鳥は既に羽鳥だけど、飛鳥はちょーこが絡まないと飛鳥じゃないですね。まだまだローレだ。ああでも飛鳥を飛鳥ちゃんと呼ばない羽鳥もまだ完全に羽鳥ではないなぁ(なんのこっちゃ)

DQ1の主人公の表記に迷いました。一般的にはアレフですけど、ゲーム中では公式でない。ゲームで名前の出ないキャラは名前出したくないんですよ私。

サイトによって、ローラ姫の夫、竜殺しの英雄、竜退治の勇者等など。後は好みですよね。そんなわけで好みで竜の勇者に決定。。

『立て板に水』って表現はよく聞きますけど、対で『横板に雨垂れ』ってあるんですね。初めて知りました。早速使いたくなるのが物書きのサガですね。