近藤英隆 コラム パンチを打つ飯田覚士選手



ボクシング界でよく使われている言葉の意味について考える


4 強いパンチを打つには?(その2)


もしも、屈筋(上腕二頭筋や上腕筋)に少しでも力が入った状態で関節を伸ばそうとすると、筋肉は屈筋と伸筋が共縮(拮抗関係にある伸筋と屈筋が同時に収縮している状態)してしまい、関節は「力み」の状態になってしまい、腕を伸ばすためのエネルギーのロスとなり、ひどい時にはロボットのようにぎこちない動きになりがちです。よくある例ですが、たまたまいいパンチが相手に当たり、ここで一気に倒しに行きたいというときに体が力んでしまい全然腕が伸びなくなり、相手が今にも倒れそうなのにスピードのあるパンチが打てなくて、ゴングが鳴りインターバルの間に相手がダメージから回復している事がボクシングの試合では少なくありません。歯を噛み締める筋肉は屈筋(咬筋・側頭筋・内側翼突筋等)です。歯を強く噛み締めながら腕を早く伸ばそうとしてみてください、これが力みです。肘以外の屈筋を使いながら肘の伸筋を使おうとしても肘の伸筋にも力が入ってしまうことが自分の体でも試すことが出来ます。

また、オリンピック陸上短距離の選手が走っている姿を観察すると、笑ったように口を開け下あごをリラックスした状態で走っているのに気付きます。これは、歯を噛みしめた状態では屈筋に力が入ってしまい脚が伸びずらくなってしまうためリラックスした状態で走っているのです。高いお金をかけて噛み合わせを調正したプロ野球選手やプロゴルファーが、調整後の試合が楽しみだとコメントしている記事をスポーツ新聞でよく見かけます。しかし、これらの選手のほとんどが調整のためにパフォーマンスが上がっているはずなのに、しばらく調子や成績が上がらない状況が続きます。私はいつもこのような記事を読むと、しばらくは調子が悪いだろうなぁと思い、結果も残念ながらその通りになってしまうことがほとんどです。

ではなぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか?噛み合わせを調整することで屈筋に力が入りやすくなるのですが、伸筋は屈筋が優位になるかわりにパフォーマンスを低下させてしまっているのです。調整を行ったことで、腕や足を伸ばしたりする動作の時にも歯を噛みしめてしまうのです。しかし、すべての選手がこうなってしまうのではなく、フック系主体のボクサーは、マウスピースを調整することにより屈筋に力が入るため、パンチ力を増すことができます。

さらに、パンチのインパクトの瞬間には屈筋に力を入れるために、歯をかみ締めることになり、確かにかみあわせがうまく合わさっているほうが固いこぶしを作ることができるのです。ボクサーがあの選手は「こぶしが固い」といわれるのは、このような理由からなのです。

拳を強く握りながら手首を手の平側に曲げ、さらに小指側に曲げた状態で腕を早く伸ばそうとしてみてください。前腕部の屈筋(前腕の屈筋群・尺側手根屈筋)に力を入れた状態では早く腕を伸ばす事が出来ません。しかし、パンチが相手に当たる瞬間に前腕の屈筋に力を入れることでブレーキングを行いやすくし、さらにインパクトの瞬間に拳を固めないと今度は手首を固める事が出来ずに手首や拳を痛めてしまいます。





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3 強いパンチを打つには?
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