近藤英隆 コラム 飯田覚士選手が世界チャンピオンになったとき


心と腰痛の関係~なぜ腰は痛むのか?~

8 スポーツ選手の腰痛

私は一般の人はもとより・スポーツ選手を多く治療を行っています(10年前はそうでしたが、今は本当に痛みが強くて生活に支障を来たすような患者さんに俄然ファイトがわいています(笑)。接骨院に来られる腰痛患者さんの治療をしていて気がついた共通点があります。それは、こちらから聞かずとも、現在ストレスを受けているであろう話を患者さん自らが話してくれることです。

東京大学の石井直方教授が筋肉痛について色々と書かれているのですが、疲労が原因で腰痛になったと訴えてくるスポーツ選手は多いです。筋肉痛のメカニズムに関する古い説に、「乳酸説」があります。
これは、高強度の運動によって筋で生成された乳酸が筋肉痛の原因であるとするものです。
確かに、筋の中にある化学受容器は、乳酸や水素イオンなどのさまざまな物質を受容し、「痛み」感覚を生じさせます。
運動直後に起こる筋肉痛(筋が重く、だるく感じる)にはこれが関係している可能性はありますが、遅発性筋痛(運動直後に起こる筋肉痛を遅発性筋痛と呼びます)が起こる頃には、乳酸などの代謝物質は筋から完全に除去されていますので、この説はありえないということになります。

一方、重い負荷を下ろすなど、筋が伸張性収縮(筋肉が伸びながら収縮している状態)を繰り返すと、強い筋肉痛が起こります。
このとき、筋線維に微細な構造的損傷が見られること、筋線維内のタンパク質(筋損傷マーカー)や、炎症反応によって発現するタンパク質(炎症マーカー)が血漿中に現れることなどから、「伸張性収縮による筋線維の微細な損傷に伴う炎症反応によって筋肉痛が起こる」という説が生まれ、説となって多くの研究者に支持されています。

この説はそれなりに説得力があり、筋肉痛に関する質問を受けたときには、これを説明するのが常でしたが、完全に納得できるというものではありませんでした。
まず、筋肉痛に関わる研究の多くが、「筋を壊す」ことを前提にしているような、過激な伸張性負荷を課していることが問題です。石井先生の研究室では、ラットに伸張性トレーニングを負荷するモデルを使って研究をしているそうで、ラットに対して効果的に筋肥大を引き起こすような通常の負荷強度を加えても、明確な筋損傷や、著しい炎症反応の亢進は見られないそうです。ヒトの場合にも、筋損傷に至らないようなマイルドな運動が筋肉痛を引き起こすこともあり、強い運動と無関係に、「肩こり」のような筋肉痛に類似した現象も起こります。
さらに、筋肉痛は持続的に起こるのではなく、筋を圧迫したり、動かしたりしたときにのみ起こります。

新しい動物モデルを使っての研究で、「遅発性筋肉痛」に関する研究が十分に進展してこなかった理由のひとつに、筋の構造分析や生化学的分析を存分に行える動物実験モデルがなかったことがあります。
動物は「痛い」と言ってくれませんので、どの程度筋肉痛が起こっているのかを知ることができません。
ところが最近Mizumuraらのグループが、ラットの後肢筋に針で圧迫を加え、どのくらい強く圧迫したときにラットが脚を引っ込める反応を示すかで遅発性筋肉痛を数値化するモデルを用い、興味深い研究結果を続々と報告しています(Muraseら、2010、など)。

筋肉痛に関する新たな仮説は、この動物モデルを用いた研究で、伸張性筋力発揮を繰り返した後に、確かに筋肉痛が起こることがわかりました。
ところが、遅発性筋肉痛を示した動物の筋を調べると、筋線維の損傷も、炎症反応も起こっていない場合が多く見られました。
その代わりに、ブラジキニン(BK)、神経成長因子(NGF)などの発現増加が見られ、特に、NGFの抗体を与えてそのはたらきをブロックすると、筋肉痛の発生が抑えられることなどもわかりました。これらの結果に基づいて、Mizumuraらは、次のような仮説を提唱しています:1)伸張性収縮によって筋線維からATPやアデノシンなどが漏出し、これらが血管内皮細胞からBKを分泌させる;2)BKは筋線維にはたらき、筋線維からNGFを分泌させる;3)NGFは筋内の機械刺激受容器(圧受容器)にはたらき、その感度を上昇させる;4)その結果、通常では圧受容器を刺激しないような軽度の圧迫や筋収縮にも圧受容器が過敏に反応し、痛みが生じるという説です。

筋肉痛はひとつではない?この仮説は、まだ細かい点で検証の余地を残していますが、定説にまつわるさまざまな疑問点を見事に解消してくれる点で、きわめて魅力的に思います。この仮説が正しければ、遅発性筋肉痛と筋の損傷・炎症には直接的な関係はないということになります。一方、過激な運動による筋の損傷が、別のメカニズムで筋肉痛を引き起こす可能性もあります。「遅発性筋痛」にもいくつかの種類があり、より細かい分類が必要となってくるかもしれません。

スポーツ選手の腰痛は、代謝を上げるようなマッサージが向いているということですが、マッサージをしても治らないような慢性痛になってしまうと筋痛とは違います。学生なら、部活動での人間関係で悩んでいたり、受験期の学生もスポーツなどしていなくても、プレッシャーのかかる時期になると腰痛にかかりやすいです。働き盛りの患者さんであれば、仕事でのストレスの内容について、愚痴を聞くことが多いです。ご高齢の患者さんからは「もう何時死んでもいい」と、聞かずとも話し始める患者さんが多いのですが、自分から何時死んでもいいと話す人ほど、死に対する恐怖が強いからかもしれません。

もちろん、一線で活躍しているプロスポーツ選手も同じです。腰痛になる時は、スランプに陥っていたりします。プロスポーツ選手だから、ポジティブな考え方が出来ているとは限りません。

ネガティブな考え方の一流スポーツ選手もいます。そういった選手ほど腰痛になりやすい印象があります。ネガティブな選手でも調子がいいときには、腰痛にはなりにくい印象があります。腰痛で接骨院に通院中のスポーツ選手に対してはカウンセリングが必要な状態にあることが多く、出来る限り選手の何気ない言葉にも耳を傾けて話を聞いてあげることが大切だと自院のスタッフには言い聞かせています。

ポジティブに物事を考える事が出来る選手は、腰痛になりにくいと感じているのは、勿論私の経験からの私見ですが、子供から大人に至るまでスポーツが腰痛の原因だと思い込んでいるだけで、実はスポーツをしているから腰痛になりやすいと言うことはあまりないのです。ただ思春期に起こる腰椎分離症やスポーツにし過ぎによる疲労骨折などは思春期に多いスポーツ疾患なので必ず超音波画像診断装置を使って患部をよく観察をして、MRIやCTのような精密検査が必要な場合も多く提携している病院での検査をする必要が有ることも多く、分離症が疑われる時には分離しているかどうかを確認してから治療するようにしています。

今回、日常的によくある腰痛の話を、私が治療したスポーツ選手を例にとり、私のストレス性の腰痛に対する考えをお話してみたいと思います。





トップページに戻る コラムメニューに戻る 前のページに戻る 次のページに行く

コラムメニューへ

7 緊急性がないものの
注意すべき腰痛 へ