近藤英隆 コラム 飯田覚士選手が世界チャンピオンになったとき


心と腰痛の関係~なぜ腰は痛むのか?~

14 画像診断による呪縛

若田接骨院に来院する前に、整形外科で診断を受けてから来る患者さんもいますが、厄介なのはこの「画像による呪縛」によって治りにくくなってしまっている患者さん達です。私の話よりも、画像診断のほうが患者さんに与える影響は大きいです。

MRIでヘルニアが見つかった人は、それを知ってしまったことで呪縛から開放されなくなくなってしまうのです。これが本当に厄介なんです。                       

勿論、椎間板ヘルニアと診断された方が、すべてヘルニアの診断は関係ないと言っているわけではありません。本物のヘルニアの人もいます。私が言う本物のヘルニアとは麻痺が起こっている人のことです。

椎間板ヘルニアの図

これは椎間板ヘルニアの図です

椎間板ヘルニアは突出しますと神経の周りに炎症が起きます。

突出による単純な炎症による先程のメカニズムにより痛み、そして椎間板の中から色々な物質が漏れ出てきて、これが神経に作用して痛みが出ます。


慢性腰痛の発生機序

この炎症性の発痛物質と椎間板性の発痛物質が漏れてきて、

腰椎組織の感覚受容器の興奮性を亢進、あるいは感受性を増大させ、これが慢性的な腰痛の1つのメカニズムであるという事が言えます。

本物のヘルニア(あえてそう言わせていただきます)の患者さんが注意すべきことは、腰痛ではありません!
椎間板の後方には、脊髄という神経の束が通っていますので、腰部の椎間板ヘルニアによって脊髄が強い圧迫を受けて脊髄やその先の末梢神経が損傷されます。そうすると、下半身の機能が障害されてしまいます。これが一番怖い症状です。下半身の機能障害とは、足が動かなくなったり、排尿の調節ができなくなったりするわけです。また、この脊髄への圧迫がごく軽ければ、足がしびれる程度の症状になります。

坐骨神経痛に代表される神経根性疼痛は、椎間板ヘルニアなどにより神経根が刺激されることにより生じます。ただし、正常な神経根を圧迫しても疼痛は発生せず、炎症などによる障害神経根あるいは後根神経節(DRG)の圧迫により痛みを引き起こすと言われています。このような痛みの発生機序を異所性発火(ectopicfiring)と呼びます。異所性発火は、先に述べた椎間板由来の発痛物質によりもたらされます。また、交感神経が後根神経節の周囲に枝を伸ばし(sympatheticsprouting)、交感神経活動が疼痛を誘発することも持続性の異所性発火に関与しています。

異所性発火とその他の痛み

椎間板ヘルニアの症状として腰痛がある場合、後屈で腰の痛みが増悪し、臀部や下肢の坐骨神経痛を伴うことが多いのが特徴です。ただ、坐骨神経痛があると椎間板ヘルニアと診断されていることが多く、坐骨神経痛は股関節周囲の筋(中殿筋や梨状筋)が硬くなった時にも症状が現れます。私が治療して簡単に治ってしまうのは椎間板ヘルニアではなく、トリガーポイントとも呼ばれる筋の緊張による坐骨神経痛の場合です。

麻痺の様な神経症状がある人は、椎間板ヘルニアだと言ってもよいと考えています。正常な神経を圧迫しても痛みは続きません。圧迫の程度が強かったり長引いたりすれば麻痺は起こりますが、痛みの原因に直接はなりません。神経が炎症を起こしていると圧迫により痛みが出ると考えています。炎症が治まれば痛みは取れます。全く動けないような痛みに襲われて入院するようなことになったとしても、1ヶ月も安静にすれば炎症による痛みは消えます。手術しても椎間板ヘルニアの再発率を見れば大きくは変わりません。

単球は血管外の組織に到達すると大きな食作用を有する細胞となり、大食細胞(マクロファージmacrophage)と呼ばれます。マクロファージは結合組織内に広範囲に分布し、また肝臓(kupffer細胞)、脾臓、リンパ組織(洞組織球)や肺(肺胞大食細胞)等の臓器内で集団を作って分布しています。マクロファージは免疫学的に活性されたT細胞(ヘルパーT細胞)からのサイトカイン(INF-γ)、またはエンドトキシン等の非免疫学的刺激により活性化されます。急性炎症では刺激物質が除去され、作用物質が分解されるとマクロファージは最終的には死ぬかリンパ管を通って消失しますが、慢性炎症に移行した場合はマクロファージの集積は持続し、Tリンパ球と相互に刺激しあっています。

日本ではかなりの確率で椎間板ヘルニアの手術が行われていますが、海外でのヘルニアの手術の件数を比較すると、確実に日本は手術の件数が飛び抜けて多いです。不幸にも飛び出してしまった椎間板ヘルニアは、マクロファージが食べてくれるので、将来はヘルニアの部分がなくなることが期待できるのです。手術した人と、しなかった人と比べた場合にも安静の期間に若干の差があっても、再発率は大きくは変らないのであれば、また痛みだけで麻痺がないのであれば手術はしなくても治ると考えています。





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