この様に強く長くストレスがかかると、自律神経系の交感神経が優位に働き、抗ストレスホルモンが血液中にたくさん出て、ストレスに適応しようとします。これらの作用によって、後に筋肉が血流不足になると、痛みが首や肩、腰から足にかけて出る事があります。腰痛の原因は、ストレスによる自律神経障害による交感神経の作用と、ストレスによるホルモン系の副腎が過剰に働くことで、副腎が腫れているのではないか?と私は考えています。 副腎の働きが悪くなると、筋肉のエネルギー源であるATPが効率よく産生できず、機能的低血糖状態になり、全身の筋肉、特に下半身の筋肉が機能しにくくなり、足が重だるいような腰痛を訴える人が多くなるのではないかと考えています。 慢性的なストレスが長く続くと、自律神経障害や副腎が過剰に働くことで腰痛や肩こりの他に、ふくらはぎがだるくなり、対光反射が鈍くなることで太陽がまぶしく感じたり、静電気が起きやすくなったり、特に膝の内側や足の付け根あたりに痛みが出易くなったりすることが経験的によくあります。これらの部位が同じように痛くなったりする症状を持った患者さんが多く居ます。 このような時は、痛くなった所がそれぞれ全て悪くなったとはとても考えにくく、この様な症状の時、多くの患者さんは病院にかかると「不定愁訴」(ふていしゅうそとは、「頭が重い」、「イライラする」、「疲労感が取れない」、「よく眠れない」などの、何となく体調が悪いという自覚症状を訴えるが、検査をしても原因となる病気が見つからない状態を指します。患者さんからの訴え(主訴)は強いが主観的で多岐にわたり、客観的所見に乏しいのが特徴とウィキペディアに紹介されています。自律神経失調症と診断されることも多く症状が安定しないため治療も難しく、抗不安剤の投与やさまざまなカウンセリングが行われています。 なお、この状態の時は心療内科でカウンセリングを受けてストレス因子が見つかった場合は適応障害と同様の治療を受けることになります(「適応障害の可能性あり」とされ病名がつかない場合はある)。先進国であっても、ビタミン欠乏症をはじめとする必須栄養素の欠乏症が原因で起きる不定愁訴は、体力の無い子供、高齢者に見られます。 結局は腰痛の原因はなんだかよく分からないことが多く、レントゲンで痛くなった部位を撮って「骨には異常ありません」と言われ、飲み薬や湿布を貰って帰って来るのです。自律神経障害の背景にある『心の障害』には、ほとんど具体的な処方がされていないのが現状です。一般の腰痛患者の中で腰痛以外にも、いろんな所が痛くなるような人が多いのは何故でしょう? |
もしかして、私も・・・と、コラムを読んで思い当たる人もいませんか? |
自律神経障害やホルモン系の異常が原因の腰痛は一般の人たちにも頻繁に起こっています。ストレスが原因で循環器系の障害になったり、胃潰瘍になったりする事があるのはよく知られていますが、腰痛が長期的なストレスや短期的に強いストレスの反応で起こっていることはあまり知られてないようです。西洋医学でもストレスが原因で病気が起こると考えていますが、腰痛は構造的な問題で起こり、精神的なストレスで起こるとは患者さんにはあまり説明されていません。それでも、心身症の症状の一つに腰痛と書かれていますし、最近では、理学療法等の腰痛に関する本には、心理学に関する内容の記載がふえています。 東洋医学では昔から、精神的なストレスから病気になると考えて治療しています。東洋医学では、精神的ストレスは肝臓に負担をかけると説きます。ストレスで胃が痛くなるのは、肝臓で血液が鬱血(うっけつ)したために胃が虚血になって胃が痛むと考えています。ここでまた少し難しい話をしますと、東洋医学の理論では「陰陽五行説」と言うものがあって、肝は木性に属し、腎は水生に属します。水は木を育てます。そこで肝が亢進すると腎もそれだけ働かなければなりません。精神的なストレスで肝が亢進すると、腎すなわち副腎に負担がかかるわけです。このようなときの事を「肝実腎虚症」と東洋医学では言っています。 ここに上げたこと全てが当てはまる状態にあった飯田君には、副腎という抗ストレスホルモンを分泌している臓器に相当な負担がかかっていたと想像します。そして自律神経系の働きでは、交感神経の過剰な活動が続いていた訳です。 ここまでに書いた内容を読んで頂くとご理解いただけるのではないかと思います。「燃え尽き症候群」と「激しい痛みの腰痛」が関係あるのではないかと私は思ったわけです。バーンアウトとは、ストレスが心に与えたダメージで、心のダメージでも腰痛になる事を、慢性の腰痛で悩んでいる人に知って欲しいのです。ちなみに、失恋は骨折と同じくらい心に傷を負うそうです。要するに家族との死別やペットロスなどが原因でうつ病になりそうなことが起こったときに起こりやすいわけです。腰痛になった本当の原因に気がつくことが出来れば、腰痛の治療を早めることが出来ます。 飯田君はチャンピオンに成れたにもかかわらず、日常生活でも階段の昇ることさえ大変になってしまっていたのです。 引退した新井田選手とダブらせて考えてしまいます・・・ その後、飯田君は徐々に回復して、再び動けるようになるのですが、完全な回復には結構時間がかかりました。初防衛の井岡選手との試合まで、身体が思うように動かず点滴を射ちながら、ヨックタイ戦の前と同じように思うようなトレーニングが出来ないまま、再びリングに上がったのでした。この時は、オーバー・トレーニングが原因かと思っていたのですが、今思えばバーンアウトから完全に回復していなかったのでしょう。 飯田君が世界チャンピオンになれたときの腰痛の話に戻しますと、この様なタイプの腰痛には、どんなに素晴らしい治療も気休めにすぎません。腰から両殿部~両下肢に痛みとシビレを伴い、痛みのために歩行困難な状態が発症してそれが2週間位続いていました。飯田君が経験した腰痛で私は、椎間板ヘルニアでもない腰痛が、こんなに強く長く続くのを見たのは初めてでした。その後は徐々に痛みは消失して1ヶ月程で普通に歩けるようになり、軽いジョギングが出来る程度になりました。 今なら笑いながらこの時のことを話せますが、当時は全く痛みが引かずに、かなりナーバスになっていました。少しでも痛みが和らげばとアイシング(氷などを使って冷やす事)やマニピュレーション(手で触れて治す手技療法)を試みましたが、痛みは変わらなかったのです。そして、病院で抗炎症・鎮痛作用のある飲み薬や座薬を処方して貰っていましたが、痛みが引くどころかしばらく痛みは徐々に増していました。せっかく世界チャンピオンになる事が出来たと言うのに、どうしてこんな事になってしまったのだろうと、喜びは半減してしまい、落ち込むほどになっていました。 私はこの時ほど腰痛の治療に対し自信をなくしたことはありませんでした。しかし、世界チャンピオンになれたからこの程度の腰痛で済んだのではないかと思っています。もしこの時負けていたらどうなっていたかを考えると、背筋の凍るような思いがします。 それでも今の私ならこのような場合、焦ることなく対処することが出来ます。痛みの原因は構造的な問題ではないのです。つまり、整形外科や接骨院、気功等の代替医療で治る症状ではなくて、心と身体を休ませるしか方法は無いのです。人里離れた温泉にでも行ってゆっくりと入ったりするといいでしょう。つまりリラックスを心がけるようにすれば必ず治ります。焦って、いろんな所で違った説明をうけながら治療したりするとかえって長引きます。 |