近藤英隆 雑誌 Training Journal 2007.1


投球障害を予防するための若田接骨院の試み3
~野球選手のコンディショニングについて考える~


現在、日常的に行われている肩関節の運動療法

 肩関節の障害に対する運動療法は、20年ほど前からインナーマッスル(腱板)のトレーニングを中心に行われてきた。そして、現在もスポーツ障害を起こした 選手が通院するような医療機関において、チューブを使ったトレーニングを教えている。もちろん現在でもそれが大切なトレーニングであることに変わりはな い。そしてさらに、最近ではインナーマッスルのトレーニングと併せて、バランスのよい肩甲骨周囲筋群のトレーニングも重要視されており、多くの医療機関な どにおいて投球障害に対する全身的な運動療法が指導されるようになっている。したがって、現在では投球障害を予防するための運動療法を本格的に行うトレーニングメニューも多く紹介されており、知識が豊富な指導者や選手が増え始めてきた。その反面、トレーニンクに結構な時間がかかる傾向となっている。練習後に本格的なトレーニングをするには、疲労していることもあり、選手にとって非常に負担が大きいと思われる。
 練習を休むには至らない程度の肩や肘の痛みがある選手、練習を見学することでレギュラーから外されることを心配するような選手、指導者が練習や試合から外せないような主力選手は、本格的な運動療法を行う時間を取れないため、多少の痛みでは専門的な医療機関を受診することが難しい。
 一般的なチューブやダンベルを使ったインナーマッスルのトレーニングは短時間で行うことができ、しかも、特別高価な用具を必要としないこともあって、練習後に行う選手が多い。できれば必要なトレーニングを絞り込んで、短時間で効率よくトレーニングをする工夫も必要であろう。
 最近の傾向として、投球障害を起こして来院した選手の肩関節を評価してみると、インナーマッスルのトレーニングはすでに行っており、インナーマッスルがしっかりしているにもかかわらず投球障害を起こした選手をみることが多くなっている。


一般的に行われているトレーニングの問題点

 チームに専門的なトレーナーがおらず、医療機関にもかかっていないために正しいトレーニング法を知らずに、自己流で間違ったトレーニングをやりすぎた結果、さらに調子を悪くしている選手もいる。たとえば、抑制され弱化している筋肉(weakmuscle)はより弱化してしまい、硬く縮んでいる筋肉 (tightmuscle)がさらに硬くなった選手をみることがある。
 下肢で言えば、硬く、短くなりやすい筋群は腸腰筋、大腿筋膜張筋、大腿直筋、腰方形筋、恥骨筋、薄筋、内転筋群、ハムストリングス(とくに大腿二頭筋)、ヒラメ筋、腹腹筋、梨状筋、股関節の外旋筋群がある。
 そして、抑制され弱化しやすい筋群としては、大殿筋、股関節内転筋群、股関節内旋筋群(小殿筋と中殿筋)、外側広筋、中間広筋、とくに内側広筋斜頭、足 関節の背屈筋群(とくに前脛骨筋)がある。一般的に内転筋群は短く、硬くなるが、それらは習慣的に短縮位にある筋は弱化するという「tightnessweakness」現象のためにしばしば弱化していることが多く、野球選手においても例外ではない。投球動作や打撃動作において内転筋は 疲労しやすいために、さらに硬くなりやすい。
 したがって、選手はトレーニングの動作の中で、自然lこ硬く縮んでいる筋肉(tightmuscle)はストレッチするような動きでトレーニングをするようになるが、抑制され弱化している筋肉(weakmuscle)をうまく使うことができない。つまり、それぞれの筋肉の緊張度がアンバランスな状態でトレーニングを行うと、硬く縮んでいる筋肉が、抑制され弱化している筋肉を代償する動きとなる。つまり、硬く縮んでいる筋肉をストレッチするような動きとな り、弱化した筋肉は動きが小さくなる。そのため代償して硬く縮んでいる筋肉に効いてしまい、さらに筋バランスを悪くさせている。


野球選手にみられる肩甲骨周囲筋の筋バランス

 オーバーヘッドスクワットを行って片方のバーが下がったり、前方に傾く選手をみることがある。下肢の筋群と同様に肩甲骨周囲筋群においても 「tightnessweakness」という現象がみられる。一般に姿勢が悪く猫背のような姿勢になっていると硬く、短くなりやすいのは大胸筋、小胸筋、僧帽筋上部、肩甲下筋、肩甲挙筋であり、野球選手においてはとくに投球側の大胸筋、小胸筋、鎖骨下筋の過剰発達がみられることが多く、肩甲骨は前方に 突出した姿勢となる。それによって抑制され、弱化しやすい筋肉は僧帽筋下部、菱形筋群、前鋸筋、棘上筋、棘下筋、小円筋となる。非投球側においてもこのような傾向はみられるが、とくに投球側にこの傾向が強くみられる。
 肩甲骨周囲筋の弱化は投球時に肩甲骨の外側への移動が大きくなり、外旋、外転時に上腕骨骨頭が前方の関節唇の前方にストレスを加え、インピンジメントの原因にもなりやすい。Part1において、このような筋バランスが原因で姿勢的な問題が起こり、投球障害を招きやすくなることはすでに述べた。
 このように肩甲骨周囲筋の筋肉がアンバランスな状態で、サイドレイズやショルダープレスを行わせると、僧帽筋上部の硬いほうの腕を挙げる動きがぎこちない(写真1~2)。つまり、代償動作によって本来の主働筋である三角筋よりも僧帽筋上部に効いてしまう。そのため、僧帽筋上部が筋肥大して硬くなりやす く、肩甲骨の上方回旋が(トレーニング前よりも)うまくできなくなる。したがって、筋バランスが悪い状態でサイドレイズなどのトレーニングを行うと、 フォームも悪くなり、肩甲骨周囲筋の筋バランスがさらに悪くなる。このような状態でトレーニングを続けていると、投球時においてもコッキング時にうまく肩甲骨の上方回旋ができなくなり、肘が下がる原因にもなる。このようなことから、トレーニングによってより投球障害を招きやすくなっている選手をみることも ある。


写真1 サイドレイズ、降ろしたとき 写真2 サイドレイズ、挙げたとき
写真1 サイドレイズ、降ろしたとき
僧帽筋上部が、左右不均等となっている
写真2 サイドレイズ、挙げたとき
片側の僧帽筋上部が硬いため、右肩をすくめるように挙げる


肩甲上腕関節の機能的なトレーニング

 選手に対して「がむしゃらにインナーマッスルのトレーニングを続けることで、かえって症状が悪化することもある」と機能解剖を説明し、何のためにこのようなエクササイズをするのか、この動きはどの筋肉に効いているのか、何を注意するべきかを理解したうえでトレーニングをする必要がある。
 当院では、投球障害を予防するため、投げる際に伸張性収縮が行われる外旋筋(棘下筋・小円筋)を中心に肩甲骨周囲筋、体幹、下肢の筋群のトレーニングを指導しているが、投球障害肩の一般的なトレーニングは多数紹介されているため省略させていただく。
 まずは身体のどの部位に問題があるのかを機能学的に評価し、とくにどの筋肉が硬くなり、どの筋肉が弱化しているのかについてファンクショナルテストを用いて全身的な姿勢観察をする。そして、機能障害を治すためには正しくトレーニングすることが大切であり、決してマニアックなトレーニングをする必要はない。そこで、具体的にどのような点に注意して基本的なエクササイズをする必要があるかを紹介する。


トレーニング中に正しいファイアリングシークエンスができているか

 ファイアリングシークエンスとは、ある動作をするときに活動する筋肉の順番を言う。たとえば、歩行時にみられる股関節の伸展ではハムストリングス-大殿筋-他側の脊柱起立筋(腰部)-同側の脊柱起立筋(腰部)-他側の脊柱起立筋(胸腰部)-同側の脊柱起立筋(胸腰部)という収縮の順序が正しい。
 しかし、大腿二頭筋が硬く機能亢進した状態で、股関節の伸展運動をすると、ハムストリングスの最も外側にある大腿二頭筋は、膝の屈曲と外旋の作用を持つために、膝が曲がってしまい、下腿が外旋してしまう。そのために正しい順序で収縮できずに股関節伸展時に、ハムストリングス-脊柱起立筋という順序で収縮 し、股関節伸展の主働筋である大殿筋の機能低下を起こしている。このことを踏まえて考えてみると、ピッチャーの投球動作では、前に踏み込んだ側の下肢のハムストリングス(とくに大腿二頭筋)、大腿筋膜張筋が遠心性収縮をして、軸足の腸腰筋でも遠心性収縮が行われている。そして、そのブレーキング作用によって下肢でつくられた力をうまく上肢に伝えることでボールのスピードを生み出している(写真3)。
 とくに試合期のピッチャーは連投することが多いため、疲労が下肢にも蓄積しやすく、大腿二頭筋や反対側の腸腰筋が過緊張している選手は多い。したがって、とくにピッチャーに正しいファイアリングシークエンスができていない野球選手をみることが多い。


写真3 投球時にハムストリングスと腸腰筋でブレーキング
写真3 投球時にハムストリングスと腸腰筋でブレーキング


大殿筋の促通とハムストリングスのストレッチを同時に行うトレーニング

 Part2で書いたように、たとえば片方の大腿二頭筋が機能亢進している状態でスクワットをすると、殿部は側方にスライドしてしまう。この状態でのスクワットは腰痛の原因になり、さらに筋バランスは悪くなり身体の各部位の機能障害を起こす原因となりやすい。
 両方の大腿二頭筋が機能亢進している状態においても、大殿筋が弱化していてうまく使うことができずに、骨盤が後傾した状態で体幹部が前に倒しにくい。し かも、腸腰筋が過緊張している状態でも大殿筋は弱化している。そのためピッチャーはとくに腰から上の脊柱が真っ直ぐに立ったようなスクワットになっていることが多い(写真4)。
 このような傾向がみられる選手は、硬く縮んだ大腿二頭筋をストレッチさせながら、弱化してしまった大殿筋を促通するようなトレーニングをする必要がある。そのためには、まず殿部を後ろに突き出して、膝が前に出ないようにしてスクワットをする。収縮する順序として、最初に大殿筋から遠心性収縮を行い、続いて脊柱起立筋が収縮し、最後にハムストリングスをストレッチさせるようにしゃがんでいく。ここで大切なのは、ハムストリングスが遠心性収縮となるような努力をさせないように、大殿筋を主体に促通させるようにスクワットをすることである。
 さらにアドバイスとして、膝が前に出ないようにスクワットをするためには、最大限骨盤を前傾させ、腰椎を前弯させて脊柱起立筋に力を入れ、体幹部の重心をできるだけ前に持っていく必要がある。しゃがむ際に膝が前に出てしまうと重心が前にきてしまうため、体幹部を前に倒せなくなり、骨盤が前傾しづらくなる。そのため大殿筋を伸ばすことができず、収縮力も弱くなる。
 したがって、ハムストリングスを伸ばしながら、しゃがんでいく際に膝が前に出る限界点で止めて立ち上がるようにする(写真5)。正しくスクワットをした後に腰部を前屈してみると、ハムストリングスが伸びやすくなっているのがよくわかる。
 試しに膝を前に出すようなスクワットを行うと、ハムストリングスは再び硬くなり前屈も制限されることが確認できる。スクワットと同じように殿部を後ろに突き出すようにデッドリフトをしても、大殿筋を促通しながらハムストリングスをストレッチさせることができる(写真6~7)。


写真4 膝が前に出たスクワット 写真5 膝を出さないスクワット
写真4 膝が前に出たスクワット
体幹部が真っ直ぐになっている
写真5 膝を出さないスクワット
大殿筋がストレッチされている

写真6 デッドリフト、挙げたとき 写真7 デッドリフト、降ろしたとき
写真6 デッドリフト、挙げたとき
大殿筋を意識する
写真7 デッドリフト、降ろしたとき
殿部を後ろに突き出すようにする


股関節外転時のファイアリングシークエンスについて考える

 投球時には前に踏み込んだ側のハムストリングスでブレーキングをしながら、大腿筋膜張筋と内転筋によって膝が外に開かないように踏ん張っている。もし膝が外に開いてしまうと(写真8)、投球時に肘が下がる原因となり、肩や肘の障害が顕著に現れてくる。
 股関節の正常な外転動作では大腿筋膜腸筋-中殿筋-腰方形筋という順序で収縮するが、大腿筋膜張筋が機能亢進すると収縮の順序が変わり、大腿筋膜腸筋- 腰方形筋という順序で収縮するために中殿筋は収縮する比率が少なくなり、そのために機能低下を起こす。さらに、腰方形筋が過緊張して腰痛の原因になってい る選手をみることがある。
 このような傾向はスポーツをしていない、一般の人において多くみられる。したがって、投球を繰り返すことでさらに大腿筋膜張筋か機能亢進し、中殿筋が弱化している傾向をみることが多い。このために腰痛を起こし、腰のキレも悪くなって、パフォーマンスが低下している選手も多い。
 ピッチャーが連投で疲労しているのは肩ばかりではなく、下肢の疲労から腕がうまく振れなくなっていることも多い。しかも、大腿筋膜張筋は膝が外に開かな いように遠心性の収縮を繰り返してブレーキングしており、さらに、大腿筋膜張筋の収縮時に内転筋も同時に協調して収縮しているため、疲労から大腿筋膜張筋が硬くなると内転筋も同時に硬くなることが多く、開脚も制限を受けることが多い。
 このような状態でスクワットを行うと、硬いところを伸ばすような動きになりやすいことから、膝が外側に開く動きになる。膝が外側に開くことで腰部もスライドしてしまう。したがってオーバーヘッドスクワットでこのような動作をみる場合には、中殿筋を促通しながら大腿筋膜腸筋、腰方形筋の柔軟性を高めるよう なトレーニングをする必要がある(写真9~13)。


写真8 極端な不良投球フォーム
写真8 極端な不良投球フォーム
膝が外に割れている

写真9 クロスランジ 写真10 クロスランジ 写真11 クロスランジ
写真9 写真10 写真11
クロスランジ
足を大きくクロスさせる

写真12 腰方形筋のエクササイズ 写真13 腰方形筋のエクササイズ
写真12 写真13
腰方形筋のエクササイズ
片足立ちでバーを持ち、一方の骨盤を上げながら同側の肩を下げる


肩関節の外転時におけるファイアリングシークエンスについて考える

 ほとんどの野球選手が少なからず肩甲胸郭関節や肩甲上腕関節のアライメント不良を起こしている。それは、インナーマッスルや関節包が不均等な硬さになることから前方に上腕骨がねじれ、そのことが原因となり、運動学的連鎖により全身的な姿勢に影響することもあるとPart1でも述べた。
 肩関節のインナーマッスルの硬さがアンバランスになり、肩関節のゼロポジションにうまく外転できなくなる原因として、投球相のリリース時にエキセントリックな収縮がインナーマッスルの中で外旋筋に加わり、一般に棘下筋は非投球側の棘下筋に比べ投球側の棘下筋が痩せて硬くなることは知られている。したがって、ピッチャーは投球側と非投球側との差異が著明であることが多い。同時に投球側の前鋸筋も筋力低下を起こして肩甲骨内側緑と下角が浮き上がり肩甲骨の下方回旋をみることが多い。そして、棘上筋は肩甲骨の下方回旋すると上腕骨もそれに伴い下方に変位して外転動作時にオーバーユースとなることについても以前紹介した。
 以上のことから、投球時のコッキングにおける外転動作においてファイアリングについて考えてみる。棘上筋が機能低下を起こしていると肩関節外転時に、初動では上腕骨が棘上筋の作用で、軽度外転位になり、そこから三角筋によってさらに外転している。それに伴い肩甲骨も上方回旋するため、前鋸筋、僧帽筋上部、僧帽筋下部などが協調して働く。したがって、もし棘上筋が機能低下を起こしていると、上腕骨の外転動作において初動時に棘上筋による外転動作が弱く、 代わって僧帽筋上部が代償して働く。さらに外転を繰り返すことで疲労から僧帽筋上部は過緊張を起こすことになる。
 このようなことが原因で、肩関節の外転時の主動筋である三角筋や肩甲骨周囲筋群の中も上方回旋時に働く前鋸筋、僧帽筋下部が機能低下をしているのをみることが多く、このような筋バランスにおいてファイアリングシークエンスを正常にするためには、主動筋である三角筋と肩甲骨を上方回旋させる前鋸筋、僧帽筋下部を促通しながら機能亢進した僧帽筋上部の柔軟性を高めるようなトレーニングをする必要がある(写真14~18)。


写真14 三角筋を促通するためのサイドレイズ 写真15 三角筋を促通するためのサイドレイズ 写真16 僧帽筋下部を促通するラットプルダウン
写真14 写真15 写真16
三角筋を促通するためのサイドレイズ
頭をベンチ側へ側屈させて行う
僧帽筋下部を促通するラットプルダウン
体幹をやや後方へ倒し、胸腰椎前弯させる

写真17 僧帽筋下部を促通するエクササイズ 写真18 僧帽筋下部を促通するエクササイズ
写真17 写真18
僧帽筋下部を促通するエクササイズ
しっかりと胸を張り、腰椎を前弯させて行う


投球時の加速期における肩関節のファイアリングシークエンスについて考える

 野球選手は投球時に上肢を速く振るためには広背筋、前鋸筋、大胸筋が主に働くが広背筋、大胸筋が機能亢進していると肩甲帯が前方にねじれ、上腕骨が前下方にねじれたような姿勢になることから普段の姿勢においても前鋸筋が短縮位になり機能低下を起こしていることが多い。このような状態で肩関節の投球時における伸展動作を行うとさらiこ、前鋸筋はさらに機能低下を招くこととなり、姿勢的な変化も強く現れるようになる。
 したがって、正しいファイアリングシークエンスをするためには、弱化した前鋸筋を促通しながら広背筋、大胸筋の柔軟性を高めるようなトレーニングを行う必要がある。前鋸筋を効率よく促通させるためには、僧帽筋上部の柔軟性と僧帽筋下部の協調した収縮も必要になることから、投球時のファイアリングシークエンスを考えるうえで、いかに肩甲骨の上方回旋動作をうまく行わせながら効率よく前鋸筋のトレーニングをすることが大切である。
 以上のことから初動において前鋸筋、僧帽筋下部を促通し最大に収縮できるように、うまく肩甲骨を上方回旋しながら大胸筋、広背筋、僧帽筋上部の柔軟性を高めるトレーニングを考えてみた(写真19~22)。


写真19 骨盤を前傾させながら、親指を先行させて腕を引く 写真20 骨盤を前傾させながら、親指を先行させて腕を引く
写真19 写真20
骨盤を前傾させながら、親指を先行させて腕を引く
肘屈曲位で肩外転135°からの最大屈曲

写真21 骨盤を前傾させながら、親指を先行させて腕を引く 写真22 骨盤を前傾させながら、親指を先行させて腕を引く
写真21 写真22
同じエクササイズを後ろからみたところ


成長期の子どもほど姿勢的な問題を抱えている確率は高い

 野球をしている成長期の子どもは、ずれてしまった重心を正中に戻そうと、運動学的な連鎖によって自分では気づかないうちに無意識に身体の各部位に力を入れてバランスを保つようになる。その代償として、姿勢を保つために働く姿勢筋は、さらに大きな力を必要とするようになる。
 それに対し歪みが少ない理想的な姿勢では、姿勢を保つための筋骨格系の働きが最小ですむ。つまり、運動学的に最大効率の姿勢となる。歪んでしまった姿勢は動作の効率も悪く、各関節に加わるストレスも大きくなる。疲労しやすくなっていることに気がつかないまま野球を続けていることが多い。成長期の子どもは、体幹の筋肉が未発達であることが多く、姿勢的な問題を抱えている確率は高い。
 当院を受診する子どもに付き添う親と一緒に、子どもの背骨が側弯してしまっているのを姿勢を観察しながら説明すると、ほとんどの親がショックを受ける。できれば体幹の筋肉を同時に協調させながら肩関節の弱化筋のトレーニングを行い、トレーニング時間を短縮させることも必要に思う。そのためには一度に多くの筋が関与する効率のよいトレーニングを行うことが大切である。その例が次の写真(写真23)で、クロスランジをしながら体幹をツイストし、かつ肩甲骨を外転させるように腕を伸ばす同時トレーニングである。


写真23 腹斜筋、前鋸筋、中殿筋、大殿筋の同時トレーニング
写真23 腹斜筋、前鋸筋、中殿筋、大殿筋の同時トレーニング


まとめ

 肩や肘の障害は症状をみてどの部位がどの程度の損傷をしているかを判断することも大切ではあるが、どうして痛くなったのか、その原因を特定することが大切である。何週間も練習を休んで、治療に専念して治したとしても、肩や肘の関節に加わるストレスの原因がわからないままに練習を再開すると、再び同じよう なストレスによって同様の症状を繰り返すことになる。
 練習を再開すれば痛くなり、休めば治る。これを繰り返して少しずつ野球から離れ、チームに溶け込みにくくなり、精神的にも落ち込んでドロップアウトして いく野球少年は多いと推測する。中学・高校の年代で、全国優勝を目指しているようなチームであれば必然的に練習量も多く、休みも少なくなることから身体に疲労が蓄積していることが多い。野球の場合はとくに同一方向に身体を捻るような動作が多いため、指導者は成長期である子どもの身体バランスをよく考えたトレーニングを心がけて、練習メニューを考えていく必要があるだろう。
 高校生になるとレジスタンストレーニングを取り入れることが多く、体幹の安定化筋群や肩甲骨周囲筋が発達していくために側弯の程度は多少なくなっているように思うが、先にも述べたように硬い筋肉をさらに硬くさせ、弱くなっている筋肉はさらに弱くなっていることが多く、やはり同じような傾向で身体がねじれ、歪んでいるのをみることが多い。
 バランスのよい選手はケガをすることが少なく、さらにスポーツのパフォーマンスも高い。このような選手は生まれつき身体のバランスをとるセンスがよく、身体バランスを考えたトレーニングやスポーツにおける動作を自然にバランスよく行っているように思う。
 したがって、指導者やトレーナーはこのようなことに注意を向けて練習メニューを考えていくことが大切であると考える。
 最後に投球障害の治癒過程において、メンタルな部分が姿勢や筋力に大きく影響するため、障害を起こした選手のモチベーションを高める技術がトレーナーや指導者、また、医療従事者たちにとって何よりも大切であると考えていることを付け加え、投稿を終わりにする。








投球障害でお悩みの方は、若田接骨院にご相談ください。
トップページに戻る 雑誌のページに戻る 接骨院のページへ