後藤の部屋

No.72「タクシーにて」

 外来の終わりに「後藤の部屋、読んでます。」と言われて「は、はあ、ありがとうございます。」と答えました。読んでもらっていると励みになります。

 猛暑が続き外を歩くのも危険なので最近駅からタクシーに乗っています。「松田整形外科までお願いします。」と伝えてしばらく走っていると、年配の運転手さんに「松田整形は腕いいのかね?」と聞かれました。これはチャンスです。ネットでの評価は当てになりませんが、リアルな口コミは重要です。「いい先生が多いみたいですよ。」と答えたら「俺、最近肩があがんなくてさ。やっぱ筋肉か神経だろうね。」と聞いてきたので「いや、肩なら関節が原因じゃないですか。」と気楽に答えていたら、「最近、手の先が痺れるんだよね。」「あ、それなら首からきているかもしれませんよ。受診して確認したほうがいいと思います。」痛くて上がらないのか、力が入らないのか聞こうと思ったところで玄関に到着しました。降りる時に「よかったら受診してください。」とお伝えしましたが、さてどうなりますか。

 「肩が上がらない」からいろいろな病気が思い浮かびます。五十肩が有名ですが、年齢関係なく肩が痛くて上がらない人はいます。最近人工知能(AI)の進歩が著しくて、なんでも聞けばほぼ適切に答えてくれます。試しにチャットGPTに「肩が上がらないのはなぜ?」と質問したら、私が言っていたのと同じような回答がありました。すごい時代になったものです。患者さんもAIを使っているのか、最初からレントゲンだけお願いしますと言われることも多くなりました。AIが医師にかかった方が良い場合を示してくれて、そこを確認するために来院されたものと思われます。

 時代の変化に合わせて仕事のやり方も変えていかねばなりませんが、AIが普及して患者さんが病気のことを勉強できるのはとても良いことです。アメリカでは医療費が高いせいか、患者さんがよく勉強していて、医学用語を使って堂々と治療法を医師と議論していました。これからはAIでより安全に、より納得の得られる医療が行われると期待しています。



2025年08月25日

No.71「脚がつるは68でいいの?」

 猛暑が続いていて、熱中症にならないように注意しないと危険です。汗をかくので脱水と電解質の乱れから、脚がつるという患者さんが多く来られます。脚がつるなら通常漢方の68番芍薬甘草湯でよく効くのですが、いつもそれでよいのかというお話です。

 女性の方が「最近脚がつるんです。」と来院されました。最近電子カルテの入力にも手間取ることも多くなり時間つなぎで「どこがつるんですか?」と聞いたところ「ふくらはぎの前の方です。」と。それはおかしい。普通はふくらはぎがつります。「戻してもまたすぐつるんです。」これは何かつる原因が継続していることを示しています。「普通ではありませんので一応血液検査をしましょう。」と言って検査を指示しました。

 脚がつるのは困るので、お薬として68番の芍薬甘草湯を出そうと考えました。「飲み続けると血圧が上がることがありますので、できるだけ飲まないでください。」と言ったところ「血圧は少し高めなので毎日記録をつけています。」とのこと。これは芍薬甘草湯を使ってはいけない病気があるかもしれないと考えました。電解質に異常があれば心電図に変化が出ますのでその場で脈を調べたところ不整脈はありませんでした。しっかり注意すれば芍薬甘草湯を飲んでもよいと判断して処方しました。

 68番芍薬甘草湯を飲んではいけない病気は①アルドステロン症②ミオパチー③低カリウム血症です。いずれも検査しなければわからない病気ですが、診察である程度推測することはできます。

 かえってきた検査結果を見てみるとカリウムの値が正常値以下なので低カリウム血症があることがわかりました。すぐに電話して漢方薬を飲まないことと、カリウムを多く含む食べ物(バナナなど)を食べるようにお伝えしました。他に原因があるかもしれないので再度受診をお願いしました。

 通常は脚がつる=68芍薬甘草湯でよいのですが、よく効くだけに注意が必要なお薬であることは間違いありません。余ったお薬をお持ちの方もあるでしょうが、いつもと違うと思ったら必ず受診してください。



2025年08月12日

No.70「歳をとると間違ってつながることがある

 暑い日が続きます。熱中症や頭がぼっとして起こす事故に注意しましょう。

 本を読んで目が疲れた時にメールが届きました。「やはりこの件はご希望の通り・・・」かねて気がかりだったことがうまくいったようです。早速関係先に問題が解決したと連絡してお茶を一杯飲んでもう一度メールと読んでみると「やはりこの件は慎重に検討し・・・」ええ!違うじゃん。何度読み返しても違う。仕方なく関係先に頭を下げて訂正の連絡をしたのですが、最初のメールは何だったのか。何が起こったのか。

 検討した結果間違ってつながったようだとの結論になりました。以前手の外科医をやっている時に切断した神経を縫ってつなぐことがあったのですが、神経を正確に縫合して元通りにしたようでも感覚を伝えるすごく細い神経は間違えてつながること、例えばJR線が東武線につながるようなことが起こります。やがて慣れて困らなくはなるのですが、触った感覚が違うのでしばらくは「何が違う」と不便を感じるようです。

 今回振り返ると目が疲れていて正確にメールの文章を読み取れていませんでした。読めなかったところを、暑さでぼっとしていた脳が適当にうめてしまった。もともと問題が解決すればいいのになと思っていたからでしょうが、勝手の都合の良い文章を作ってそれを事実のように記憶したようです。

 オレオレ詐欺とか電話でお金詐欺の話を聞きますが、騙される一つの原因に聞こえにくさから情報を自分で都合良いように間違えて記憶することがあるのかもしれません。子がトラブルで困っているのは都合は悪いことですが、本人にすれば滅多に連絡してこない子供が連絡してくれたことから、つながりやすいところにつながって騙されるのかもしれません。

 歳をとると若い時には想像もできなかったことが、面白いように起こります。子供の頃におじいちゃん、おばあちゃんが何か変なことやっているなと思っていたことがありました。自分がそうなるまでは理解できませんでしたが、今になってみれば納得できます。人間は間違える、特に歳をとると間違えることが多い。私も歳をとりましたので、間違えることが多くなります。間違いが起きないように、間違えても間違いに気づいてすぐに訂正できるように、何事も慎重に物事を進めていきたいと考えています。外来で時間をいただくことになるかもしれませんが、その分丁寧に診療しているとお考えいただきご容赦お願いします。



2025年07月28日
» 続きを読む