Chapter:0−2 風精ルフィーナ |
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「やばいな、寝坊しちゃったよ」 アルフは、水精の街アクアリスへ、空を飛んで向かって行っていた。 水の精霊クレイアとの出会いから数ヶ月が経った。今日はクレイアが友達の風の精霊を紹介してくれる事になっていて、昼頃にクレイアの家に集まる約束を立てていたのだった。しかし、昨夜眠るのが遅くなってしまった事もあってか、今朝目覚めた時には、既に日は高くなっていた。 「でも、どんな子なんだろ?僕よりも少し年下だって言っていたけど…」 クレイアの住むアクアリスとアルフの住む虹精の街「プリナス」とは隣同士の街だが、結構な距離があり、その間は深い森が広がっている。 アルフは、その森の上空を、自分の出せる最高速度で飛行しながらそんな事を考えていた。 しかし、そのために周囲に対する注意力が欠けていた。 「あっ!危ないっ!!」 いきなり飛び込んできた、女の子の声にアルフは声のした方を見た。しかし、よく確かめる間も無く、体を2つに折られそうな衝撃が脇腹に走り、一瞬にして意識が遠のく。 「うぐ…体勢を立て直せない…」 薄れ行く意識の中、次第に近づいて来る森と、同じように墜落していく少女の姿だけが、はっきりと見えていた。少女は完全に意識を失っているようだ。 「このままじゃ、僕もあの子も…何とかしないと」 意識の中ではそう思っていたが、体が言う事を聞かない。 そして、2人はそのまま森へと墜落していった… 「いてててて………」 アルフは何とか無事なようだった。鬱蒼と茂る木の枝がクッションの代わりになって、墜落の時のショックを軽減してくれたのだ。もし、木の枝に助けられていなかったら、命は無かっただろう。 アルフは何とか立ち上がると、おぼつかない足取りで歩き始めた。さっき一緒に墜落していった少女の事が、気になるようで周囲を探している。 元はと言えば、自分の不注意から起こった事だと、アルフは思っていた。 「あ、あの子だ…大丈夫かい?」 アルフは、少女の所へ急いだ…とは言っても、おぼつかない足取りではたかが知れているが。 少女は、まだ気を失っているが、肉体が消えていない所を見ると、命に別状は無いようだった。しかし、木の枝に腕を引っかけてしまったらしく、少女の左腕の肩の所が深々とえぐられている。 「こんな時に、クレイアが居てくれたら…」 アルフは、悔しそうにつぶやいた。「傷を癒す」力は水精族の得意とする所だったからだ。アルフも初歩的な回復術はクレイアから教わっているが、実際に使った事は無かった。 「…僕が、なんとかしなきゃ」 アルフは、クレイアが居たらという甘えた考えを振り払うように、首を大きく横に振ると、少女の傷に手をかざし、精神を集中した。 『…我、精霊の名の元に命ずる。水のマナよ、この者の傷を癒し苦痛より解放 せよ…ヒーリングウォーター!!』 アルフの魔法に反応するかのように、青く輝く液体が少女の傷口を覆っていく。しかし、完全に治療するには至らなかった。 「なんとか、応急処置にはなったかな…」 本来の力ではない能力を使用したせいか、アルフの表情には、疲労の色が濃く現れている。 アルフはそのまま、倒れ込むようにうつぶせになり、そのまま眠りについた。 そして、そのまましばらく時が流れた。 「あの、大丈夫ですか!?」 アルフは自分の体が大きく揺さぶられているのに気づき、目を開けた。 既に夕方になっているらしく、木漏れ日が紅に染まっている。アルフはゆっくりと上体を起こすと周りを見た。 アルフを起こしたのは、先ほどの少女だった。ずっと心配していたのか、ほっと胸をなで下ろしている。 「君は…風精族?」 アルフは少女を見て気が付いた。と、言うより今まで必死でそこまで目が届かなかっただけだが… 少女の背中には、羽が生えている。一部の精霊族は、自分のマナを利用して擬似的に羽を作り出しているのだが、風精族だけは先天的に羽を有した状態で生まれるのだ。 「…………あっ!!!!」 アルフは重大な事を思い出した。クレイアとの約束があったのだ。 「ごめん、僕急ぐから」 アルフは、再び全速力でアクアリスを目指した。 「ごめん、クレイア。遅くなっちゃった。」 アルフは、アクアリスのクレイアの家に着くなりそう言った。クレイアは既に「怒る」を通り越して、呆れきっているようだ。 「一体、何やっていたのよ?それに、ローブもボロボロだし…」 クレイアの問いかけに、アルフは理由を話した…しかし、他人と関わるのが、大の苦手のアルフでは、思っている事がクレイアに伝わらなかったようだった。 「何言っているのか、解らないわよ。それにしても、ルフィーナちゃんも来ないし、今日はみんなどうなってるのかしら?」 「ルフィーナちゃんって?」 「今日、紹介しようと思っていた子よ。いつもはちゃんと約束を守る子なんだけど…」 2人がそんな事を話していると、遙か上空から、一人の少女が降り立った。 「ごめーん。遅くなっちゃった。」 「何やっていたのよ…って、なんでルフィーナちゃんまで、服がボロボロになっているの!?」 「さっき、虹精族の人とぶつかっちゃて…で、アルフさん、もう着いてるかな?」 「アルフもさっき着いた所よ。アルフ、この子がルフィーナちゃん。」 アルフは、クレイアに言われて、ルフィーナの方を見た。そして、見るなり、驚いた。それはルフィーナも同じようだった。 「君は、あの時の!?」 「え!?どういう事?」 頭の上に疑問符が出ていそうな表情で、クレイアは2人の顔を交互に見ている。まだ、状況が飲み込めていないようだ。 「じゃあ、お互いが言っている、ぶつかった相手って…?」 「そーゆう事です。」 クレイアの疑問に2人が同時に答えた。今度はアルフが呆れたようだった。アルフは、ルフィーナの左肩を見た。やはり完全には治っていないようで、左腕の動きがぎこちない。 「ま…まぁ、2人とも中に入って。それから話してね。」 クレイアは2人を家の中に招き入れた。 「ふぅん。そんな事があったの。」 「だから、そうだって言ってるじゃないか。」 もう、日はすっかり暮れている。 クレイアは、ルフィーナの傷を治療しながら2人の話を聞いていた。ようやく話が解ってきたようだ。もっとも、アルフの話では余計に解らなくなりそうだっので、大部分をルフィーナが説明したのだが。 また、夕暮れでよく解らなかったが、ルフィーナは紫色の髪を一つに束ねていて、風精族の緑色の服を着ている。 「…はい。終わったわよ。どう?」 「もう大丈夫みたい。」 ルフィーナは左の腕を軽く回しながら答えた。ちなみに、アルフの治療はまだまだ話にもならないようなシロモノだった。 「ほんと、あの時はどうなるかと思ったよ。」 「だからって、こんな中途半端な治療は無いと思うわよ。ヘタしたら、左腕を切断する事になっていたわ。」 「でも、アルフさんが回復術を使えなかったら、私は今頃どうなっていたかわかないし、私は感謝しています」 さすがにアルフも反省しているようで、どこか元気がない。ルフィーナはそんなアルフの顔を眺めながら、お礼を言った。アルフは少し赤面し、すっかり口ごもってしまっている。クレイアはそんな2人を見て、ほほえんでいる。 2人は、その日の晩はクレイアの家に泊る事になり、それからも談話は弾んでいた。 Chapter:0−2終わり。 |
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