■2001年11月号

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バイオジャーナル




ニュース・クローズアップ

カナダが全食品表示に向かって動きだす

 コーデックス委員会食品表示部会議長国のカナダが、遺伝子組み換え食品の表示へ動きだした。カナダ・バイオテクノロジー諮問委員会が8月23日に中間報告をまとめた。最大のポイントは、日本のように「原料として使っていることを検証できなければ表示の必要がない」とするか、ヨーロッパのように「原料として使っていればすべて表示する」とするか、である。現時点では、後者を選択する可能性が高く、食品のみならず、飼料や種子の表示の可能性も出てきた。来年早々に諮問委員会の最終結論が政府に提出される。それに基づいてカナダの表示制度が整備され、実施されれば先進国では米国だけが表示しないということになる。また、わずかな食品しか表示されない日本の表示制度が、消費者保護から最も遠い存在になり、見直しが迫られそうだ。


食品の安全性、プロモーター遺伝子が問題

 遺伝子組み換え食品の輸入を禁止しようとしたスリランカに対して、米国や多国籍企業が圧力をかけ、禁止措置を延期させた。このままいくと、禁止措置撤廃の可能性もあることから、各国の消費者が米国や多国籍企業に抗議文をだした。それとともに、スリランカ政府に対して、禁止措置を行うよう励ましの手紙を送っている。8月22日の英国科学者メイ―ワン・ホーの手紙では、次のような遺伝子組み換え作物の基本的な問題点を指摘している。
 遺伝子組み換え技術では、さまざまな遺伝子が導入される。除草剤耐性、殺虫性といった目的遺伝子以外に、その遺伝子を働かせるプロモーター遺伝子、遺伝子組み換えがうまくいったか否かを見るための抗生物質耐性遺伝子、その遺伝子を細胞内に運び入れるためのベクター遺伝子などである。
 さまざまな遺伝子を用いるため、遺伝子組み換え作物は遺伝的に不安定で、予測できない事態が起きる可能性が高く、中でもプロモーターに用いるウイルスの遺伝子が、その不安定の最大の原因である。さらに遺伝子組み換え技術を用いた農業は、花粉の飛散があるため、他の農業と共存できない。また、抗生物質耐性遺伝子が病気治療に影響すること、などが述べられている。
〔I-SIS-Mailing List 2001/8/23〕


ジャガイモは表示へ

 10月2日、第2回農水省農林物資企画調査会・遺伝子組み換え食品部会で、表示問題が検討され、ジャガイモ加工食品を表示する方向で分析が行われた。とくに菓子は、今年5〜7月にかけて未承認の遺伝子組み換えジャガイモが検出され、回収騒ぎが起きている。遺伝子組み換えジャガイモの輸入が承認された当初から、表示が行われるべき食品であり、あまりにも遅い検討といえる。
 今回の表示検討の対象では、またも食用油や醤油がはずされた。しかし「高オレイン酸大豆」のような、特定の成分を増やした食品の表示について、初めて検討が行われ、食用油は表示し、醤油は表示しないという方向が出された。


スターリンクでウソ発覚

 スターリンク(アベンティス社が開発した殺虫性トウモロコシ)問題が発覚したのは、昨年9月のこと。それより10か月前の1999年12月に、アベンティス社が依頼し、米EPA(環境保護局)に提出された調査で、スターリンク栽培農家230人中2人が収穫物を認可前に、食用・輸出用途で売却したことが、米国の市民団体・食品安全センターの情報公開請求によって明らかになった。昨年9月当時には、同社とEPAはスターリンクが食品に混入することなど思いもよらなかったと発言したが、嘘だったことになる。       〔New York Times 2001/9/4〕


避妊薬を作る遺伝子組み換えトウモロコシ

 米サンディエゴのエピサイト社が、人間の避妊薬を作るトウモロコシを開発した。これは抗精子抗体タンパク質を遺伝子組み換えでトウモロコシに作らせるものだ。同社は、2、3か月のうちに臨床実験を開始する。
 同社は免疫性不妊症についての研究を行っており、精子を攻撃するヒトの抗体を発見した。これらの抗体は精子に結合し、動きを妨げる。その遺伝子をトウモロコシに組み込んだ。一方同社は、妊娠と性病の拡大を同時に防ぐ植物ベースのゼリーを作り出す研究をトウモロコシで行っている(Guardian 2001/9/9)。
 これらの遺伝子組み換えトウモロコシは温室内で栽培されているが、花粉を通じて環境中に放出され、遺伝子汚染が起きないか、心配する声がある。安全性のみならず、倫理的な面からも問題があるが、本記事はこれらの点に触れていない。       

遺伝子組み換え魚に抗議、グリーンピース

  グリーンピースは9月10日、カナダのシーブライト社(現ジェネシス社)の遺伝子組み換え魚に対する初めての特許に対して、生命特許を撤回せよ、さもなくば自然界への放出を禁じる立法措置を講じよと、関係機関に抗議している。同社は、成長を促進するためにサケの成長ホルモン遺伝子とタラの仲間の耐凍性タンパク質のプロモーターを利用した、すべての魚で使える組み換え用の遺伝子の特許(遺伝子特許)を取得しており、さらにそれを利用した遺伝子組み換えアトランティック・サーモンおよびその他の魚類に対しても特許(生命特許)を取得した。遺伝子組み換え魚は最大8倍(重量比)の大きさになるという。
 グリーンピースは、生命特許に反対してきたが、特に遺伝子組み換え魚に対しては、環境への特別な危険性を警告している。            〔Greenpeace〕

ES細胞をめぐる話題

  米国科学アカデミー紀要(Proceeding National Academy of Science)の9月4日号に、ウィスコンシン大のグループがヒトES細胞を血液前駆細胞に分化させることに成功したと発表した。白血球、赤血球など血液細胞への分化能力も備えている。血液の無限の供給の可能性が開かれるものだ。
 また、京大再生医科学研の10月2日の発表によれば、マウスのES細胞とリンパ球を融合したところ、筋肉や神経など、さまざまな細胞へと分化する能力(全能性)を備えた細胞ができたという。拒絶反応のない臓器移植への可能性をさぐるものである。
 米国では8月、ヒトES細胞研究に連邦予算の支出が認められ、日本では9月25日、文科省のヒトES細胞の研究指針が告示され、京大、東大、阪大、信州大などで、研究が開始される見込み。

サントリー、カーネーション国内から撤退

  サントリーは、青いカーネーション「ムーンダスト・シリーズ」の国内撤退を打ち出し、これまで作付けを進めてきた佐賀、北海道、和歌山から撤退し、エクアドルだけでつくることになった(日経バイオテク9月24日号)。この花は、日本で商業作付けされている唯一の遺伝子組み換え作物である。
 撤退の理由は、日本の気候では品質が不安定なためということだが、市民団体が環境への影響を懸念して、再三再四公開質問状を出したり、ボイコット運動を構えたりしたためであろう。
 サントリーは、カーネーション以外にも花の開発を進めており、花の色を変えたトレニアや日持ちをよくしたカーネーションなどが、市場に出る日も近いと見られている。トレニアは、切り花ではなく根のついた状態で販売されるため、各家庭で遺伝子組み換え作物が作付けされる事態になる。

ことば
*コーデックス委員会(CODEX)
国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で組織する食品規格委員会。

*プロモーター遺伝子
タンパク質は、遺伝子からいくつかの段階を経て作られる。プロモーターとは、タンパク質製造開始を促す遺伝子上の部位のことを指す。

*免疫性不妊症
子宮頚管粘液中に精子の働きを妨げる抗体が分泌されることによる不妊症。

*ES細胞
万能細胞ともいう。未分化の培養細胞のこと。全能性を備えていることから、再生医療などへの応用で注目されている。マウス、サル、ブタ、ヒトなどで作られている。