■2001年11月号

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バイオジャーナル




特集●狂牛病と飼料をめぐって

狂牛病、安全宣言の時期をうかがう日本政府

 狂牛病は、1985年に英ハンプシャーで最初の発生を見たという。すぐ処分されたため確認はされていない。翌86年に初めて確認された。感染が広がった時、英国政府は、牛から人間への感染(水平感染)、母牛から子牛への感染(垂直感染)はないと言い続け、被害を拡大させた。同政府が人間への感染の可能性を認めたのは、10年後の96年だった。これまで、英国だけで約18万頭の牛が狂牛病に感染し、480万頭が処分された。
 10月3日に衆議院議員会館で、農水省・厚労省の担当者を呼びだして説明会が開かれた。その席で、両省の担当者は、一定の含みを持たせつつ、水平感染と垂直感染いずれも否定に近い見解を述べた。
 今回の感染牛発生の原因は肉骨粉と断定した上で、感染経路の解明は困難との見解を述べた。食品としての安全性に関しては、国際基準に基づき、脳・脊髄・眼球などの特定危険部位以外は安全という見解に終始、牛乳や肉、コラーゲンやゼラチンなどは安全であるとした。猫のペットフードも魚を使っているので問題ないとした。
 さらには、豚や鶏には感染しないため、動物性飼料を恒久的に規制することは考えていないと述べ、当面の間は禁止し、様子を見るが、解禁の時期を見ていることが明らかになった。

味の素の遺伝子組み換え飼料添加物認可へ

 味の素が製造・販売している飼料添加物の国内販売が8月21日の農水省農業資材審議会飼料分科会の答申を受けて、認可される見込みだ(農水省のHPより)。添加物は必須アミノ酸のリジン(塩酸L-リジン)とトリプトファン(L-トリプトファン)。これまで飼料添加物としては、フィターゼ(リン酸分解酵素)とリボフラビン(ビタミンB2)が認められているが、アミノ酸は初めてである。いずれも大腸菌を用いた製造法で、フランス味の素ユーロリジン社で生産されている。リジンは、米国・中国でも生産されており、これらの製品の輸入が予定されているようだ。トウモロコシは、コメや小麦に比べて胚乳部分に含まれるタンパク質(ゼイン)にリジンとトリプトファンがほとんどないため、これらの添加物が開発されてきた。昭和電工が引き起こしたトリプトファン事件の教訓は、安全性評価で参考にもされていない。


ことば
*水平感染
種の壁を越えて感染すること。羊から牛、牛から人間などへの感染はほぼ間違いないとされているが、まだ確定していない。動物実験では、羊、山羊、マウスへの経口感染、脳や静脈・腹膜内に直接入れると、豚にも感染した。

*垂直感染
母子感染のこと。羊は胎盤で感染し、ミンクは血液で感染するため、母子感染の可能性は高い。またマウスや人間では、初乳で感染したケースもある。狂牛病の牛の多くが4、5歳頃に一斉に発病することから、垂直感染の可能性があるという見解もある。

*食品の安全性
初乳に感染の可能性があるため、牛乳も100%安全とはいえない。また血液や神経細胞が感染する実験結果があり、リンパ系は感染する可能性が高い。これらは肉の構成要素であり、肉もまた100%安全とはいえない。牛肉エキスなど、牛を用いた食品が100%安全と言い切れないところに狂牛病汚染の深刻さがある。

*必須アミノ酸
動物の発育や生命の維持に必要で、かつ体内で作ることができないため食事として摂取しなければならないアミノ酸のことをいう。人間の場合はL-リジン、L-トリプトファンなど8種類。

*トリプトファン事件
1980年代、米国で起きた大規模薬害事件。昭和電工が遺伝子組み換え技術を用いて製造した健康食品L-トリプトファンが原因で死者38人、被害者6,000人におよんだ。金銭和解したため、詳細な原因調査はなされなかった。