採用の自由に対する規制強化をどのように考えるべきか  ~労働判例 遊筆から~
 
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2015
.12. 6


 労働者を採用する自由に対する規制が強化されてきた。
 10月1日から施行されている、労働者派遣法改正による派遣先企業への労働契約申込みの
みなし制度は、採用の自由を協力に規制している。

 平成25年4月より施行されている有期契約労働者に対する使用者のみなし承諾規制も、こ
れに類する規制である。

 採用の自由を規制する雇用差別禁止法制や高年齢者雇用安定法にも目を向ける必要があろう
 男女雇用機会均等法による男女の採用差別規制に加えて、雇用対策法や障害者雇用促進法は
年齢を理由とする採用差別や障害を理由とする採用差別を禁止している。

 雇用差別禁止法制は、派遣法や契約法のみなし制度のように労働者の採用を使用者に法的に
強制する裁判規範ということはできないが、雇用社会における行為規範として、使用者の採用
の自由を規制する機能がある。

 65歳までの継続雇用を義務付けた高年齢者雇用安定法については、厚生年金の支給開始年
齢が65歳に引き上げらることにともなって、60歳から65歳までの労働契約が国によって
創出されたという見方もできる。

 採用の自由に対する法規制については、議論が展開されているが、労働法の規制理念自体に
少なからぬインパクトを与える法規制であるということができる。

 採用の自由を規制する展開は、適正で価値ある労働を国が配分する法規制として、労働法を
再構成する必要性を提起しているとみることもできよう。

 現代の社会における仕事や労働の重要性に鑑みたとき、性別、障害、能力、置かれた環境な
どが分からない無知のベールに包まれた私たちは、価値ある労働機会をすべての人に保障する
社会契約に、同意するはずであろう。

 どのような労働に価値をおくかは人によって異なる。労働の生産性や就労へのインセンティ
ブに対する配慮も必要である。労働配分は、契約を通じて行わなければならない。価値の多様
性や就労へのインセンティブを労働の配分に反映できる法的装置である。国による配分規制で
は社会保障法と労働法との間に差異はないが、社会保障法が直接的な財の配分規制であるのに
対して、労働法は、労働契約を通じた間接的な労働の配分規制である点に差異があるというこ
ともできる。

 有償労働は、所得保障の機能を果たす。そのため、国はそれに無関心ではいられない。有償
労働と無償労働のコンフリクト(論争)についても、国による介入が必要である。

 労働のあり方は、国の経済競争力と密接に関わっている。
 契約自由の実質化と国の中立性を強調するのではなく、労働政策のさらなる民主化と国の労
働のあり方に対する積極的関与の必要性を踏まえつつ、国、使用者、労働者の新たな法的関係
性を模索する時期に、労働法理論はさしかかっているように思われる。(一部改変)



 北九州市立大学法学部 石井伸平准教授


(社会保険労務士・後藤田慶子)


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