将来の年金額を増やすために厚生年金に積極加入したり、年金の受給開始日時期を繰り下げ
たりする人が増えている。
(厚生年金加入)
特に厚生年金の加入者増は国の予想を上回るペースだ。
終身でもらえ公的年金は人生100年時代の最大の支え。年金をフル活用して長寿化に備え
る動きが始まっている。
予想25万人に対し、実際は1.5倍の37万人。社会保障審議会の年金部会などで開示さ
れたこの数字に驚いた。
2016年秋の制度改正を受け、厚生年金に加入することを選んだパート主婦などの短時間
労働者の昨年末時点の人数だ。
加入すれば収入に応じて将来の年金が増える一方、保険料負担も生じる。通常は週30時間
以上の勤務が加入の条件だが、16年改正で501人以上の企業では週20時間以上勤務など
の条件に変わった。保険料負担を嫌って勤務時間を短くする就労調整が多数派になるとの見方
も多かったが、実際は違った。
(就労調整少なく)
スーパーイズミヤは、パート本人の希望を優先する体制にした。「説明会を開き将来の年金
増などのメリットを解説した」結果、対象者のうち短時間勤務にして加入を避けた人は3分の
1にとどまり、3分の2が厚生年金に加入した。
労働政策研究・研修機構の調査でも、働き方を変えた人の58%が、手取りを減らさないよ
う時間延長したうえで厚生年金への加入を選んだことが分かった。「将来の年金を増やしたい
」との理由が上位だ。
(60歳以降の働き方)
60歳台前半の男性就業者に占める厚生年金の加入率は12年度の51%から16年度は6
7%になった。60歳台後半も同35%から41%へと上昇している。
再雇用制度などを使って定年後も仕事を続けるシニアの数は年々増えているが、単に働くの
ではなく「年金を増やせる働き方へとシフトしていることが分かる。例えば、現役時代の平均
年収600万円の人が60歳以降、年収300万円で厚生年金に加入して10年働くと、70
歳以降の年金を年21万円上積みできる。
社会保険料は基本的に事業主と労働者の折半なので、厚生年金の加入者が増えれば企業負担
も増すす。しかし人手不足が続く中、人材確保のために従業員が厚生年金への加入を希望すれ
ば受け入れる企業が増えている。
(受給繰り下げ)
人生100年時代には繰り下げ受給も有力な手段だ。原則65歳から受給できるが、70歳
まで遅らせれば年金額が42%増える。81歳を超えて生きれば「得する」計算だ。
国立社会保障・人口問題研究所によると2050年には男性の半数は87歳、女性の半数は
93歳まで生きるようになる。多くの人が繰り下げによって受給総額を増やせるわけだ。
目先の受給を重視する人は依然多いが、16年度に新たに基礎年金の受給権を得た人の2.
7%が繰り下げを選択。2年前の2倍弱になった。
老後の資産形成に詳しい久留米大学の塚崎公義教授は「繰り下げ後の増額は一生続くので老
後の安心感は格段に増す」と話す。但し「年金なしで60台後半を乗り切るには、長く働くと
共にそれまでに資産を増やしておくことも必要」
(若年層は進まず)
長寿化に備え、公的年金などフル活用する働きはまだ一部。
特に課題は若年層20台後半の国民年金保険料の納付率は55%前後と平均より約10%低
い。年金制度への信頼感を高め、若い世代に重要性を伝えることが重要だ。
(社会保険労務士・後藤田慶子)
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