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                                                      2020.09.01

 

       ~最新の労働判例 (弁護士通じ退職願、引き継ぎ支障)~


  (事案の概要)

  令和元年5月に労働施策総合推進法の改正、令和2年1月に「事業主が職場における優越
  平成28年11月11日、労働者は弁護士を通じて「退職通知の到着後1ヶ月を経過する
 日をもって退職、退職日までの間は年次有給休暇を取得する」と会社に通知してきた。また
 会社からの業務引継に関する問い合わせに対しても、弁護士を通じて「使用していたパスワ
 ード等の保管場所、ネットバンキングのIDおよび防犯カメラ等の管理に関する情報の所在
 鍵管理表等のファイルの存在等」を回答してきた。
  会社は、対面の引継ぎを行わなかったなど、20の懲戒解雇を事由に、賞与、退職金を不
 支給とした。
  労働者は訴訟を提起し、会社に、平成28年度冬季賞与48万円余、退職金69万円余等
 を請求してきた。


  (判決のポイント)

  
・賞与について
  退職したのが平成28年12月9日、冬季賞与支給日が12月13日。労働者は、就業規
 則にある「支給日に在籍している社員」には該当しない。支給日在籍社員として取り扱わな
 いことが権利濫用に該当する事を裏付ける証拠はない。
  労働者は冬季賞与を請求できる権利を有しない。

  
・退職金について
  退職金は賃金の後払い的性格を有しており、不支給とすることができるのは、労働者の勤
 労を功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しい背信行為があった場合に限られると解すべ
 きである。
  そもそも懲戒解雇事由に該当しないものである上、仮に懲戒解雇事由に該当しうるものが
 存在するとしても、その内容が労働者が担当していた業務遂行に関する問題であり、会社に
 具体的な損害が生じたことは認められないのであって、勤労の功を抹消してしまうほどの著
 しい背信行為があったとは評価できないと退職金請求を認容した。
                            (東京地判 令元.9.27)


  (実務上の留意点)

  期間の定めのない雇用契約を締結している労働者には退職の自由がある。他方、退職に際
 して必要な業務引継を行う義務も存在しますが、そも義務の範囲は、一般的に使用者が考え
 るより狭く判断されている。


  (退職代行の問題点)

  弁護士を通じて退職の意思表示を行い、それ以降年次有給休暇を取得するなどして一切出
 社しない事例が増加している。退職の意思表示を代行人により行うことは、法的には可能で
 ある。
  期間の定めのない雇用契約を締結している労働者は、いつでも雇用契約の解約の申し入れ
 から2週間経過すると雇用契約は終了する。(民法627条1項)
  退職時には年次有給休暇をすべて使い切ることができるから、対面による業務引継を一切
 行わない場合が少なくない。
  その事案の状況によっては、懲戒処分、賞与不支給、退職金不支給等の問題に発展する可
 能性もある。
                           (労働新聞 第3268号より)


 




 






                                              社会保険労務士・後藤田慶子
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