その一方で、白馬村役場の許可を取らずに、ハクバサンショウウオの写真を撮影し「成体や卵嚢には一切、触っていない」と主張する方が、このところ跡を絶たない。文化財保護指定を受けている動物の場合、それを手に取って元の場所に戻す、或いは触れるという行為が「捕獲扱い」になることを、知らない方が多いようである。
そのことを説明した上で「こういった写真は、手を触れなきゃ撮影できませんよね」と指摘すると、最初のうちは「撮影に当たっては現状変更していない」とか「いずれも一切、触ることなく撮影したことは確かである」とか、自らの正当性を主張する人がほとんどである(1)。
ところが、私から「『人為的な要素を排除して、こういった写真が繁殖期に撮影可能か否か?』ということを考えれば、たぶん無理でしょうね」と指摘されると、今度は「白馬村で撮影したものではない」と、前言を取り消す始末である(2)。
彼らが「撮影場所は白馬村ではない」と白をきることが出来る大義名分は、富山県や岐阜県でヤマサンショウウオとされていた種が、ハクバサンショウウオの「シノニム(同物異名)」とされたことに起因している(Matsui et al., 2002)。しかし、こういった人たちは、撮影された写真をみて懸川雅市さんが呟いた、次の言葉の重みをしっかりと受け止めるべきである(懸川さんは、白馬村で25年間もハクバサンショウウオの調査を続けて来た、私の友人である)。
それにしても、富山県側にハクバサンショウウオそっくりな個体がいるんですねえ......。ハクバサンショウウオは、それほど地域差がないようにも思われますが、図鑑にあるヤマサンショウウオの写真は、どこかホクリクサンショウウオにも似ているように見えましたがねえ......。
Matsui, M., K. Nishikawa, Y. Misawa, M. Kakegawa, and T. Sugahara. 2002. Taxonomic relationships of an endangered Japanese salamander Hynobius hidamontanus Matsui, 1987 with H. tenuis Nambu, 1991 (Amphibia: Caudata). Current Herpetology 21(1): 25-34.
[脚注]
[脚注の脚注]
(1) Googleなどのロボット型検索エンジンで「ハクバサンショウウオ」をキーワードに検索すると、色んな種類のハクバサンショウウオの写真がインターネット上に溢れていることに、気付く人も多いことだろう。これらの写真には、いかにも「撮って下さい」といった、不自然な格好をしているものが少なくない。手を触れなければ撮影できない写真であることは、見る人が見れば明白である。
(2) これと同様のことは、キタサンショウウオにも言えることである。キタサンショウウオが生息するのは釧路湿原という限られた地域内であるが、釧路市、鶴居村、標茶町、釧路町という4つの自治体にまたがって生息が確認されている。鶴居村と釧路町では、キタサンショウウオが天然記念物として文化財保護指定を受けていないので、許可を取らなくても写真は撮り放題、採集し放題である(1)。これが写真撮影だけなら未だしも、地域の開発ということにでもなれば、ちょっとは事情が違って来るのではないだろうか?
(1) もっとも、鶴居村の場合、釧路湿原国立公園の特別保護区である「釧路管内鶴居村温根内築堤北側」が本種の生息地なので「わざわざ天然記念物に指定する必要もない」というのが現状である(ということは、問題があるのは、釧路町にある個体群だけか?)。また、最近では「網走市の政策として、市内某所に造成したビオトープにキタサンショウウオを放流し、それが定着している」という話も耳にする(どこから持って来たんだ???)。本来は生息していない生き物を放流するなんて、いったい何のための環境学習なんだろうね。おかげで、キタサンショウウオの日本での生息分布が釧路湿原に限られている現状を無視し「キタサンショウウオは、日本では釧路湿原以外にも生息する」といった誤った情報(=素人を惑わす言葉)が独り歩きする弊害をうんでいる。