ナンバーテープ


1996年5月29日、釧路湿原国立公園「温根内ビジターセンター」で、指導員の佐藤光則さん(現、塘路湖エコミュージアムセンター指導員、植物写真家)と話をしていたとき「ああいう風にナンバーテープを使ってマーキングする人は、羽角さん以外に知らない」と、あらぬ疑いを掛けられたことがある(1)。

これは「釧路湿原国立公園の特別保護区に指定されている、温根内築堤北側にある幾つかの池で、キタサンショウウオの卵嚢対が産出されたスゲ類の位置が、ナンバーテープで大量にマーキングされた、無許可調査事件」を指している(2)。

ナンバーテープを使用するのは植物の生態を調査するときの一般的な手法だが、それまで有尾両生類の調査で使用されたという話は、私も聞いたことがない。佐藤さんが私を疑うのは、無理もない話であろう。私の場合、知り合いに植物生態学者が多く、彼らの手法をキタサンショウウオの調査で応用してみただけである。もちろん、現地をみてから臨機応変に調査手法を変更し、最適と思われる手法を採用している。

この話を佐藤さんから聞かされたとき、誰の仕業かはすぐに分かった。このような行為を私の共同研究者がおこなうはずもないから、犯人は、大楽毛(おたのしけ)調査地に来て、産出された卵嚢対の幾つかをナンバーテープごと黙って持ち去った、環境コンサルタントと称する人物とその仲間である。そのとき、私の調査手法を学んだのだと思う(3)。

[脚注]
(1) 佐藤さんの「キタサンショウウオの写真を撮りたい」という、たっての頼みで、繁殖期間中の1996年5月5日の夜、大楽毛の調査地に彼を連れていったことがある。ちなみに彼は報道カメラマンをしていた時期があり、御巣鷹の尾根への日本航空123便機(日航ジャンボ機)墜落事故のときは、現場への道なき道を先を争って登ったそうである。
(2) 国立公園の特別保護区では、穴ひとつ掘るのにも環境省の許可が要る。動物に至っては、手に取っただけで「捕獲扱い」になる。ナンバーテープで卵嚢対の位置をマーキングするときは、ホッチキスを使用するので、現状に変更を加えたことになり、これにも許可が必要である。私は、その辺の事情をよく知っているので、特別保護区で調査しようとは思わない。ましてや、こういった論文にもならない研究を、私がおこなうはずもない。
(3) 地元では名士の、その人物から調査地で言われた言葉で、耳に焼き付いて離れないものがある。それは「なんで、釧路まで来て調査するんだ。新潟の人間は、新潟で調査してればいいんだ」という、よそ者(?)を排除しようとするエゴ、丸出しの暴言であった。


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