私の中の9.11


あれから5年......。9月11日。また、この日がやって来た。

2001年9月11日(火曜日)、米国のニューヨークにある世界貿易センター(WTC: World Trade Center)ビル2基に、ハイジャックされた旅客機が突っ込んだ同時多発テロは、世界中に衝撃を与えた。この日を境に、何かが変わったと思う。

映像とは言え、建物が崩落する前に逃げ場を失った人々が、高層階の割れた窓から転落する(と言うより、自ら身を投げる?)様子を目の当たりにして、人間が生きるということの意味が改めて問われているようでもあった。いつ死んでも良い生き方をしたい。この世に生きた証(あかし)を残したい。この映像を視て、そう思った人が少なからず存在しただろうことは、想像に難くない。かく言う私も、そのひとりであった。私のホームページは、元々は「私の研究対象であるサンショウウオ科の種の知識を世界中の人々に正確に伝える(1)」ことを目的として作成されたものであった。しかし、9.11が、私を変えたと言っても過言ではない。

常日頃、私は「他人に迷惑をかけないように」と、気を遣って暮らしている。また、他人の心の機微にも敏感である。だから、他人に迷惑をかけていながら、そのことを全く自覚しないで、のうのうと暮らしている人(他人の心の痛みが分からない人)に、ちょっとした不快感を覚えていた。そのような人たちに対して、このまま言いたいことも言えないで、泣き寝入りするしかないのか?そう考えているところに飛び込んで来たのが、この9.11だったのである。現在、本音トークの「独り言」が、こうして150篇を超える人気の存在になっていることは、この9.11が、ひとえに私の心を解放してくれたおかげでもある(2)。

私たちが暮らす地球という星には、多種多様な価値観が存在している。ある人にとっての正義が、必ずしも別の人にとっての正義とは限らないのである。まずは「互いの価値観の違い」を認め合うことが、他人に迷惑をかけないで暮らす第一歩である。自分の価値観を他人に押し付けることなく、互いに尊敬し合える関係を築けるのであれば、これからの世の中は、きっと良くなっていくはずである。そう信じている。

[脚注]
(1) ホームページの開設から4年半が経過し、その目的は、ある程度は達成できたと感じている。現在、各国の「Wikipedia」に相当するサイトで、様々な言語に書き換えられた「サンショウウオ科」に関する情報が、利用可能になっている。ロボット型検索エンジンの「Google」で「hasumi salamanders」「hasumi hynobiidae」「hasumi hynobius」「hasumi salamandrella」等々をキーワードに検索すれば、その一翼を私のホームページが担っていることが見て取れるだろう。ちなみに、この件に関して、私が何の関与もしていないことをお断りしておく。
(2) 私の誇りは、自分の意見(それを世間では「悪口」と捉える)を匿名では書いたことがないことである(但し、国際専門誌に投稿された論文原稿への査読意見を除く)。私は研究者だから、自分の意見に署名することは当然の義務だと思っている。匿名での発言、特に他人への中傷は無責任きわまりなく、まともな研究者が好んでやるような代物ではない。それをやった時点で、研究者としては終わっている(ネットストーカーには「匿名で他人を中傷している自分のほうが正しくて、実名で意見を述べるほうが間違っている」と、自分よりも弱いと思っている相手をたたく傲慢さがある)。


[追記(2015年11月19日)] 2015年11月13日(金曜日)に起きた「パリ同時多発テロ」をめぐるニュースが、連日、世界で報じられている。その一方で、パリ同時多発テロの前日に、レバノンの首都ベイルートで起き、40人以上が死亡した連続自爆テロに関しては、余り報じられていない。この事実に対して「アラブ諸国では、毎日、人々が死傷しているのに、なぜフランスばかりなのか?」とか「強い国は注目されるが、弱い国は、悲惨な事件が起きても目を向けられることはないのか?」とか、パリ同時多発テロへの世界的な連帯に、違和感を唱える意見も少なくない。だが、これには明確な答えがあることに、どれだけの人が気付いているのだろう?各国のメディアが、アラブ諸国で起きているテロを報じない背景には「これらの国々では、テロの件数が余りにも多く、報道し切れない」という事情がある。これは、研究室に昔いたインド人留学生が言っていた「インドでは殺人事件が日常茶飯事で、毎日40〜50件ほど起こるので、いちいち報道しない。(日本で)殺人事件が報道されるのは、平和な国だからこそ」と、根は同じである。


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