「自覚を持て」と言われても......


日本固有種が42%(2018年)を占める、サンショウウオ科の「体外受精」という特徴を最大限に活かし、日本の有尾両生類研究をリードしてきた自負が、私にはある。これは、なにも独り善がりの自負などではなく、欧米の研究者からの「客観的評価」に基づいた自負である(自画自賛をしているわけではない)

欧米で発行されている専門分野の国際誌(peer-reviewed journals)に論文の原稿を投稿すると、同じ学問分野の2〜3名の研究者から査読を受けるのが一般的である。そのとき、投稿原稿への評価とは別に、なぜか私への評価をコメント用紙に書くレフェリーが、ときどき見受けられる。

たとえば、これまでの最高評価と思われるのは「この著者が、サンショウウオ科の繁殖に関する、世界最高の専門家であることは明白である(1)」というコメントかもしれない。他にも色々なコメントがあり、読んでいると全身がこそばゆくなるような、私への過剰な期待がうかがえるものばかりが並んでいる。

また、これまで学術論文を総て第一著者として英語で書いてきたおかげで、投稿論文の草稿を批判的に読んで直してくれる、専門分野の研究者を何名か欧米に作ることが出来た。彼らは、やはり専門家だけあって目の付けどころが同じで、異口同音に私の研究を誉めてくれる。おまけに「日本人にしては、珍しく英語がしっかりしている」というコメントまでが、判を押したように同じである(思えば、欧米の研究者との最初の関わりは、日本の某学会が発行する雑誌に投稿した論文原稿が不可解なリジェクトに遭い、当時の指導教員である教授[カエルの精子形成の専門家]に相談しても何のアドバイスも得られなかった[つまり、研究指導を放棄された]ため、論文の内容に近い研究をしていたミシガン大学の研究者[Dr. Ronald A. Nussbaum]に自ら手紙を書いて、論文原稿を見てもらったのが始まりであった[この研究者のおかげで、この論文は米国のSSARが発行するJournal of Herpetologyに掲載され、サンショウウオ科のオスの繁殖期の体形変化の基本文献として、その後は様々な教科書に引用されている])

この類の、研究者冥利につきる高い評価を受けるようになって、随分と久しい(2)。けれど、日本の有尾両生類研究のリーダーとしての自覚を、いくら彼らに促されても、それに見合った、期待に応えられるだけのポジションが、残念ながら現在の私にはない(3)。

[脚注]
(1) It is quite clear that this author is the world's ultimate expert on the reproduction of hynobiids.
(2) 博士号を取得して、学術論文の原稿を「単名で」投稿するようになってから(指導教官が退官した、1994年3月以降)、このようなコメントを書くレフェリーや、知り合いの研究者が増えてきたように思う。
(3) 私の立場では、大学や研究所のスタッフとは違って、欧米の研究者が期待するような研究プロジェクトを動かす権限はなく、何にもまして「定期的な収入がない」という問題がある。このままでは、のたれ死にするしかないのかもしれない。


補足(2018年1月14日): 私の論文の謝辞に多く登場する「H. Ota」氏は、(現)兵庫県立大学の太田英利教授のことである。他の人と勘違いをしている人が少なくないようなので、ここに明言しておく。
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