夏が暑いのは当たり前!!


今年の新潟地方は梅雨寒で、8月に入ってから漸く、遅い夏が到来した感がある(とは言っても、近年にない冷夏であり、猛暑の西日本に暮らす人たちには羨ましがられるかもしれない)。新潟大学大学院自然科学研究科管理棟の5階にある、私がいる部屋でも、その頃から冷房をかけるようになった。政府広報で奨励されている「28℃」という冷房の設定温度を守るのは、大学では一応の建て前になっている。ところが「それでは暑い」という大方の声に私が押される形で、1℃の誤差を認める寛容さ、つまり黙認することを余儀なくされてしまった。そのため「27℃は夏場の冷房設定温度の許容範囲」というのが、この部屋では「暗黙の了解(unwritten rule)」になっている(1)。

2003年8月7日(木曜日)の新潟市は、最高気温が33.9℃であった。管理棟の2階にある休憩室で小一時間ほど新聞を読み、夕方の4時頃に戻ってみると、部屋の中が妙に寒い。冷房の設定温度をみると「24℃」になっていた。ちょっと私が留守にしている間に、誰かが勝手に下げたらしい。エアコンのスイッチがパキスタン人留学生の机の上方にあるので、彼に「Sorry!」と言ってから、通常の「27℃」まで設定温度を戻した。すると、また彼が私に難癖をつけるのである。

「部屋にいる多数の人が、この温度で冷房を使っているのだから、それは『民主主義(democratic)』である。それなのに、おまえが温度を勝手に上げるのは『利己的(selfish)』である」と......。

「何が民主主義だ。これは『赤信号、みんなで渡れば怖くない』と同じじゃないか。どっちが利己的なんだ」と思い、すぐさま反論を試みた。幸いなことに、最近では自然科学研究科の管理棟に「冷房の設定温度は28℃にしましょう(2)」という貼り紙がしてあるので(管理棟の1階に、貼り紙が2ヶ所あることは知っている)、私には「その場所まで彼を連れて行き、英語で説明しさえすれば、きっと彼を説き伏せることができる」という確信はあった。ただ、連れて行くまでが大変だった。なにしろ彼ときたら「それをここまで持ってこい」の一点張りであったのだから......。

温帯域に住んでいる人間の身体は、春先から夏の暑い盛りにかけて順応してきている。暑ければ汗をかいて身体を冷やし、体温を調節することができる。それなのに「汗をかくのが嫌だから」という理由で、冷房をガンガンかけて「快適に」夏を過ごしている人が少なくない。「なにも好き好んで自らの身体をおかしくすることもない」とは思うのだが、彼らの感覚は、どうも私とは異なるらしい。

こうして外部環境への適応能力を失った人間は、ある日、電力の供給がストップすると同時に、暑い夏を乗り切れずに、絶滅の道をたどるのである(3)。

[脚注]
(1) この部屋を使用するにあたっての「暗黙の了解」は、昔から数多く存在する。例えば「部屋で調理をしない」とか「部屋で食事をしない」とかいった、部屋にいる他人が不快に感じない配慮のことである。いちいち注意するのも反発を喰らうだけなので、私は何も言わないが、快く思っていないことだけは確かである。
(2) この他に「暖房の設定温度は20℃にしましょう」という項目もある。ここに来て漸く私の主張が認められた形で、思えば隔世の感がある。
(3) この締めの文章を書いた後、米国の北東部からカナダのトロントに掛けて、大規模な停電が本当に起きてしまい、私自身が驚いている。


*8月22日(金曜日)の午後7時を過ぎた頃、いきなり大学のネットワークが切断されてしまった。多数のPC(Windowsユーザ)でコンピュータウイルスの感染が確認されたとかで、それまでもちょくちょくネットワークが切断されていたから「今回も、すぐに復旧するだろう」という軽い気持ちでいた。ところが、23日(土曜日)になってホームページをアップしようとしても、ネットワークは一向につながらない。もちろん、電子メールをみることもできない。とにかく、復旧を待つことにした。その日は午後3時近くになって遅い昼食に出たが、そのとき1階のエレベータ脇と玄関のドアのところに、ウイルス情報なるものが掲示されていた。それには「自然科学研究科では、PCにウイルスの感染が確認された階毎にネットワークを切断しており、復旧は遅ければ25日(月曜日)になるだろう」との旨、記してあった。そのため午後5時ちょっと前に、ネットワーク担当の教官に連絡を取って、復旧状況を尋ねてみた。彼によると「こちらも情報処理センターから連絡を待っている状態で、この時間になって何も連絡がないのだから、月曜日までネットワークの接続は無理だろう」とのことで、妙に恐縮されてしまった。それにしても、取得しているIPアドレスがそれぞれ異なっているわけだし、何も一律に全フロアのネットワークを切断しなくても良さそうなものである。ウイルス感染の心配がないMacintoshユーザにまで不便を強いるやり方は、お役所仕事といった感をぬぐえない。
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