槍は、東鎌と西鎌からそれぞれ1回ずつしか登っていないが、5月の連休に槍沢から槍岳山荘まで行った。翌朝、季節はずれの吹雪にあって登頂を断念したが、自分では雪の槍沢を登ったという満足感があったので、もう登るつもりはなかった。
穂高は、いわば私の青春ともいえる山で、ホームグラウンドのようなものだった。5月の残雪期、夏山、秋山を含め20回以上は登っているので、完全に卒業したつもりでいた。
しかし、最近になって日本100名山も終って少し余裕が出て来たせいか、槍穂の縦走をしていなかったことが唯一の心残りのように思えて来た。
それに、西穂から奥穂へ縦走した時はジャンダルムの登り口が分からず、とんでもない所を攀じ登ってしまい、「もう生きて帰れないかも知れない」と思ったことがあった。そのジャンダルムへもう一度行って、あの時どんな所を攀じ登ってしまったのか、正規のコースはどこにあったのかを確認してみたいと思った。
そんな思いから、今年の夏休みは槍・穂高縦走とジャンダルムと決めた。
コースは、西穂から奥穂へ登って槍へ向かうつもりでいたが、今の私の体力では肝心なジャンダルムへ着く前にバテてしまうのではないかと心配だった。
そんな時、天狗沢を思いついた。天狗沢なら上高地から最短距離でジャンダルムへ行ける。それに岳沢から見る天狗岩と天狗のコルは最高に魅力的である。我ながら大発見でもしたように嬉しくなった。
しかし、最終的には逆コース、つまり槍沢から登ってジャンダルムまで縦走し、天狗のコルから岳沢へ下るというコースを選択した。それは槍穂の縦走で最大の難所といわれる飛騨泣きを、下りに取らずに登りに取るべきだと思ったことと、西穂は「奥穂から西穂へ向かった方が安全性が高い」とガイドブックに書いてあったからだ。
日程は3泊でも充分だったが、北穂の小屋から朝焼けに染まる槍ケ岳が見たかったので、余裕を持って4泊5日とした。
2005年8月2日(火) 【上高地〜横尾へ】
自宅600−725双葉SA740−840松本IC−908道の駅−930沢渡945-シャトルバス-1012上高地〜河童橋1045〜1125明神1150〜1240徳沢1250〜1348横尾山荘 |
朝6時に車で家を出た。今日は上高地の横尾山荘泊まりなので急ぐ必要もない。
空は今日も青空が広がっていた。関東地方はここ数日ガンガン照りが続いているが、長野県や富山県・岐阜県の方は前線の影響で愚図ついているらしい。ぜひ晴れてほしいものだ。
いつも山へ行く時は子供の遠足のように心がうきうきするが、今日は久しぶりの槍と穂高である。20数年振りに故郷へ帰るような郷愁と共に、初恋の人に会いに行くような、そんな思いで心がときめいた。
中央高速に乗り、甲府を過ぎても南アルプスの頂稜は雲の中に隠れていた。八ケ岳も見えなかった。
松本ICで降り、上高地を目指して行く。途中、道の駅「風穴の里」で休憩する。先週、乗鞍岳へ行った帰りにここで雨に降られたが、今日は少しずつ青空が広がって来た。これなら上高地から穂高がバッチリ見えるかも知れない。
沢渡(さわんど)の市営第二駐車場へ9時30分着。駐車料金は1日500円。4泊5日分を前払い。
待ち時間なしで上高地行きのシャトルバスに乗れた。バスから空を見ると青空が広がっていた。ピーカン、まさに紺碧の空だった。今まで上高地へは何十回も行っていながら、雲一つない穂高を見たのは数回しかない。ぜひ今日は完璧な穂高を見たいものである。
「トンネルを抜けると雪国だった」ではなく、釜トンネルを抜けると焼岳が見えた。雲一つないクッキリとした焼岳に見とれていると、次に待望の穂高が見えて来た。奥穂のテッペンまで雲一つなかった。思わず「ヤッター!」と歓声を上げながら手をたたいてしまった。満員だったバスの乗客はほとんどが大正池で降りた。
私は終点のバスターミナルで降りると、すぐ左手の梓川へ出た。すると目の前に穂高連峰が広がった。ただ、頂稜部には白い雲がわずかに浮かんでいた。車窓から見たのは雲のない部分だったのかも知れない。
いずれにしろ、久しぶりに見る穂高に感激。穂高はいつ見ても美しく神々しい。
観光客でごったがえす河童橋の麓に荷を下ろし、じっくりと穂高を眺める。まるで岩の砦のようにそそり立った岩壁と、白く輝く雪渓。その中でも畳岩の頭から天狗のコルへ落ち込む滑り台のような急斜面が私の心を捉える。今回はあのコルから下って来るのかと思うと嬉しかった。
今日は、最初の予定では「槍沢ロッジ」まで行くつもりだったが、一昨日の天気予報で午後から雨というので、手前にある横尾山荘を予約をしてしまったが、こんな良い天気なら槍沢ロッジまで行けたのに、と悔やんだ。せめて上高地を散策しながらのんびり行こう。
ここからは梓川沿いに遡って行く。
小梨平には沢山のテントが張られていた。私も今度テント泊をしてみたいと思った。
シナノキやシイノキの大木が茂った遊歩道。まさに森林浴を楽しみながら歩いて行く。ここは若者や家族連れが多かった。
明神へ11時25分着。昼食には少し早かったが、早く昼食を摂ってお腹をすかしておかないと横尾で飲むビールがまずくなるので、ここで昼食にした。
明神を過ぎると観光客が一人もいなくなった。山屋だけの世界。登山ツアーの団体とすれ違う。この時間に下って来るのは北穂か奥穂へ泊まった人達だろう。その後、登山者が続々と下って来た。
途中から花の写真を撮りながら行ったが、あまり綺麗な花はなかった。ハクサンフウロが一輪だけ咲いていた。
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徳沢で一服し、林道脇に流れている沢水で喉を潤した。頭上には青い空の中にポッカリと綿雲が浮かんでいた。この空を見る限り、明日も好天が期待できそうである。
ここは日本を代表する景勝地であり、槍・穂のメインルートでもあるため若者を多く見かける。他の山のようにオジさんとオバさんばかりでないのが嬉しい。若い人がいるとそれだけで活気がある。
左手に穂高の前衛のような屏風岩が見えて来た。するとすぐに立派な吊橋が見えた。昔は木の橋だった横尾橋が、こんな立派な橋になっていたので驚いた。
横尾山荘へ13時48分着。山荘も昔の面影はなかった。旅館かペンションのように綺麗な山荘になっていた。昔一緒に来た仲間達に見せてやりたいと思った。
山荘は予約していたので、一部屋に二段ベット二列、つまり4人部屋のベッド一つを確保出来た。予約のない客は大部屋となる。
早速、缶ビールを買って、外で前穂高を眺めながら飲んだ。これから槍沢ロッジへ向かう人もけっこう多い。
ビールを飲みながら、ツアーの山岳ガイドさんに大キレットやジャンダルム、天狗沢について色々と教えてもらった。
大キレットは、穂高から槍へ向かうと飛騨泣きの絶壁を下ることになり、足がすくんでしまう人も多いという。やはり急峻な岩場は下らずに登りにとるべきで、槍から穂高へ向かうのが正解だという。シャンダルムはペンキで印が付いているので問題ない。天狗沢も問題ない、と聞いて安心した。
夕方になって前穂高の稜線を覆っていたガスが切れて来た。前穂高北尾根は山頂こそ見えないが、4峰から6峰までが見えるようになって来た。6峰は北尾根で唯一登ったことがあるので親しみを覚え、つい、近くの人に、「あれが前穂高北尾根の6峰ですよ」と教えたくなってしまう。
(写真は横尾山荘前から見た前穂高北尾根。右のピークが6峰、左へ5峰、4峰と続くが、3〜1峰はガスに煙って見えない)