槍・穂高・ジャンダルム縦走・・・2/6 横尾から槍ケ岳へ


  1.プロローグ、上高地〜横尾へ
  2.横尾〜槍ケ岳へ
  3.槍ケ岳〜北穂高へ
  4.北穂高〜奥穂高へ
  5.奥穂高〜ジャンダルム〜天狗のコル〜岳沢ヒュッテ〜上高地
  6.槍・穂高に咲いていた花


槍沢から見上げる槍ケ岳→拡大写真

2005年8月3日(水)

横尾山荘515〜548槍見河原〜600一の俣605〜641槍沢ロッジ655〜727ババ平740〜807大曲り〜934天狗原分岐〜1010水場〜1102坊主岩小屋(昼食)1140〜1217下の殺生分岐〜1230上の殺生分岐〜1317槍岳山荘1437〜槍ケ岳往復

 朝4時起床。5時前から食堂の前に並んだが、帰る人が多いようで並ぶ人も少ない。朝食を摂りながら、窓越しに前穂高北尾根にかかっていたガスが切れて行くのが見えた。今日も天気は良さそうだ。

 山荘の前には「1,615m」の標識が立っていた。今日は槍のテッペンが3,180mなので、標高差1,565mも登らなければならない。バテないように、ゆっくり行くことにしよう。

 5時15分出発。5分も歩くと今までの遊歩道とは違い完全な登山道になった。一人で歩いていてもここにはクマがいないという安心感があった。北海道の山はヒグマがいるというだけでそうとう緊張するが、ここはクマがいないというだけで開放感があった。

 5時48分、槍見河原へ着いた。しかし、残念ながら槍は見えなかった。
 しばらく歩いていると、下山者に会うようになった。この時間に下山するのは槍沢ロッジから下って来た人達だろう。橋を渡った所に一の俣の標識があった。ここで一服。

 10分も歩くと立派な橋があり、それを渡った所に二の俣の標識があった。頭上には青空が広がって来たが、ここは沢なのでまだ陽は差さない。

 槍沢ロッジの玄関前へ立った時、眩しいほどの朝日を浴びた。庭先のベンチへ荷物を置いてしばし休憩。この小屋も昔の面影はない。立派な小屋になっていた。
 庭先に望遠鏡がセットしてあり、そこに「ここから槍が見えます」と書いてあった。早速覗いてみたが槍は見えなかった。
 今日はガンガン照りになりそうなので、日焼け止めクリームを顔や腕にたっぷり塗りつけた。

 ここからが槍ケ岳への本格的な登りになる。昨日、横尾山荘へ早く着いたので飲んでばかりいたが、そのアルコール分が汗となって流れて行く。

 ババ平(写真左)は、昔の槍沢ロッジの跡地で、水はホースで引いてあった。現在はテント場として利用されており、簡易トイレもあった。私も秋の紅葉の季節にテント泊で来てみたいと思った。
 ここで一服している間にも、続々と下って来た。皆んなヘバった顔をしている。

 上部にかかっていたガスが切れ、すっきり晴れ渡って来た。ここで持って来た水1Lを入れ替え、さらに空の1Lのポリタンを満タンにした。

 ここはもう20年も前のGWに登ったことがあった。その時は残雪が沢底を埋め尽くし、まるで天まで続く滑り台のような一本道を登って行ったが、今は右へ左へとジグを切りながら登って行く。同じ道でありながら、 季節によってこうも違うものかと驚く。

 雪山は文字通り白い雪と黒い岩肌しかないモノクロの世界であるが、今は緑のハイマツや黒い岩肌に白いガレ、それに少し雲がかかっているが青い空も見える。まさに総天然色である。写真の好きな人の中にはカラーよりもモノクロがいい、という人もいるが、私はやはりカラーの方がいい。

 もし、この風景の中に、少しでも残雪でもあれば申し分ないのだが・・・、と思っていると、急に涼しい風が吹き渡って来た。そして、すぐに雪渓が現れた。こんな夢みたいなことがあるのだろうか。

 そこからすぐに大曲りへ着いた。大曲りには標識と「乗越沢」のペンキ印があった。
 右手には東鎌尾根へ出るかなり急峻な道があった。槍沢はここから左へ大きくカーブを描きながら登って行く。

 登山道の右側にニッコウキスゲやハクサンフウロが群落をなして咲いていた。クルマユリやトリカブトなどもあった。少し寄り道をして写真を撮りながら行った。



シナノキンバイ

ハクサンフウロ

クルマユリ

(これ以外の花は、最後のページに掲載しています)

 すぐに雪渓を登るようになった。カメラをザックにしまい、サングラスを掛けて行く。私はすぐに雪目になってしまうからだ。

 その雪渓も100mほど登ると、夏道が現れて来た。そのまま雪渓を登って行く人もいたが、私は真夏の槍沢に咲く花が見たかったので、夏道を行くことにした。花はシナノキンバイやミヤマキンバイ、シラネニンジンなどがほとんどで、特に珍しい花はなかった。

 途中で一服していると、昨日、横尾でキャンプしていた学生10人位が大きな荷物を担いで登って行った。先頭は女性だったので驚いた。ここから歩き出すと1、2分で天狗原分岐へ着いた。どうせならここで休憩すれば良かったと思いながら素通りした。しばらく登ると、ハクサンフウロが群落をなして咲いていた。

 水場は登山道から5mほど下った所で音を立てて流れていた。こんなに水が豊富なら2Lも持たずにここで補給すればよかった、と思いながら通過したが、20mも登った所で20人位が休んでいた。なぜあんな所で休憩しているのか分からなかったが、近づいてみると冷たい水が流れていた。せっかくなので私も一息入れていくことにした。

 発電機の音が聞こえて来た。こんな所に小屋が出来たのか? と思いきや、水汲み上げ用のポンプ小屋だった。

 坊主岩小屋の標識のところで大勢が休んでいた。周りには普通は7月に咲き終わってしまうチングルマが咲いていた。今年は雪解けが遅いせいだろう。
 私もここで昼食にすることにした。湯を沸かしラーメンを食べる。山で食べるラーメンは最高にうまい!

 ここは東鎌尾根にあるヒュッテ大槍との分岐になっており、稜線を歩いている人が見えた。食事を済ませ11時42分に出発。

 右手上部に殺生(せっしょう)ヒュッテが見えた。
 左上部には槍岳山荘がぼんやりと見えるが、肝心な槍ケ岳の穂先はガスに煙って見えない。
 しかし、しばらくすると、パーとガスが切れ、待望の穂先が現れた。周りから一斉に歓声が上がった。
 ここから見ると余り高度感は感じないが、天を突く尖峰は神々しく、アルピニストの心を捉えるてやまない。

 殺生ヒュッテとの分岐へ12時17分着。
 細かい雨が落ちてきた。雨具を着るほどではないが、槍の穂先が見えなくなってしまった方がつらい。上部の殺生との分岐へ12時30分着。

 雨はいつの間にか止んだ。槍岳山荘へ13時17分着。さすがは槍の山荘だけあって賑わっていた。外のテーブルでは美味そうにビールを飲んでいる団体さんもいたが、肝心な槍の穂先は見えない。

 宿泊手続きを済ませ、カメラと水と雨具だけをアタックザックに詰め込んで、「サア、槍へ行くぞ!」と外へ出た瞬間、雨がパラパラと落ちて来た。「なにー、雨! どうなってんだ、これは!」、呆然と立ち尽くす。

 玄関を出たり入ったりしながら10分も待っていると、雨は上がるどころか逆に本降りになってしまった。「こりゃあ、ダメだ!」と諦めモードに入り、ならば、と缶ビールを買って来て飲み始める。ただし、いざという時のために350mmで我慢する。

 槍へ登ってズブ濡れになって下って来た人達がいた。おいおい雨具ぐらい持って行けよなあ・・。

 14時20分ごろに雨が止んだ。待ってましたとばかりに出かけて行くパーティーもいたが、濃いガスで視界は4、50mしか利かない。私は、もう少し待とう、とじっくりモードで待機した。そして、周りが少し明るくなって来たのを見計らって、いざ出陣。槍の穂先に向かって登り出した。

 クサリやハシゴを伝い、両手両足を使って登って行く。山頂への最後のハシゴを登ろうとした時、某大学の学生(横尾でキャンプしていたので顔見知りになった)が、「雨男が二人下って来たのできっと晴れて来ますよ」、と言って下って行った。

 すると、何とすぐに晴れてきたのだ! 最後のハシゴを登っている時、パーとガスが切れ出した。山頂へあと10秒か15秒という時だった。山頂へ着くなり、そこにいた10人ほどの人達と一緒に大歓声を上げた。最初に笠や双六、三俣蓮華方面が見えて来た。すぐに常念や大天井などが見えて来た。こんなラッキーなことが今まであっただろうか。

 私に「雨男が二人下ったので晴れて来る」と言った学生が、下から、「お〜い! 写真撮っておけよ〜〜」と仲間に怒鳴っていた。まったくお気の毒な学生さんだ。その仲間の学生が必死でシャッターを押していた。もちろん私もめちゃくちゃシャッターを押した。


(硫黄尾根)

(槍岳山荘)

(槍ケ岳山頂)

(常念岳)

 山頂で一服しながら学生さんとしばし山談義。
 山頂で充分満喫したのでサア下ろう、と下を見ると、登って来る人達が蟻の行列のように繋がっていた。しかし、ここはコースが登りと下りに分かれているので、スイスイと下ることが出来た。

(写真左は山頂直下のハシゴ場。下りで撮ったもの)

 小屋へ戻るなり、缶ビールの500mmを買って来て乾杯! 今登って来たばかりの槍ケ岳を眺めながら登頂を祝った。

 それにしても、ここから見る槍はでかい。写真で見るとすっきりと納まっているが、あれは超広角レンズで無理やり収めているのだ。生で見る槍は恐ろしいほどデカくて迫力がある。

 今、慌てて登っている人達が蟻のように山頂まで繋がっている。ここから見るとまるで垂直の壁を攀じ登っているようだ。今でこそクサリやハシゴなどが架けられて容易に登れるようになったが、槍を開山した播隆上人は一体どうやって登ったのだろうか。ザイルなど無かった時代だから麻綱でも使ったのだろうか。

 そんな播隆上人に敬意を表しながら、2本目の缶ビールを空けた。

 17時ごろになって、また雨が降り出した。雨に打たれながら到着する人が大勢いた。こんな時間に到着するとは驚きだ。アルプスは午後の3時頃までに着くのが鉄則なのだ。午後になると雷が発生しやすいからだ。日程上やむを得ず計画しているのだろうが、あまり感心はできない。

 今日は水曜日のせいか布団1枚を確保できた。夜中は暑くて寝苦しかった。