第二部 地震防災情報

 2.6 東京都の被害想定と地域危険度

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 東京都は特定の地震が発生した場合の被害想定および各々の地域が持っている地震に対する危険性を相対的に評価する地域危険度を公表しています。
 被害想定:東京都防災会議
 地域危険度:東京都都市計画局

 被害想定の対象となる地震
 直下地震の被害想定とその条件など
 直下地震の被害想定結果
 地域危険度 (あなたの町の危険度は?)

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 ● 被害想定の対象となる地震 
 ● 被害想定の対象となる地震 

 被害想定については、1923年(大正12年)に発生した関東大地震(マグニチュードM=7.9、死者など10万5千人)の再来を想定して、昭和53年には東京都区部の被害想定が、また昭和60年には多摩地域の被害想定が公表されていましたが、平成3年には区部と多摩地区をあわせたものが公表されました。さらに、1997年(平成9年)には直下地震の被害想定が公表されました。これらの被害想定の対象となる地震を表TK-1に示します。

表TK-1 被害想定の対象とされる地震
地震名 地震の概要 過去の地震
関東地震 プレート境界型地震で、M=7.9 1923年(大正12年)の関東大地震での死者行方不明者は東京市で6万人、全体で14万人
直下地震 フィリッピン海プレートの上面付近
M=7.2程度
1855年の安政江戸地震(M=6.9、死者など7,444人)、1894年(明治27年)の東京地震(M=7.0、死者31人

 次回のM=8クラスの関東地震まではまだ時間的に余裕がある一方で、それまでの間に、フィリッピン海プレートの上面付近で、M=7程度の直下地震が数回起こるであろうとと考えられています。以下、より発生の可能性の大きい直下地震の被害想定などについて示します。

 ● 直下地震の被害想定とその条件など 
 ● 直下地震の被害想定とその条件など 

 直下地震は、南関東のどこにでも発生する可能性があるので、表TK-2に示すように、4つの震源域(地震モデル)が選択されています。被害想定は表TK-3に示すような想定項目を対象として検討されました。

表TK-2 被害想定の条件など(直下地震)
想定地震 震源域(岩盤の破壊面積) 規模
(マグニチュード)
震源の深さ     地震発生時刻および気象条件   
直下地震

フィリッピン海プレート上面に沿うプレート境界型地震
40km×20kmで、区部直下など下記の4箇所
・区部直下の地震
・多摩直下の地震
・神奈川県境直下の地震
・埼玉県境直下の地震
7.2 地下20〜30km 冬の平日午後6時、晴れ、風速6m/秒
表TK-3 被害想定項目とその内容(直下地震)
想定項目 内容
ゆれ、液状化、津波・地震水害 地盤のゆれ、地盤の液状化、津波、地震水害
建物等の被害 ゆれ・液状化による建物被害、がけ崩れによる建物被害、ブロック塀等の被害、落下物、その他
火災 出火、消火、延焼火災、その他
鉄道・道路等の被害 鉄道、道路の被害と復旧、その他
供給処理施設の被害 上水道、下水道、電力、都市ガス、電話の被害と復旧
人的被害 死者、負傷者
社会生活上の被害 帰宅困難、住宅支障、食料支障、飲料水支障、医療支障、教育支障、その他

 

 ● 直下地震の被害想定結果 
 ● 直下地震の被害想定結果 

 区部直下、多摩直下、神奈川県境直下、埼玉県境直下のいずれの地震でも、最大震度は6強です。震度6強は、立っていることができず、はわないと動くことができないような揺れであり、屋外では、多くの建物で、壁のタイルや窓ガラスが破損、落下し、補強されていないブロック塀のほとんどが崩れるような状況が予想されます。
 1995年(平成7年)の兵庫県南部地震と直下地震を較べると、直下地震は震度7のゾーンがない一方で震度6弱や震度6強などの激しい揺れを受ける範囲が広いのが特徴です。

 区部直下、多摩直下、神奈川県境直下、埼玉県境直下の地震の内で、被害が最も大きくなるのは区部直下地震であるので、区部直下地震の被害想定の概要を表TK-4に示します。

表TK-4 被害想定結果の概要(区部直下の地震)
震度6強の面積率(%) 震度6強以上となる面積率は区部の約14%で、江東区、江戸川区、大田区、荒川区、墨田区の順に多い。都全体では約5%。
津波と地震水害 津波の高さは10cmあまりで、津波による被害はない。堤防の破壊などによる大きな水害の発生する可能性は小さい。
全壊、半壊棟数
(揺れ・液状化)
約4万3千棟、半壊は約10万棟。全壊棟数は、足立区、江戸川区、大田区、江東区、世田谷区の順に多い。
ブロック、石、コンクリート塀の被害 約5万8千件で、被害件数は、世田谷区、大田区、江戸川区、足立区、葛飾区の順に多い。
落下物 飛散物、非飛散物合わせて約4万8千棟で、大田区、世田谷区、江東区、江戸川区、足立区の順に多い。
焼失棟数 約32万棟で、大田区、江戸川区、世田谷区、杉並区、葛飾区の順に多い。
断水率 1日後、区部での断水件数は約130万件で、断水率は約31%になる。応急復旧は区部で約1ヶ月、多摩で13日。
停電率 停電率は約20%で、応急復旧は区部、多摩とも7日。
ガス供給停止 ガス供給停止は約130万需要家で、区部の32%に相当する。応急復旧は57日。
死者 死者は約7,200人で、大田区、世田谷区、江戸川区、葛飾区、中野区の順に多い。逆に区部で死者が少ないのは、豊島区、板橋区、文京区、練馬区、渋谷区などである。
負傷者(重軽傷) 負傷者は約16万人で、大田区、中央区、港区、千代田区、江戸川区の順に多い。
帰宅困難者 帰宅困難者は約370万人で、区部だけでは約330万人(48%)である。千代田区、港区、中央区、新宿区、渋谷区の順に多い。
自宅外避難者数 1日後:約230万人、4日後:約190万人、1ヵ月後:約140万人

 

 ● 区部直下の地震による死者数など 
 ● 区部直下の地震による死者数など 

 区部直下の地震による人的被害などを表TK-4に示します。表TK-4によると、死者は大田区、世田谷区、江戸川区で多く、都全体では7,000人程度になると予想されています。
 負傷者は世田谷区、中央区、港区で多く、都全体では16万人程度になると予想されています。また、370万人もの帰宅困難者が発生し、1ヵ月後の電気やガスなどのライフラインが復旧した状態でも90万人の自宅外避難者が残ると推定されています。

表TK-5 区部直下の地震による人的被害など
区市町村名 死者合計(人) 負傷者合計(人) 帰宅困難者数(人) 自宅外避難者数(人)
1日後 4日後 1ヵ月後
千代田区 114 8,864 603,930 5,905 3,574 2,051
中央区 143 10,885 418,447 14,607 9,154 5,385
港区 135 9,330 450,111 20,351 10,969 7,411
新宿区 155 7,616 350,295 35,324 25,249 22,070
文京区 51 2,784 113,229 15,026 9,477 7,595
台東区 82 4,624 126,748 37,965 26,262 15,036
墨田区 120 4,343 48,558 64,887 59,853 25,928
江東区 227 9,689 71,265 116,370 94,692 47,907
品川区 192 6,383 124,458 68,919 49,317 42,704
目黒区 172 3,438 51,874 62,251 55,263 52,411
大田区 1,107 11,825 118,967 236,938 181,539 160,770
世田谷区 834 8,360 96,077 161,216 132,479 122,996
渋谷区 77 5,372 223,600 36,231 28,271 25,745
中野区 516 3,475 37,703 69,327 62,136 59,824
杉並区 478 4,962 53,331 135,968 124,484 120,768
豊島区 44 2,652 157,116 22,925 16,203 13,994
北区 140 2,620 42,925 70,412 63,658 39,381
荒川区 320 3,035 29,746 65,318 58,037 41,349
板橋区 45 2,699 69,143 36,452 26,193 15,193
練馬区 56 2,578 46,436 49,606 38,826 34,585
足立区 301 6,010 54,382 196,736 231,031 64,407
葛飾区 625 5,881 30,148 176,275 167,138 107,690
江戸川区 773 8,602 29,534 239,266 185,020 147,957
区部計 6,717 136,825 3,348,023 1,938,275 1,658,824 1,183,157
八王子市 41 2,136 81,477 19,615 10,484 7,233
立川市 18 1,098 24,486 11,323 8,559 7,576
武蔵野市 17 802 27,277 27,646 16,565 9,528
三鷹市 71 1,573 13,683 58,079 46,022 37,625
青梅市 4 188 9,894 1,159 699 442
府中市 39 2,146 20,252 49,946 43,191 40,914
昭島市 10 508 6,464 13,947 5,817 2,165
調布市 34 1,663 19,030 35,665 21,133 17,521
町田市 33 1,760 47,586 21,596 13,433 10,490
小金井市 12 794 9,253 18,530 15,867 14,899
小平市 15 725 15,386 13,697 20,077 2,713
日野市 22 1,130 14,801 21,817 15,037 12,895
東村山市 7 415 6,013 4,540 2,071 1,192
国分寺市 19 909 8,587 19,173 16,173 15,073
国立市 10 705 9,193 11,573 9,668 8,970
田無市 6 313 4,209 4,988 5,069 954
保谷市 8 360 5,844 4,258 2,023 1,106
福生市 5 216 2,668 2,099 976 576
狛江市 13 581 3,528 8,552 5,468 4,494
東大和市 5 255 2,315 3,256 1,491 855
清瀬市 5 225 2,625 2,343 1,175 675
東久留米市 7 333 2,060 5,186 2,064 929
武蔵村山市 4 229 2,598 2,331 1,170 673
多摩市 15 1,052 10,804 13,281 10,184 5,967
稲城市 14 624 4,035 12,162 8,050 3,656
羽村市 0 68 3,932 2,421 1,007 247
あきる野市 7 289 3,421 1,832 819 467
瑞穂町 1 85 2,174 783 374 191
日の出町 0 22 253 249 104 57
檜原村 0 1 857 2 2 2
奥多摩町 0 2 1,406 4 4 4
多摩計 442 21,207 366,111 392,053 284,776 210.089
都 計 7,159 158,032 3,714,134 2,330,328 1,943,600 1,393,246
黄  色
 黄色の表示はワースト3

 本の紹介 『溝上恵著 徹底検証 東京直下大地震 小学館文庫
 本書は「東京直下地震」の切迫性の科学的根拠を明らかにし、地震が起こった場合の被害状況を予測・検証することによって、来るべき時に備えることが重要であるとの立場で、首都圏を襲う地震について解説しています。ケーススタディでは、東京都防災会議編集の「東京における直下地震の被害想定に関する調査報告書」に示された被害想定を基にして、目の前にどのような惨状が出現するかを小説風のタッチで再現し、各々個人が地震発生に際してどのような異常事態に直面するかを具体的に示しています。また、南関東を襲う可能性のある地震を整理し、それぞれ科学的根拠を示して警告しています。首都圏に生活の場をもつ人はぜひ読んで頂きたい1冊です。

 1.9 地震・震災・防災などに関する一般的読み物より

 

 ● 地域危険度 
 ● 地域危険度 

【地震に関する地域危険度測定調査報告書(平成14年公表)より】

地域危険度について

 東京都では概ね5年間に一度の割合で地域危険度調査を実施しています。
 最新の調査報告書は平成14年の「地震に関する地域危険度測定調査報告書」(第五回)としてを公表しています。

 被害想定はある特定の地震が発生したときの被害を想定するのに対し、地域危険度は各々の地域が持っている地震に対する危険性を相対的に評価するものです。
 地域危険度は、
 @地震災害に強い都市づくりの指標とする
 A地震対策事業を優先的に実施する地域を選択する際の参考とする
 B地震災害に対する都民の認識を深め、防災意識の高揚に役立てる
ことを目的として実施されています。
 調査対象区域は調査年度によって若干異なりますが、平成14年の調査では原則として区部および多摩の市街化区域=5,073町丁目です。
ランクの割り当て 円グラフ
図TK-1 ランク割り当ての比率(%)
ランク5は全体の1.64%
 地域危険度は、地盤の諸性状に関する調査および建物・火災・避難に関するデータを基にして、建物倒壊危険度、火災危険度、避難危険度の3種に分類され各々1〜5までの5段階(ランク1〜ランク5)に等級化されています。
 地域危険度は建物倒壊危険度、火災危険度、避難危険度に加え、3つの危険度を総合した総合危険度および3つの危険度を組み合わせた危険度特性によって地域の危険性が評価されています。

危険度および評価の流れ図

 危険度のランク分けの割合は危険度ランクが増すほどその町丁目数は少なくなり、図TK-1に示すようにランク5は全体の1.64%に設定されていることから、ランク5は特に注意が必要な地域(町丁目)が抽出されていることになります。

危険度5にランクされた町丁目はどこか
 
 地域危険度は建物倒壊危険度、火災危険度、避難危険度の3つの危険度とこれらを総合的に評価する総合危険度に分かれており、それぞれ危険度が5にランクされた地域は、”A区B町1丁目”のような具体的な地域名として公表されています。
 表 TK-6 の円グラフの下の確認ボタンをクリックすると具体的な地域名が確認できます。


 表TK-6の円グラフは、危険度5の地域が多い区を示しています。

表TK-6 地域危険度が5とランクされる区・市および町丁目(円グラフは平成14年)の調査
 あなたの町は?・・・   確認ボタンをクリックすると、具体的な区・町丁目が新しいウィンドウに表示されます。
建物倒壊危険度

 建物倒壊危険度は地震の揺れによって建物が受ける被害の度合いを示しており、古い木造住宅が多い地域や地盤条件の悪い地域ではこの危険度が大きくなります。
建物当会危険度 円グラフ
@建物倒壊危険度5の町丁目を確認する
火災危険度

 火災危険度は出火と延焼の危険性の度合いを示しており、出火件数や出火要因の多い地域、木造の住宅や工場等密集地域ではこの危険度が大きくなります。
火災危険度円グラフ
A火災危険度5の町丁目を確認する

避難危険度

 避難危険度は安全な避難場所までの避難のしやすさ・しにくさを示しており、避難人口の多い地域、避難場所が遠い地域、ブロック塀や電柱あるいは放置自動車などの障害物の多い地域、液状化により路面が悪化している地域、延焼が起こりやすい地域ではこの危険度が大きくなります。

避難危険度円グラフ
B避難危険度5の町丁目を確認する
総合危険度

 総合危険度は上記の3つの危険度の順位を合算を5段階で評価しており、総合的な危険度を表したものに相当します。

総合危険度円グラフ
C総合危険度5の町丁目を確認する


 平成10年の調査で総合危険度が5と評価された町丁目の順位1位は墨田区京島3丁目であり、2位は同2丁目でした。
 危険度順位1位2位といっても象徴的な意味合い以外に大きな意味があるとは思いませんが、地震に弱い町であることは確かであるので、墨田区京島の町並みを下の写真で見てみます。

写真TK-1 墨田区京島二丁目、三丁目
京島二丁目と三丁目 写真の通りは京島二丁目と三丁目を分ける主要な道路であり、向かって左側が京島三丁目で右が二丁目になります。この道路の左右両側には危険度の大きな住宅密集地が広がっています。
京島三丁目京島三丁目の商店街 写真上:京島三丁目

 京島二丁目および三丁目には写真のような路地風の風景が多く、道幅が狭くT字路が多い住宅密集地です。写真のような風景は京島に限らずどこにでもありそうですが、範囲が広くなると防災上の問題が大きくなります。
 
 住宅の建て替えによる住宅の更新、空き地や道路の確保などが若干認められますが、全体からすると地震に強い街づくりは遅々として進んでいないようにみえます。
 大地震が発生した場合、木造住宅の倒壊および火災の発生と延焼などによって被害が拡大する可能性が大きくなります。

写真下:京島三丁目の商店街


撮影:2002/9

 なお、平成14年の調査における総合危険度は墨田区京島3丁目が順位65(ランク5)、同2丁目が順位317(ランク4)と共に順位が下がり、1位は足立区千住仲町に変わりました。


危険度特性評価

 評価方法
 @建物倒壊危険度、火災危険度、避難危険度のランクによって、それぞれA(ランク1〜3)とB(ランク4〜5)に2分します。
 A建物倒壊危険度、火災危険度、避難危険度の順にAであるかBであるかを表記すると、ABAなどのような3文字のABを組み合わせた記号ができます。これを評価記号といいます。
 B評価記号は次のような防災上の特性を示しているものと考えます。

評価記号 防災上の特性
AAA 相対的に危険度の低い町
AAB 避難に困難を伴う町
ABA 火災に注意すべき町
BAA 建物倒壊に注意すべき町
ABB 火災と避難に注意すべき町
BAB 建物倒壊と避難に注意すべき町
BBA 建物倒壊と火災に注意すべき町
BBB 建物倒壊、火災、避難の全てに注意すべき町
 Bが2つ以上の町丁目を確認する 

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 参考資料
 東京における直下地震の被害想定に関する調査報告書 東京都 1997
 地震に関する地域危険度測定調査報告書(第4回) 東京都 1998
 同                         (第5回) 東京都 2002
 溝上恵 徹底検証東京直下大地震 小学館文庫 2001 

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