「嵐前」雑感


1998/07/21

 初期の、まだ若かった頃のキャンベルの作品(もっとも彼の「クトゥルフ神話」作品はみんなこれに当てはまりますが)にはひらめいたアイディアを素のままで書き連ねていくという部分が良く見られるそうですが、この「嵐前」も多分にそのような傾向の作品です。主人公の男が幻覚に苛まれる描写は、既に訳されている「妖虫」と類似しています。と言うかプロットそのものがほとんど同じだと思います。

 ただ「妖虫」に比べて、もう一方の主役であるアイホートに関する説明が今一つなされていないという欠点があると思います。私の読解力がたいした事無いのは要約を読んだ人ならお分かりでしょうが、男が「結社(これはやはりアイホートを崇める集団なんでしょうが)」に誘われてアイホートの住処へと導かれるくだりが分かり難いのは、実際原文の方にもあまり書いていないからなんです。男は半ば無理矢理「魔女の家」に連れて行かれたのか、それとも騙されたとはいえ自分からその中に踏み込んだのか。錯乱した男の記憶の雰囲気を出すための表現が含まれているとはいえ、今一つはっきりしないのです。

 おそらくアイホートの信仰はイグやシアエガのような土着型なのでしょう。あまりワールドワイドなタイプとは考えられません。その地方一帯の地下に広大な迷路を構え、その中心で蜘蛛のように獲物の到着を待ち構えている、そんな感じです。その迷路は自然の産物の部分もあるでしょうが(アイホートが現れる「井戸」の底等はおそらくそのようで)、信者達が作り上げた人工物の部分もかなり多いのでは。信者の活動の一環が迷路の構築というのは面白いです。

 そしてその迷路の入り口が地方の都市の意外な一角にも設けられているとしたら。例えば地下鉄の路線の一つにしばしば、普段は存在しない駅が現れて運悪く乗り合わせた客が消えていくとか。「不可解な誘拐・失踪事件」の犯人役の候補には挙げられます。ただ舞台がどうしてもイギリスの地方都市(おそらくはブリチェスター)に限定されるのが難点ですね(無理矢理日本と「門」でつなげるか?)。そう言えばブリチェスターを扱ったサプリメントなんか存在するのかな?

 あと、この設定を無理矢理ワールドワイドにする方法として今お世話になっているインターネット(網ですよ、蜘蛛の網!)を使うというのは?「果てしなきリンクの追跡の果てに会い見える恐怖とは?電脳空間に伸ばされるグレート・オールド・ワンの触手!NetSurfin'はやがてNetMazin'に変わり、無理矢理開かれる新たなるブラウザーの窓の中、止められない止まらない状態のネットジャンキーは何を見たのか?」グレート・オールド・ワンの信者がウェブページを開いているというのも面白いですね。独自のドメイン名まで持っていたりして。eihort.orgとか(cthulhu.orgは実在しそうだな)。


2000/01/18

 シナリオ等の作成の際に、アイホートに関して思いつくキーワードは、「迷路」「植え付けられし仔」「幻覚と妄想」「スプラッターな死に様」ぐらいですか。

「迷路」という事で、ブリチェスターの近辺という限定を設けないようにする場合は、やはり都会の迷路(状の舞台)において知らぬ間に「門」あるいは「空間の重なり」によってアイホートの迷宮へと連れ去られてしまう、というシチュエーションが良いのでしょうか。

 既存の作品からパクるなら、ニューヨークのグランドセントラル駅で主人公がある日突然地下二階までのはずの駅の中に地下三階への階段を発見し、そこに異世界(性格には古き良き過去の世界)行きの蒸気機関車が停車しているのを見出すという幻想小説「レベル3」(ジャック・フィニィ、早川書房『レベル3』収録)や、東京の都心を舞台に、ある晩忘れ物を取りにオフィスのあるビルへと登っていったサラリーマンが44階から下へどうしても降りられなくなってしまう(エレベーターは43階との間で引き返し、階段はどれも44階で途切れている)、というホラー短編漫画「摩天楼の微笑」(生島玲、週刊コミックモーニング掲載)等を思いつきました。

 導入はやはり、最近街で頻繁に発見される「スプラッターな死に様」の死体に関する謎を調査する探索者達が、被害者の足取りを追って都会の迷路から「迷路」へと……というものでしょうか。「幻覚と妄想」にとりつかれ「開けてくれ!」という叫びを繰り返す証言者(この後病院か留置場で「ひでぶ!」と破裂死)も登場したり。

 あと、時々地上に出現するあのミステリーサークル……見方によっては「迷路」状のあの模様は(あるいはあれを製作した存在は)アイホートと何か関係があるのでしょうか?そういえば、あれはイギリスでよく見られた様な……。

 それに、バブル狂の時代前後に流行した巨大「迷路」のアトラクション……。テーマパーク自体が寂れた今となっては、遊びに行ったまま帰ってこない家族がいてもあまり怪しまれないのでは……。


2001/03/23

"THE KEEPER'S COMPANION"における「グラーキの黙示録」“クトゥルフの呼び声TRPG”用データをけえにひ様から提供していただき、翻訳しました。ありがとうございます。


2004/08/24

サプリメント"RAMSEY CAMPBELL'S GOATSWOOD"から、アイホートの新たなる魔力に関する設定、及びアイホートの雛に関するデータを訳出しました。(訳出アドバイス:けえにひ様@とらのあな

アイホート

アイホートが支配しているのは住処である冥き迷宮だけではありません。人間の頭蓋骨の中にある迷宮、即ち脳をもまた支配しているのです。無数の裂け目やねじれ、そして経路から構成されている脳こそは、アイホートの顕現が感じられる場所でしょう。「地下をよろめき歩くもの」は人間の精神を支配し、操る事が出来るのです。

攻撃及び特殊効果:幻覚。5マジックポイントを消費し、抵抗表上においてマジックポイント同士の判定に成功する事によって、アイホートは脳の感覚中枢を操り、それによって何らかの望んだ感覚を約5分間創り出す事が出来ます。犠牲者にとって幻覚は完全に現実的であり、妥当な場合はヒットポイントへのダメージや正気度の喪失さえ引き起こします。アイホートは1人の精神につき5ポイントのパワーを消費して、最大で6人の精神を操る事が出来るのです。〈アイデア〉ロールに成功すると、この幻覚に気づく事が出来、〈説得〉あるいは〈心理学〉のロールに成功すると、これをうち破る事が出来ます(幻覚をうち破ってしまった者は、〈アイデア〉ロールに成功していない他の者に〈説得〉あるいは〈心理学〉のロールを試みる事が出来ます)。

 苦痛及び嫌悪8マジックポイントを消費し、抵抗表上において自身のマジックポイントで対象者のマジックポイントに対する判定に成功する事によって、アイホートは、対象者の肉体を破壊し1D6ポイントの耐久力を失わせるほどの激痛と苦悶を引き起こします。脳が身体全体の管理中枢であるが故に、逆むけの痛みを百倍に増幅したようなこの苦痛はおそらく、煮えたぎった血液や炎症を起こした神経等といったものによって引き起こされています。苦痛自体は精神的なものですが、そのショックのために起こる耐久力の喪失は現実のものです。

 アイホートはまた、人間精神の最も暗き深奥に働きかけ、対象者の持つ特定の恐怖を増幅する事も出来ます。これは6マジックポイントを消費し、前述の抵抗表上における判定を必要とします。アイホートが判定に成功した場合、対象者は適当な恐怖症や強迫観念という結果が引き起こされる事によって1D4+1ポイントの正気度を喪失します。

 精神置換。これはアイホートの精神攻撃の中でも極めて苛酷なものです。アイホートは8マジックポイントを費やし、抵抗表上において自身のマジックポイントで対象者のマジックポイントに対する判定に成功する必要があります。成功した場合、アイホートは犠牲者の精神を、今まさに死亡する直前の、奉仕者の一人の身体の中に送り込むのです。この置換の犠牲者は自動的に1D6ポイントの正気度を喪失します。アイホートの奉仕者は宇宙のいたるところにいるので、置換された不運な人間は無数の異界の光景の目撃者となってしまうのです。他者の身体の中にいる間に探索者が見たり経験したりした物事(キーパーの自由裁量)によって、どれだけの追加の正気度が失われるかという事が決定します。

 奉仕者の身体の死は置換の犠牲者に1D3/1D8+1ポイントのさらなる正気度の喪失を起こしますが、その精神はすぐに宇宙空間を渡って本来の身体へと送り返されます。自分の身体へと帰還する度に、呪文の対象者の精神は再び、最初に精神置換の力が効果をあげた時と同じパーセンテージで、抵抗表上におけるロールをしなくてはなりません(例えば、最初に精神置換の力が効果をあげた時の、アイホートの成功の可能性が85%だった場合、追加の各チェックもまた85%になるでしょう)。アイホートがロールに成功する度に精神置換は続けられ、犠牲者は再び未知の世界の最も暗き領域を通り抜けて、異星人の身体へと押し込まれます。そのような各置換とその結果としての死の度に、先述の正気度喪失が起こるのです。言語を絶するこれらの転換は、アイホートが抵抗表上における判定に失敗するか、犠牲者が死ぬか、発狂するか、宇宙空間において行方不明になってしまうかするまで続きます。


アイホートの雛

アイホートの雛はアイホートの迷宮に棲んでいる、白くて小さな地虫か蜘蛛に似た怪物です。それらはこのグレート・オールド・ワンが目覚め解放されるまで、地面のすき間や裂け目や穴に潜んでいます。その時が来ると、それらはより小さな「地下をよろめき歩くもの」の姿へと変態するでしょう。現時点では、雛は踏みつけたり押し潰したり等して、容易に殺す事が出来ます。しかし、それらを組織的に破壊する事はアイホートを激怒させる危険性があります。

 通常、雛は知的でも攻撃的でもありませんが、実は後者の状態になる可能性を秘めています。アイホートの復活する時が近づくと雛は興奮し始め、自分達の来るべき変異を予期して、より素早く動き出します。雛が攻撃的になるのはそのような時――あるいは特にアイホートの命令があった時――です。

 上記の状態にある雛は、あたかも素早く動く球状の蜘蛛の様であり、対象の上に群がる事により攻撃してきます。一度に二十匹以上の雛が対象に群がった場合、それらが一斉にかじり喰いつく事により、各ラウンドごとに1D4ポイントのダメージを与えます。それに加えて、まとわりついてくる多数の雛のために犠牲者は正気度チェックを行わなくてはならず、1/1D3ポイントの正気度を喪失します。

 プレイヤー・キャラクターは各ラウンドごとに二回から三回、キーパーが適当と思える回数だけ、雛を叩き落とす事が出来ます。各ラウンドで叩くたびに、1D6+2匹の雛が払い落とされます。これらのしつこい怪物達を取り除こうとしている間、探索者は他の行動を何も行う事が出来ません。キーパーは、探索者が雛を払い除けようと試みている間につまづき倒れる事を回避するため、DEXの5倍のロールを要求する事さえも出来ます。

アイホートの雛、おぞましい手先
武器:群がる 100%、ラウンドごとに1D4ヒットポイントのダメージ
かじる 100%(意識のない犠牲者に対して)、1D10分ごとに1ヒットポイントのダメージの喰いつき


△Return to Top

「嵐前」へ
▲Return to Index▲