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根付ギャラリー 疑惑根付 その1




 根付の蒐集に際しては贋作に注意する必要があります。

 200年以上前の江戸時代から既に”有名作家の贋作があった”という記録が残されています。また現代においても根付が高額で取引されていることを背景にして国内及び海外で贋作が作り続けられていて、骨董業者からの依頼によって贋作作りに励んでいる人達がいます。最近は中国からのフェイクがインターネット・オークションで非常に多く流通しています。根付の写真入りカタログが発行されるとただちにそのフェイクが市場に出現する、という事件は何十年も前からありました。

 本物と贋作を見分けるためには本物をたくさん見て観察する必要があります。同時に、贋作についても知識としてよく知っておく必要もあります。偽物、贋物、コピー、フェイク、いけないもの、インチキ、イヤブツとさまざまな言い方がありますが、結局は騙しを前提とした「嘘」です。そのような疑惑の作品を集めてみました。




意図的に古色が付けられている。産地は中国・香港方面と思われる。
某サイトにおいて”江戸時代の日本の根付”と称して売られていた。
材質は象牙又はマンモス牙の可能性がわずかに残るが、
電子レンジなどで意図的なひび割れを作った後に
濃く染めたものと思われる。
解題的に「髑髏と兎」の組み合わせの意味するところも不明。
本歌の作品でこのような組み合わせは見たことがない。
【産地の嘘、時代性の嘘】
典型的な中国香港根付。
白磁のような表面で材質はおそらく練り物。
チャイナ系の独特のスタイルと彩色のパターンを覚えれば
すぐに判別できるようになる。
根付のエキスパート達からはこのような根付は
俗称”空港土産”と呼ばれ、蔑まれている。
【産地の嘘、材質の嘘】
典型的な香港根付。材質はおそらく練り物。
胸にある円形のマークが香港ものであることを物語っている。
このように角が尖っていて壊れやすい根付は
実用できるものではなく、江戸時代の本歌根付ではあり得ない。
”日本の根付”と称して売られていた。
【産地の嘘、材質の嘘】
典型的なチャイナ根付。材質はおそらく練り物。
江戸時代の本歌根付には、このような意匠や着色は皆無。
現代人から見れば、コミカルで違和感は
感じられないが、注意が必要。
【産地の嘘、材質の嘘】
一見したところ迫力のある象牙獅子根付であるが、
実はこれ、象牙ではない練り物の根付。
比較的最近に作られたもので、細部を観察すると彫刻があまい。
象牙であれば、材質の性質や数百年の経年変化により、内部に
透き通るような美しい飴色となるが、ニセモノは表面的な
陶器のような白い色となるので覚えておきたい。
【材質の嘘】
非常に良くできた古色タップリの根付。
染めや時代はしっかりしているように見えるが
細部の彫刻が甘くなっていない。
細部は濃い染色で誤魔化している。
表面のツルツルした慣れは人工的に擦られて付けられたものであろう。
【時代性の嘘、フェイクもの】
「玉桂」の銘が彫られているフェイク。
”江戸時代のもの”として売られていたもの。
上の獅子と同じく、どこかの工房で大量生産されているのだろう。
一見したところ良くできているので要注意。
何かのカタログに掲載された本歌を真似たのであろう。
【銘の嘘、時代性の嘘、意匠のフェイク】

フェイク

本物
左側と下段が「民谷」の銘が彫られたフェイク根付。右側が本物の民谷根付。
どこかの工房がこのカタログを見て写した思われるが古色がない。
私が一度騙されかけた思い出の根付。 大量に出回っている。
詳しくはこちらのコラムを参照。
【銘の嘘、意匠のフェイク】

フェイク

「法一」の銘が彫られたフェイク根付。
とても良くできているが、材質は象牙ではなく、プラスチック又は
それに近い練り物と思われる。
非常に手が込んでおり、騙されやすいが、象牙の特徴が欠如している。
材質が嘘であれば、乗っている銘も嘘ということになる。
詳しくはこちらのコラムを参照。
【銘の嘘、意匠のフェイク】


偽物1
18世紀の京都の岡友には、後世の偽物が多く出回っている
特に、岡友の鶉(うずら)はそのほとんどが偽物と考えて間違えない。
これらの5点も典型的な偽物。

精巧に細かく彫刻されているが、ギトギトしていて銘の形もおかしい。
東京国立博物館にも怪しいと思われるものが収蔵されている。
”銘”だけで根付を買うとトンデモナイことになる。
真贋を判定するには、本物を多く見てその特徴を掴むしかない。
岡友の本物であれば100万円以上の価格となるのではないか。
【銘の嘘、意匠のフェイク】

偽物2
偽物3

偽物4
偽物5
小僧が縛られていて鼠が乗っているあたりは
稲田一朗の有名な「雪舟」を真似たのであろうか。
チャイナ製の根付。酷く構図のバランスが悪い。
象牙の筋目が見えず、陶器のような光の反射のため、練り物であろう。
銘には「玉昇」と刻まれている。全くチグハグな偽物。
【銘の嘘、材質の嘘、意匠のフェイク】
こんなレベルで騙される人はいないと思うが、初心者は要注意。
型押し根付の典型で、材質は練り物。このような「虚ろな目」は要注意。
時代のひび割れは、おそらく人工的なものであろう。
紐通し穴に美学が感じられない。
名古屋・岐阜派の本歌の根付のカタログから写した取ったのかもしれない。
【産地の嘘、材質の嘘】
染めがとても汚い作品。
材質は、おそらく練り物か骨。
機械彫りか型押し根付の特長が良く出ている右手の指の形を覚えたい。
【材質の嘘】
香港製の偽物置物。春画置物の土産物であろう。
根付ではないが、銘が下手くそに「雅俊」と彫られているのが面白い。
「本象牙」とされているが間違えなく練り物かプラスチック製品。
【銘の嘘、材質の嘘】
おそらく竹陽斎 友親のフェイク。作りと染めがとても汚い。
たまり醤油のようなネトネトした夜叉染めは、明治時代以降の
後世のフェイクに多い。
一説によると、”お茶の葉染め”という方法があったとか。
【銘の嘘】
謎な動物の根付。材質は練り物で粘土細工のよう。
紐通し穴周辺の縁取りは外国もののフェイク根付の特徴。
尖っていて実用にはならない噴飯もの。
何も知らない観光客を相手にした土産物であろう。
こういうものが平気で「本象牙」としてネットオークションに出されている。
【産地の嘘、材質の嘘】
宝民作の象牙製の煙管筒、と思って手に取ったらプラスチック製品だった。
練り物の場合は象牙の飴色の有無で真贋判定できるが、
プラスチックは練り物よりも精巧に飴色を再現できるので要注意。
【銘の嘘、材質の嘘】
一見したところ貴重なウニコール根付にみえるが、実際は骨材を
加工したフェイク。左巻の一角(イッカク、Narwhal)の
ヒダにみせかけている。
ウニコールとセイウチの見分け方は、こちらを参考にされたい。
【材質の嘘】
江戸時代の本歌根付にこのような題材や構図の根付はない。
現代根付師の「仙歩」の銘が刻まれている。
材質は本象牙で間違いないが、銘が偽物。
偽物根付でも本象牙が使われていることがあるので注意が必要。
中国で売られていた。
【銘の嘘】
これも「仙歩」と銘が刻まれている本物の象牙製。
根付ではなく置物のようであり、それはそれできちんと
売れそうな気がするが、偽銘を彫る意図が分からない。
中国で売られていた。
【銘の嘘】
これも「仙歩」銘。中国で売られていた。
象牙の縞模様の様なものが見えるが、怪しい。
ヒビが象牙の筋目と不自然に直交して入っている。
プレス機械で象牙の縞目を再現しているのだろうか。
【銘の嘘、材質の嘘】

これも中国製。「秀正」銘が入って大小の紐通し穴も
良くできている。底面に象牙の縞目があるが、
直交した縞目ではなく非常に不自然。
プレスによって層を形成した縞目と思われる。
【銘の嘘、材質の嘘】
友忠の牛を真似た質の悪いフェイク。
材質は練り物。紐通し穴の位置や形状が完全におかしい。
【材質の嘘】

現代根付師の「賢次」の作品を真似たフェイクの2点。
おそらく産地は中国で材質は練り物と思われる。
中国人が売っていた。
有名な高円宮様のコレクションのカタログから
引き写して真似たものと思われる。
【意匠のフェイク、材質の嘘】

19世紀の京都の根付師・景利の根付を真似たフェイク。
中国人が売っていた。
おそらく産地は中国で材質は練り物と思われる。
【意匠のフェイク、材質の嘘】

フェイク

本物
現代根付師の「柳之」の作品を真似たフェイク。
左がフェイクで右が私が所有していた本物。
フェイクは中国人が売っていた。
おそらく産地は中国で材質は練り物と思われる。
【意匠のフェイク、材質の嘘】

フェイク

本物
左がフェイクで右がカタログに掲載された本物。
インターネット上で中国系の業者が売っていた。
原産地はおそらく中国。両者の姿形、配置が酷似している。
偽物は有名なカタログを参考にして製造される
ということが分かる証拠と言える。
【意匠のフェイク】

本物
左の2つが偽物。”寿玉”の銘が入っている。
右が寿玉の本物。
本物ならば価格は100万円程度となる。
【意匠のフェイク、銘の嘘】
本物 左の2つが偽物。右が本物の玉珪。
偽物の材質は、練り物だろうが、”象牙”として
売られていた。玉珪は約150年前の江戸の根付師。
通常は象牙は用いない根付師である。
【意匠のフェイク、材質の嘘】

フェイク

本物
左が偽物、右が本物の竹陽齋友親の根付。
偽物の材質は、練り物。
男性の顔は典型的な中国製フェイクの特徴を示している。
【意匠のフェイク】

フェイク

本物
左が偽物、右が本物の重正の根付。
偽物の材質は、練り物。”この図柄はどこかで
見たことがある”と思う初心者が騙されるフェイクであろう。
本物と比較しても全く芸術性は感じられない。
【意匠のフェイク】
丹波の豊昌の本歌根付に同じ瓢箪龍の根付が残されているが、
全て木刻であり、牙彫りは皆無。さらに、このフェイクは象牙ではなく、
練り物であるおそれもある。豊昌の本物であれば数百万円の
価格となる。
【意匠のフェイク】
一見したところ鈴木東谷の根付に見えるが、本歌ではない。
練り物の頭や手足をプラスティックの胴体に付けている。
唐子が布袋の扇を持っており意匠上も理解に苦しむつくり。
顔は完全に中国系の工房で作られたものである。
【フェイク、材質の嘘】
最近増えてきている安物の印籠。非常に安く売られているが、研出、梨地などの真地面な蒔絵とは
到底見受けられない。同じような図案を何度も見かけるので、”印刷印籠”なのかもしれない。
ということは、素材は檜ではなく、プラスチックか。ネットオークションでは、
安物の根付と意図的にセットで売られている。一見、高級そうに見えるので注意が必要。
【大量生産の偽物】


フェイク1

本物
本物

フェイク2
左6枚が偽物で右上2枚が本物の現代根付師・幸正の蛤河童。
本物の根付は、考え抜かれた意匠の特徴が端的に表現されており、傑作。
偽物は「忠信」と銘が入っているが、幸正根付をコピーしたのであろう。意匠の特徴から
中国製だと思われるが、意図的にオレンジ色に着色された象牙の飴色が気持ち悪い。
型押しのような形でフェイク根付があちらこちら売られている。
【意匠のフェイク】

「正一」の銘が入れられた大量生産の根付。
19世紀の本物の正一とは意匠の特徴が異なり、また、本物は
銘に朱は差さない。おそらく練り物かタグアナッツ製。
【銘の嘘】

疑惑のふくら雀のオンパレード。
ふくら雀は意匠が単純であるため、昔から偽銘が数多く作られた。
特に、京都正直の偽物は有名で、ブッシェル著「Collector's Netsuke」でも、
”岡友の鶉、友忠の牛、正直のふくら雀、懐玉斎の猿、光廣の枇杷”は
コピーものが多く出回っているので要注意だと指摘している。
我々が見かける「正直」と銘が打たれているものは
そのほとんどが偽物だといえる。

真贋のポイントは、象牙の古色と、唯一の技量の見せ場である裏面の足の彫刻。
鳥を描いた書画の鑑定の秘訣はまず足を見ることだと言われるが、そのとおりで、
正直の真正の動物根付のようにディテールが美しい彫刻となる。
普通に良くできた足の彫刻でも、その程度は並の根付師でも真似ることが
出来るので、まだそれは怪しい。それ以上の感動があるのが正直たる所以なり。
本物なら数百万円以上となる。
【銘の嘘】

本象牙に見せかけた人工的な練り物。
象牙の特徴である縞目を忠実に再現していて、うっかりすると
本象牙と思いこんでしまうが、プレス押しで縞目を人工的に再現した
ものと思われる。

精巧にできているので、これを手本に良く見て覚えておきたい。
本象牙の縞目は湾曲しながら交差するので、単純に上下に堆積した
ような層の縞模様の根付は練り物である危険性がある。

ちなみに、紐通し穴の縁取りが円形の溝で彫ってあるのは近代の
偽物根付の有名な特長。このような紐通し穴の根付には
近寄らないようにしたい。

象牙の鑑定方法は、こちらも参考にされたい。

【材質の嘘】





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