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コクーン歌舞伎
夏祭浪速鑑
2003年 6月24日 コクーン劇場
− 其の二 −
■序 幕 (一場)
今回の楽しみは磯之丞役の中村獅童さん。金髪の歌舞伎役者として若者の間でも人気急上昇の若手役者です。
被り物を取り、客席に顔を見せると大きな拍手が沸き起こる。
やんちゃな顔つきの獅童さん演じる磯之丞は、平成中村座で見た福助さんとは趣が違って、
"ぐうたら"度合いがアップしているようです(笑)。
そこへ現れるお梶(扇雀)は客席の通路を通っての登場。
ここの会場は平成中村座とは趣が違いますが、客席と舞台がシンクロしていることには変わりなく、
会場全体を使ってのお芝居が魅力です。
近代的な劇場の中に、昔の芝居小屋の雰囲気を再現しているところがとても面白い。
■序 幕
(二場)
ここでようやく団七(勘九郎)の登場となる。
水色の着物を着せられ縄で縛られ役人に引かれて登場した団七はいかにも風采が上がらない。
眉毛は三角眉だし、どうも藤山寛美を彷彿とさせてしまう(爆)。
さて、団七を出迎えにやってきた釣り舟三婦(弥十郎)が、団七を髪結いの店に遣ってから、
店の男に着替えを託すときのひとコマが大変にチャーミング(笑)。
着替えの中に、「しもた!白旗がないがな。」
褌のことを白旗と呼ぶことを初めて知りましたが粋な感じです。
どうしようかと思案して、自分の"赤"旗を引き抜いて渡す場面が非常にコミカルで、演じる弥十郎さんの愛嬌がたまりません。
この役をする弥十郎さん、年齢的にもキャラ的にも今が旬って感じがします。
そうしているうち、髪結いの店に入った団七が、琴浦の難儀を助けに出てくるという場面。
しつこい左馬右衛門に追いかけられて、琴浦がやむなく髪結いの店に飛び込む。
その飛び込んで行った暖簾の奥を見ていると、足の長い暖簾のかげにチラチラと高下駄を履いたシルエット。
勘九郎がゆっくりと仁王立ちに構えている。
客席から見えることを想定しているのだろうか?
これがカッコよくって登場前から早やくもしびれていた(笑)。
そして、左馬右衛門の手を掴んで暖簾から出てきたのは、着替えも済ませて髪もすっきりと変身した団七でございました〜。理屈抜きにカッコいい場面です。
そして、団七と徳兵衛(橋之助)の喧嘩の場面へ。
道端にうんこ座りをしたまま互いを牽制する二人はまるでヤンキー(笑)。
それから互いのお尻をつねり、つねり合ったまま、足を互いの前へ競い合うように差し出す、コサックダンスのような動きは何となく微笑ましい。
そこへお参りを終えた女房お梶(扇雀)が止めに入る。
「市松(息子)の顔も見ないうちに、もう喧嘩沙汰とは、一体どうしたことでござんすか。」
この言い方には団七を思う気持ちがにじみ出ていてとても好きでした。
久しぶりに会えた懐かしさ嬉しさもある。
劇の中にあってこの人の存在はポイントだろう。
男たちの意地と侠気が中心の劇で、女としてて母としての包容力を見せる役柄で
こういう大きな役者が脇を固めていると芝居が大きくなるように思います。
さて、団七と徳兵衛は義兄弟の契りを交わし、市松を抱いたお梶共々仲良く帰って行く。
平場席にだけ小さな花道らしき通路が設けられていて、そこを通っていた一行だったが、
途中まで行ったとき、団七が「こっちへ行こう」と身振りで合図。
そのまま客席に分け入ってはけていく。客席は大喜びだ。
チョビはんが言っていたのはコレなのね(笑)。上からちょっぴりうらやましく見下ろす。
最後に残った扇雀さんが、お客さんに向かって会釈をしながら何か言っている。
「ごめんなさいよ、ちょっと通しておくれやす」
みたいなことを言ってるのだろうか?
役者とのほのぼのとした交流が嬉しい。
■序 幕
(第三場 釣船三婦内の場)
釣舟三婦(弥十郎)の家では、磯之丞(獅童)を匿っている。
昼間から店先へ出てきてはイチャイチャする磯之丞と琴浦(七之助)に、当てられっぱなし。
若い二人と年季の入った三婦夫婦の対比も面白い。
そこへ、若い女が訪ねてくる。勘九郎(二役)のお辰の登場です。
この日の楽しみの一つは、この勘九郎のお辰を見ることでした(平成中村座では福助さんが磯之丞との二役で演じた)。
福助さんのお辰は、か弱い女が必死で気負って生きているようなお辰だったのに対して、勘九郎のお辰はどこにでもいる普通の肝ったま母ちゃんのもの柔らかさ、包容力、そしてその中からそこはかと漂う女としての感情みたいなものがあって、これまたよかったです。
さて、舞台では、人をあやめてしまった磯之丞を落ち延びさせるため、三婦の女房とお辰が彼を引き受ける算段をしていたところ、三婦がこれを強力に反対するというところに差し掛かる。
ここでしきりにお辰が口にしていたのが、
「立たぬ。」という言葉。
何が立たないかというと、"女としての意地が立たない"ということなのでした。
「立たぬぞえ、また徳兵衛も立ちまへん……。」
お辰の意地がひしひしと伝わってくる言葉でした。
それに対し三婦(弥十郎)の答えは意外なもの。
「こなたの顔に色気があるゆえ。」
それを聞いたときのお辰の表情は、勘九郎の上手さを感じさせます。
緊張感がそこで破られ、『ええぇ?』と、ちょっと驚きつつ、微かに嬉しそうな光が差し込む。
自然な女の表情が見事です。
そしてお辰は自分の顔に熱い鉄弓を押し当てるという無茶をし、遂に三婦もその心意気に感じ入って、磯之丞(獅童)を預ける決心をするのでした。
そして名台詞、「こちの人が好くのは、ここ(顔)やない。ここ(心)でござんす。」
は、ポンっと胸を叩く音も気持ちよく、勘九郎さんならではの厚みとふくよかさがありました。
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ふんどし
行くぞの声で出てくる橋と勘九郎