kabuki index live-repo (rice stone) report

コクーン歌舞伎 

夏祭浪速鑑  


2003年 6月24日 コクーン劇場

− 其の三 −

配役 | 其の一 | 其の二 | 其の三 | 其の四


そこへ、左馬右衛門との喧嘩に勝って三婦(弥十郎)と団七(勘九郎)、徳兵衛(橋之助)が意気揚揚と帰ってくる。団七縞と云われる揃いの着物を着た団七と徳兵衛。さらに三婦は運竜柄の着流しで、三人の色合いも非常に鮮やかです。

ところが、留守の間に義父 義平次が琴浦を連れ去ったことを知り、団七は血相を変える。
つけ打ちが小気味よく鳴り響く中、飛び出した団七。
弾みで三婦の女房を突き飛ばす。「あ痛たた」。
その勢いのまま履いていた雪駄を蹴散らして、帯のところにねじ込む。
ダダダダダッ。
花道へ駆け出していって、ピタっと静止。
大きく踏み出した足は、決めの形にピタっと決まり、腰が据わって微動だにしない。
日ごろの精進のたまものでしょうが、一連の動きは素晴らしいものがありました。

で、ふと気づくと、後ろで「あ痛たっ」と苦しがっている。
気遣って戻ろうとするが、琴浦を乗せた籠も気になる。
右往左往して迷う団七だったが、やはりここは籠を追うのが先。
薬を投げて一目散に花道を駆け出して行きました。


■舞台変換


さて、通常ならここで幕間となるところ、舞台には福島天満宮車講社中の中から数人が登場して、
祭囃子の演奏が始まりました。
その間に舞台では次の義平次殺しのため、泥のセットの準備を始める。結構客席に近い(笑)。
しかし、セットチェンジさえも客に見せて楽しませるところが嬉しい。
若手の役者さんが、前の席の客たちに次の泥のシーンに備えてビニール合羽を着るように案内している。
通路側の客にも丁寧に合羽を配って、入念な準備です。
会場は「いよいよ!」という期待が渦巻いて、まるでディズニーのアトラクションを見にきたような雰囲気と言ったら言い過ぎでしょうか(笑)。

さて、次はいよいよ見せ場、「義平次殺し」です。


■序 幕 (第四場 長屋裏の場)

団七が琴浦を乗せた籠を追って、先ほど駆け出していったのと同じ猛烈な勢いで、客席から駆け込んでくる。
やがて追いついて、義平次に詰め寄る。
「悪いぞえ、悪いぞえ…… おまはん、琴浦を連れ出してどないする気や。」
すると、義平次の口からは琴浦を佐賀右衛門に渡せば、ン十両の金になるのだという悪びれない答え。
団七は籠を戻してくれるよう舅に頼み込む。
しかし、一向に聞き入れないどころか散散に悪態をつく始末。
ただ一人歌舞伎界外部から参加している笹野さんは、不思議な枯れた魅力がある。
歌舞伎役者のような張りはないし、声も良くとおるというわけではないのだけど、
等身大のじじいといった感じがあって、世間の底辺で生きている老人の欲深さと、しみったれた感じがよく出ています。


そして二人の大阪弁での言い合いも見ものです。
笹野さんはもともと淡路島(兵庫県)出身だから大阪弁はかなり自然。
そして勘九郎の大阪弁は定評がありますが、「ホンマ、無茶言うわー」みたいなボソっとした言葉まで本当に自然です。
二人のやりとりは相当長い間続くのですが、途中アドリブも盛んに飛び出し、
多分勘九郎さんは笹野さんとの掛け合いを楽しんで演じているんだろうなと思いました。
「そんなに睨んだら平目になるで」も、ちょっとバリエーションが変わっていたようでした。

団七は三十両持っていると嘘を言い、琴浦を乗せた籠を戻させるのに成功するが、
その嘘もすぐにばれ、逆上した義平次は雪駄で団七の眉間を割る。

親を手にかければ死罪、どんなに煽っても手にかけることは出来ないのを見越した上で
義平次はさらに油を注ぐように挑発します。
照明はどんどん暗くなり、蝋燭の火だけで二人の緊張したやりとりをみせていきます。

やがて、血の気が上った団七を見て刃物を持ってもみ合いに。
「親を手にかけるのか?さあ、殺せ」
「」
と、着物の裾をめくりあげて、蛙のような格好でお尻を出してみせる。
やがて、義平次は団七の刀を抜いて振り回し始めた。
「危ないがな。」
団七が刀を取り戻そうとしてもみ合いになるうち、誤って義平次を刺してしまう。
刺した時、しばらくはそのことに気付かず、たっぷりとした間合いの後、ようやく団七が血のりに気付いて
「しまったー」と搾り出すような声を出す。

これまで、とばかり、団七は泥の中に義平次を突き落とす。
笹野さんは客席を向いたままゆっくりと背中から倒れこむように落ちていく。
その倒れ方がすごくて、客席からは「ひゃーーー」と、何ともいえないような悲鳴が起こっていました。

もがきながら這い上がってきた義平次がブルブルと泥で滴る着物を振り回すので、
客席にもバシャバシャ泥がかかっている。
平成中村座と比べると泥が客席と近いところにあるようで、泥の演出がより効果的です。

そこからは、もみ合う二人がさまざまに形を決めて殺しの様式美を披露していく。
刀を振り上げたまま何度も見得を切り、その度に大きな照明を持った黒子が横から後ろから、
スポットを照らしていくのが面白い。

そして遂にとどめをさすと、その瞬間、舞台の後ろが開いて一気に照明が差し込む。
福島天満宮車講社中の面々によるだんじり囃子が鳴り響き、音と光が圧倒的な力で団七を飲み込んでいく。

それにしても、開け放たれた舞台の背後に見えてるのは、なんと駐車場〜(笑)。
屋外の公園の景色を見せてしまった平成中村座のスケールの大きさに対して、こっちは地下の駐車場。
団七たちが生きているアウトサイダーの世界と、都市の裏側の風景が妙にマッチしています

ひとしきりの祭りの狂乱の後、ひとりになた団七が、「悪い人でも舅は舅……」
と犯してしまった罪を悔やむ。
すると、またどこからともなくあの祭囃子が聞こえてきて、みるみる団七を祭りの狂気が飲み込んでいく。
団七は「ちょうさや、ようさ」と、祭囃子の掛け声をかけなら、高揚した様子で花道を駆けていき、そのまま客席へ。
ちょうど私たちの立見席下に伸びる通路を一目散に駆け抜けて行きました。
その横顔と走り抜ける勢いがあまりの迫力だったので、とても感動しました。
芝居なんだけどあの方の入り込み方は芝居を越えています。何かが取り付いたようにあのままどこまでも走っていくんじゃないかと思うくらい見事な迫力でした。



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