有尾両生類(サンショウウオ類)の「全般」に関する質問(3)

>昨年(2002年)末、山間にある湧き水で、落ち葉や泥の中にサンショウウオが潜んでいるのを見つけました。なんとなくですが、ヒダサンショウウオのような気がします。見分け方を教えていただけないでしょうか? (2003年9月6日)

う〜ん、困りましたね。一般に、水の中には幼生もいますし、繁殖期ですと成体もいますし、それに体の大きさも分かりませんし、ただ「サンショウウオ」とだけ書かれてもねえ〜。まあ、見つけたのが「湧き水」とのことですから、このサンショウウオが止水性の種であることだけは間違いないでしょう。

問題のサンショウウオですが、頭部の両側に「ふさふさした毛のようなもの=外鰓(がいさい)」が3対、なかったでしょうか? もし外鰓があるようでしたら、越冬幼生である可能性が高いと思います。ちなみに、外鰓を「バランサー(平衡桿)」と勘違いしている人が少なくないようですが、バランサーは、胚発生の過程で幼生の前肢が完成したあたりで脱落します(トウホクサンショウウオで言えば、ステージ53)。

外鰓がないようでしたら、繁殖のため、成体が水の中に入っているのを見つけたのかもしれません。繁殖期が12月に始まっているというのは、ちょっと早いような気もしますが、西日本では繁殖期の可能性もあると思います。次に質問するときは、せめて都道府県名くらい、書いて下さいね。

従って、これらの情報から種を特定することは出来ませんが、ご質問にあります「ヒダサンショウウオ」でないことは確かなようです。なぜならヒダサンショウウオの成体や越冬幼生は、この時期(12月下旬)、湧き水ではなく渓流中にいるからです。また、日本にいるサンショウウオ科の種で、流水性・止水性に関わらず、成体が水中越冬することが確実に分かっているのは、ヒダサンショウウオだけです(ハコネサンショウウオでの報告例が、あるにはありますが、それは特殊なケースです)。


>サンショウウオの卵嚢の数え方で、お尋ねしたいことがあります。「○対の卵嚢」や「卵嚢○対」といった表現が普通だとは思うのですが、たまに「対」ではなく「双」という使い方を見かけます。私は、これには違和感があるのですが、羽角さんはどう思われますか? (2003年8月2日)

実は私も、この「双」という表現は、以前から気になっておりました。ある特定のグループが近年、好んで使用しているようなのですが、サンショウウオの卵嚢数を表す「対(pair)」という適切な専門用語が既に確立しているのに、なぜ彼らが使おうとしないのか、私には理解できません。佐藤(1943)には、確かに卵嚢数を表す「双」という記述が見られますが、現在では使われることは滅多にありません。
・佐藤井岐雄. 1943. 日本産有尾類総説. 日本出版社, 大阪.

例えば「1卵嚢」という記述があったとします。この場合「卵嚢1対」なのか「1対の卵嚢の片方」なのか、はっきりしませんよね。そのため私は、ときどき「左右で1対の2個の卵嚢」という表現をすることがあります。また、サンショウウオのことをよく知らない人たちは「卵嚢」を「卵塊」と言っているようですが、この表現でも同様に「1卵塊」が「卵嚢1対」なのか「1対の卵嚢の片方」なのか、見当がつきません。

もし、このグループが「二つ」という意味を「双」という温故知新的な表現に見出しているのだとしたら、それはそれで理解できるのですが、この表現では用語法の混乱を招くだけで、敢えて使用するメリットはないと思います。これは明らかに、(次の回答で述べている)卵嚢の「粘着端」とは、また違った問題です。


>ヒダサンショウウオの卵嚢の記述のところで「粘着端」とありますが、これは千石さんの「原色『両生・爬虫類』(家の光)」の中で「付着端」と言われているものですか? 私は細かい名称が分かりません。粘着端のほうが、一般的な呼び方なのでしょうか? (2003年7月12日)

私は、どれが一般的な呼び方なのかは分かりません。この図鑑は持っておりませんし、誰かに「(卵嚢は)付着端という名称のほうが一般的だ」と言われれば「そうかなあ」と思うだけです。ただ、以前も申し上げたような記憶があるのですが、私の場合、専門用語は全て英語の記述に準拠しています。例えば「1対の卵嚢の粘着端」という記述は「the adhesive tips of a pair of egg sacs」を正確に英文和訳したものです。英語の「adhesive」には、単に「付着する」という意味だけでなく「粘りつく、粘着性の」という意味があります。ご存知かと思いますが、サンショウウオ科では、メスが産出した直後の卵嚢の粘着端は、その名の通り、本当に粘りつきます。

ちなみに名詞の「adherence」は、かつらのアデランスの語源です。


>2003年5月31日、○○大学3年生の後輩3人が、雨飾山付近(長野県北安曇郡小谷村)へ両生類の観察に出かけた際に、小雨が降っていたことから、夜間、路上に出て来た多数のクロサンショウウオ、ハコネサンショウウオ、ヒダサンショウウオを観察できたそうです。ところが、4個体のサンショウウオが、どうも先の3種に該当しないようだということで、私のところに持ってきました。この中で3個体の体色や模様は、ハクバサンショウウオに似ているように思われました(1個体は全長40mmで、体色や模様は不鮮明です)。これらの個体の後肢は全て、はっきりとした5本指であることから、すんなりとハクバサンショウウオと判断することもできません。トウホクサンショウウオだとしても、長野県の生息情報を見つけることは出来ませんでした。

>頭胴長などの測定結果は、以下の通りです。なお、尾長は総排出口前端を基準にしました。
(1) 頭胴長: 68.6mm、尾長: 57.3mm、頭幅: 12.5mm
(2) 頭胴長: 50.8mm、尾長: 38.7mm、頭幅: 10.6mm
(3) 頭胴長: 53.1mm、尾長: 36.5mm、頭幅: 10.1mm

>尾長が50%以下であることから、クロサンショウウオの可能性は、やや低いかと思われるのですが「充分に成熟していないため」という可能性も考慮し、判断が付けられずにいます。クロサンショウウオの幼体の可能性も考えたのですが、何となく(体色の)バランスが違うように思われます。

>今のところ
(1) ハクバサンショウウオで5本指の形質を持つ新産地
(2) トウホクサンショウウオで体色がハクバサンショウウオに似た新産地
(3) クロサンショウウオの幼体がそのように見えているだけ
(4) トウホクサンショウウオとハクバサンショウウオのつながりを示す新たなグループ(新種?)
といった線で考えているのですが、なにぶん私では判断を付けることが出来ません。これまでの分布域や外部形態の知見から、何か分かることがありましたら、ご教示をお願い致します。 (2003年6月7日)

これらの個体を見つけたのが陸上ということですので、測定された体の大きさから判断すると、ハクバサンショウウオかトウホクサンショウウオの成体、またはクロサンショウウオの幼体である可能性が高いと思われます。しかし、後述のように、ハクバサンショウウオである可能性は低いと考えられます。それから成体の場合、尾長は季節変化しますから、種の判断材料にはならないでしょう。また、手元にあるデータを参照しますと、クロサンショウウオの幼体の尾長は、総排出口前端から尾端まで測定した場合でも全長の45〜48%しかなく、50%を切っています。従って、クロサンショウウオの可能性も捨て切れません。

ハクバサンショウウオの場合、後肢第5趾は、出現したとしても痕跡的で、確率からすると5%くらいです。4個体全部が、はっきりとした5趾性であるのならば、ハクバサンショウウオの可能性は、極めて低いと思います。

トウホクサンショウウオの南限は、新潟県柏崎市谷根〜新潟県十日町市当間〜群馬県水上町藤原〜栃木県塩原町奥塩原を結ぶライン上にあります(新潟県上越市で発見され、トウホクサンショウウオとして報告された個体は、クロサンショウウオの幼体です)。雨飾山付近(長野県小谷村)で発見された個体がトウホクサンショウウオだとすると、それはそれで面白いのですが、分布の空白地帯が一挙に広がることになります。

これらを総合的に判断しますと、雨飾山付近で見つかった個体は、トウホクサンショウウオの成体か、クロサンショウウオの幼体のような気がします。ただ、ハクバサンショウウオ、トウホクサンショウウオ、クロサンショウウオの幼体は、どれも黒地に白い斑点が多数みられるなど、体色や模様がはっきりしていて、区別するのが困難なくらい似かよっています。ですから、逆に「全長40mmの小さな個体の体色や模様が不鮮明」というのが、どうしても引っかかってしまいます。

私としては、トウホクサンショウウオであって欲しいような気持ちはありますが、現物を直に見てみないと、ちょっと判断は付けられないでしょうね(見ても分からないかもしれませんが......)。


>後肢の5趾性に関しては、ヒダサンショウウオで5趾性のものと4趾性のものがいるので「地域的な特性だったら面白いなあ」と思っておりました。新潟の青海の個体群やヤマサンショウウオも、やはり、ほとんど4趾性なのでしょうか? それと「最小個体の体色が不鮮明」という部分は、多少、表現を誤ってしまいました。他の個体がトウホクサンショウウオやハクバサンショウウオのような地衣類状の模様だったのに対し、この個体は「斑点が他より全体に分散し、地衣類状とは表現しづらい」と書くべきでした。 (2003年6月7日)

確かにヒダサンショウウオのように、ハクバサンショウウオにも4趾性の地域と5趾性の地域が存在すれば面白いのですが、青海町の個体群も、ヤマサンショウウオとされていた個体群も、後肢第5趾は全く出現していなかったと思います(もしかしたら富山県大山町の個体群で、痕跡的第5趾を持つ個体が1匹くらい記載されていたのかもしれませんが、原記載論文を読み返す気がしませんので、細かいところは分かりません)。ですから、私たちがハクバサンショウウオで見つけた痕跡的第5趾を持つ個体は、実は「稀有な存在」ということになります(本当は5%という出現率は、もっと低いと考えられます)。また「地衣類状の模様が、ハクバサンショウウオ、トウホクサンショウウオ、クロサンショウウオの幼体に見られるのかどうか」については、余り自信がありません。成体の特徴のような気がします。ただ幼体の場合、多数の白い小斑点は体全体にわたって見られ、体色とのコントラストが、はっきりしています。


>I have been very interested in reading your article (Hasumi, 1994). I have also read Usuda's one. Are there any other Hynobius species that carry out this midwife behavior? Although I have actually been able to see the male mating behavior prior to egg deposition in H. dunni, I have not yet seen the egg deposition itself. (2003年6月7日)

I believe Usuda's (1993) definition of "midwifing" is incorrect, and therefore did not cite this literature in Hasumi (2001) that contains midwifing behavior and duration (mean = 19.9 s, SD = 16.3, n = 45, range 4-86) of H. nigrescens. In H. retardatus, Sasaki's (1924) and Sato's (1992) references exist on reproductive behavior, each referring a bit to midwifing in the Discussion section. Otherwise, Nussbaum (1985) reviewed parental care in salamanders, involving midwifing in hynobiids.
・Nussbaum, R. A. 1985. The evolution of parental care in salamanders. Miscellaneous Publications of the Museum of Zoology, University of Michigan 169: 1-50.
・Sasaki, M. 1924. On a Japanese salamander, in Lake Kuttarush, which propagates like the axolotl. Journal of the College of Agriculture, Hokkaido Imperial University 15: 1-36.
・Sato, T. 1992. Reproductive behavior in the Japanese salamander Hynobius retardatus. Japanese Journal of Herpetology 14: 184-190.
・Usuda, H. 1993. Reproductive behavior of Hynobius nigrescens, with special reference to male midwife behavior. Japanese Journal of Herpetology 15: 64-70. (In Japanese with English abstract)


>白馬産のヒダサンショウウオの画像を見させていただきましたが、関東よりも関西側の個体に似ているように思えます。できればヒダサンショウウオの北限個体を採取したいと思うのですが(時期的に難しいかもしれません)、どの辺りが北限になるか、ご存知ですか? (2003年6月7日)

ヒダサンショウウオの北限は、新潟県の青海町です。先日、火災のあった鉱山の近くです。標高の低い丘陵地帯の渓流で春先に産卵していますから、今の時期ですと「個体は渓流の両脇にある土手で見つかるかどうか」といったところでしょうね。詳しい場所をお教えすることは出来ませんが、今の内に当たりをつけて、また晩秋の頃にでも行けば、渓流で越冬するために移動してきた個体が採集できるかもしれません。


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