聖建築研究所










 高知県室戸市佐喜浜町は、人口1500人程度の辺境の港町である。改築した自宅「佐喜浜の母舎」で母を介護したことがきっかけで、地域で小売店を経営しながら介護事業を立ち上げた。自ら介護・福祉の資格を取得しながら、自宅裏倉庫をデイサービス「むえんの舎」に、自宅横元店舗をコミュニティ施設「しえんの舎」へと、段階的に改修を行ってきた。事業と空間は相互作用して、「母舎」・「むえん」・「しえん」の支え合いの舎が生まれた。「しえんの舎」は今年から新たに障害者相談支援事業をはじめる。三つが互いに連結し交わって機能する「佐喜浜の箱舟」は、障害がある人でも地域で働き、普通に暮らせることを目指し、これからも生長する。






 施主・村田氏から「寝たきりの母のために自宅を改修したい」という一枚の葉書を受け取った。当初、改修として設計図面を描いたものの、既存構造材の劣化が激しかったため、現場の判断を踏まえて、改修のための図面を転用した“改築工事”として仕切り直し、佐喜浜の「母舎」とした。既存の柱の位置を出来るだけ継承し、以前の記憶をとどめた。
 「母舎」には、将来への可能性を見越し、隣接した旧店舗に向けて出入のための“開かずの扉”を設えた。




 「母舎」で 9 年間、母親の介護をした経験から、地域での介護の現状を知り、自宅での暮らしを続けながら通所できる家庭的な介護の場を自らの手で作り上げたいと、まず二級ヘルパーの資格を取り介護事業の立ち上げを決意、定員 10 名の小規模なデイサービス施設として事業プランを練り上げた。
  そうして生まれた「むえんの舎」は「母舎」に近接した鉄骨2階建ての倉庫を改修したもの。異なった障害を持つ人達を受け入れ、「母舎」と心が通う空間を考えた。村田氏においては、通所してくる人達が安心して過ごせる生活面のサポートを考え、さらに、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員の資格を取得し介護の質を高めた。





 「むえんの舎」から発した宿泊のニーズと、行政の地域支援事業とが相まって、高知型福祉施設として、あったかふれあいセンター「しえんの舎」を開設する。
 「しえんの舎」は、「母舎」に隣接したかつての店舗の改修で、あの“開かずの扉”が開くことになった。
  通りに面した「しえんの舎」の入り口は土間空間が広がる。脇には雨戸を利した「ぶっちょう造り」と呼ばれる伝統の様式を模した置き台もあって、懐かしく、気軽に入りやすい雰囲気を作っている。祭りのときにはここが商店に取り変わったりする。


 

刺激し合って生長する人と建築
 「母舎」からはじまった一連のプロセスは、あらかじめ全てを計画してできたものではない。しかし「母舎」改築のときには、のちの「しえんの舎」へとつながる扉を、「むえんの舎」改修のときには、「しえんの舎」に向けた扉を設え、建築は次の展開を期待して準備してきた。
 「建築は生活の器。人間が主役・出来事が主役」という理念のもと、人と建築は互いに刺激し合い生長する。

 

賞歴
2014年
2014年グッドデザイン賞受賞

 

土佐山田の家・1  |  土佐山田・2  |  酒蔵ホール  |  東山邸  |  双軸の舎

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