東京帝国大学在職25年祝賀会における祝辞 | ||
加越能時報 第208号掲載記事 明治41年3月15日発行 | ||
1 | 櫻井教授と理科大学 | 理科大学教授理学博士 寺尾 壽 |
櫻井教授及びそのご家族並びに来会者諸君、今日櫻井君の就職25年祝賀会に当りこの盛況に列席しまして理科大学における同君の同僚を代表して祝辞を述べますことは私の甚だ光栄とする所であります。 私が不肖を顧みずこの代表の任を辞しませぬのは 私は櫻井君に特別の縁故ある者であるからであります。 私は東京大学に於いて櫻井君の同窓学生の一人であります。 実に櫻井君は私の同窓であります尤も同窓中の先輩であります。 又理科大学に於いては我々は櫻井君を評議員に推薦して帝国大学に於いて我々の代表者たることの任を委託して又理科大学長の病中は我々は櫻井君をその代理として戴いて居ります即ち大学に於いても櫻井君は私の先輩であります。 年齢に於いては櫻井君の方が一つか二つか私よりもお若いかと思いますがその経歴といいその学識といい私は兄の様に思うて居る所の人であります。又(この席に於いて私の私情を述べることを許されますならば)私は櫻井君の一家に浅からぬ縁故を持った者であります。 同君の令兄であって現にここに列席しておられる房記君、省三君は私と共に奮い開成学校仏語科の人でありまして殊に房記君の如きは多年私と勉強室を共にし寝食を共にした間柄で骨肉の兄弟もただならぬ関係ある人であります。 回顧すれば今をへだたること30年前、房記君の宅に於いて君の御母堂と兄弟3人と連写された写真を見まして、私も男兄弟4人の中の総領であります所から大いにあやかりたいと思うて懇望して持ち返りまして今に持って居ります。 今日も或いは諸君諸君の中に御覧になりたい方もあろうかと存じて 持参したような次第であります。 斯く様に縁故の深い私でありますから殊に櫻井君の為 祝意を表するの任を当ったことを喜ぶのであります。 偖諸君、今日この席に列せられたる 多人数の御方の中、大多数は櫻井君から直接に薫陶を受けられた人であります。 斯く様な人がかく多数に御出席になりましてこの盛会を形つくられたのは一方には櫻井君の徳望の盛なることを表明すると同時に同君の教育上の功績の偉大なることを目前に示す所の活きた証拠であります。直接薫陶を受けられた人だけでもすでに非常なもので間接に同君の教化浴したるものに至っては数限りもないことでこの点に於いて櫻井君の我が国家に貢献せられたることの如何に広大なるかを知るべきであります。 さりながら諸君、 唯今申しました所の者は櫻井君の唯々一方面のみでありまして同君の学術上に於ける功績は更に偉大なるものであります。この点に就きましては私よりもオーソリティーのある方がなおここで述べらるるであろうと思いますから私は詳しくは述べませんが櫻井教授の学術上に於ける事業こそ実に我が理科大学をして九鼎大呂<キュウテイタイリョ=貴重な 宝物、重い地位の意=広辞苑>よりも重からしむるゆえで我が帝国の利益を増進し我が帝国の名誉を発揚せられたる所のものも主としてここに在るのであります。 この点に於いて我々は同君に対して大いに謝意を表せねばなりません。 私はここに謹んで櫻井教授が益々御壮健にして学術、教育の為に尽力せられてこれを内にしては我が帝国利益、光栄を拡張せられ、延いては人類社会全体の幸福を増進すべく御働きになることを祈ります |