東京帝国大学在職25年祝賀会における祝辞
 加越能時報 第208号掲載記事 明治41年3月15日発行
櫻井教授と化学教室 理科大学教授理学博士 垪和 為昌
  東京帝国大学理科大学教授櫻井先生在職25年の祝典に際し理科大学教室の者一同に代わり聊<イササ>か蕪辞を呈す。 

  先生化学を講ずること25年力を育英に尽くし諄々<ジュンジュン=ていねいに繰り返し教えいましめるさま=広辞苑>として教えて倦<ウ=あきて疲れる=広辞苑>むことを知らず。今日海内に在りて或いは研究に或いは教育に凡そ純正化学に従事する者、先生の薫陶を蒙むらざるもの殆ど稀なり。 

  加うるにその門弟の中には遠く清国印度等より来り学びたる者ありて各その国に帰り化学の拡張に従事しつつあれば、先生教育の力は遠く海外にも及べりと云うべし。

  特に化学は先生就職以来恰も変遷の時期に当り新学説多く従来の化学者得て之を兼修せし者極めて稀なり欧州に於いて是等の新学課の為に講義を設けたる所にては多く別に教室を設けその専門の主任を定めたるをみても輓近<バンキン=近頃=広辞苑>化学の分岐して之を教ゆるの益々難きを知るべし。

  然るに先生の着眼の高き世に先んじて新学説を兼修し深く得る所あり。 我が教室の主任として化学に関する新旧の諸学課を設立し善くその調和を保ち今日の如き完全なる授業の課程を定め仍ほ<ナオ>日々後進を指導せらるるはその功、実に偉大なりと云うべし。 

  中に就いて先生の新研究に重きをおき厚く之を奨励せらるる精神は長く種子となりて今後、必ず花を開き実を結ばんは疑いなし。先生はかくの如く力を純正化学に用いらるると同時に又深遠なる学理にのみ偏りせず学問と応用との密接なる関係にも注意し、純正化学を学ぶ者も亦必ず応用化学の大要を修学するの方法を講ぜられたる如きは以って先生の見識の偉大なるを知るに足る。

  化学教室の者一同は最適任なる主任者を得たることを喜びこの盛典に際していささか平生感謝する所を陳べて先生の万歳を祝す。  
祝辞1
祝辞2 祝辞3 祝辞5 祝辞6 櫻井錠二答辞 記念写真