東京帝国大学在職25年祝賀会に於ける祝辞
     加越能時報 第208号掲載記事 明治41年3月15日発行
櫻井教授と東京化学会 東京化学会薬学博士 田原良純
  本年は東京帝国大学理科大学教授理学博士櫻井錠ニ閣下が東京大学理学部に化学教授の職を奉ぜられて以来恰<アタカ>も25年に相当するを以って閣下の官僚友人門下生並びにその他の有志諸君に依って今日ここに盛大なる祝賀会を開かれまして不肖良純亦<マタ>東京化学会会長として班に列するの光栄を得たるは実に歓喜且つ慶賀の至りに堪えません。

  さて、櫻井教授閣下は御奉職の傍ら大学に於いて教鞭を執られたると殆ど同じ永年の間、我が東京化学会の為に多大に御盡瘁<ジンスイ>下されました。回顧すれば我が東京化学会の創立は明治11年にして当時閣下は恰も英国御留学中なりし為、創立者の中には加わわれずと雖<イエド>も同14年御帰朝後間もなく本会に入会せられ爾来今日に至るまで或いは常議員となり或いは会長となり我が東京化学会の会務をば全く第二の職務の如く最も熱心に最も誠実にに尽力せられつつある次第にて本会が現に約500人の会員を有し尚今後の盛況を卜<ウラナイ>すべき気運を見るに至りたるは主として閣下の御指導興りて大いに力あることと信じます。

  実に閣下は我が東京化学会の真髄として会員一同の深く信頼するところであります。 かくのごとく本会の閣下に負うところ至大なるに只今又松井教授閣下の御報告に依れば今回の祝賀会に際し記念の為櫻井教授閣下の高徳を慕わるる有し諸君の拠出せられたる多額の化学研究奨励資金を本会に附託せらるることとなりました。  この事に就いては不日常議会を開き更めて御受を致すべき筈で御座りまするが化学奨励上偉大の効益ある最も喜ぶべき一新例として櫻井教授閣下の御高徳の本会に及ぼせる重々の恩誼に対しここに謹んで東京化学会会員一同に代わり深く御礼を申し上げます。終わりに臨んで閣下が邦国の為自重せられ且つ将来一層我が東京化学会指導誘掖<ユウエキ=導き助けること=広辞苑>の衝に当られんことを偏に希望します。   
祝辞1
祝辞2 祝辞4 祝辞5 祝辞6 櫻井錠二答辞 記念写真