石の森 第 110 号   ページ  /2002.7

 考えない尻

南 明里


水洗レバーに
全体重をかける

誰かに 見られている?
おもむろに顔を起こすと
小さく切り取られた窓枠の向こう
繁った庭木のてっぺんと
空との境目あたりに
いつ揚がったかも知れない
マッチ棒の頭
みたいな形をしたアドバルーンが
オレンジ色に点々と
揺れている

リキュールと
レモンスライスと氷砂糖と
あるかないかの因縁と
一緒くたにぶち込まれて
今年もあの
たちの悪い飲み物になるだろう
ごぼしゅごごぼこぼこ
じゃぼぼぼごぼごぼしゃしゅしゅ―――
嬌声が
ひつじ雲を引き裂く

ああ よかった
いちど枇杷の実だと気づけば
もう 怖がることは何もない
はじけ飛ぶマゴコロ
高速回転の微笑
流れゆく脊髄
ここは狭い
ここは
狭い


オレンジ色の漲りの地平
全体重をかけてお尻が沈む


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