CTHULHU in HobbyJAPAN

ホビージャパンにおけるクトゥルフ〈00〉

  • ホビージャパン発行のRPG専門誌における“クトゥルフの呼び声”関連記事です。
  • リスト化されているのは基本的に私の所有分だけです。
    また、シナリオの紹介文ではネタばれしている危険もあります。
  • 「TACTICS別冊RPGマガジン」1986.9 (No.1)の記事は、「闇匣」トラペゾヘドロン様から資料を提供していただきました。

タクテクス / タクテクス別冊 / RPG Magazine(A4判変形) / RPG Magazine(A4判)
記述例
記事の掲載誌の年号(号数)
記事名
著者/訳者等(敬称略)総ページ数
記事の概要

TACTICS別冊RPGマガジン


1986.9 (No.1)

"R'lyeh Advertiser SPECIAL"
No.1:“クトゥルフの呼び声”デザイナーズ・ノート
サンディ・ピータースン、リン・ウィリス/有坂純9P

“クトゥルフの呼び声”のデザイナーであるサンディ・ピータースン(ピーターセン)とリン・ウィリスが、ゲームの企画にいたるきっかけから制作中の苦労までを語りつつ、このゲームの基本コンセプトや、その表現のために考案されたルール等について説明している。(ディファレントワールドIssue19より)

その1/サンディ・ピータースン

◆怪物の開発

わたしはラヴクラフトの著作のすべてと、彼の追随者たちの手による膨大な数の作品とをじっくり読み返し、違う物語間でも全く矛盾を生じてないような怪物どもを残らず選び出しました。その総計は驚くほど少なく、わたしはプレイヤーたちを脅かすに充分な数の怪物をそろえるために、ほとんど無名に近い作品や、共作による作品などからも材料を引っ張って来なければなりませんでした。また、たいていの場合、小説には登場する怪物の細かい性質などは記されておらず、ためにわたしは小説中ではそれとなく暗示されるだけのような種々の能力や性質とうまく合致するように、多少の創作をせざるを得ませんでした。わたしは決して勝手気ままにこの創作を行ったわけではなく、結果としてはかなりバランスのとれたものができあがったと考えています。

◆正気度ルールの考案

わたしは"Sorcerer's Apprentice ソーサラーズ・アプレンティス" 誌で、クトゥルフ神話をゲーム"Tunnels and Trolls トンネルズ・アンド・トロールズ" に連結するためのグレン・ラーマン[湖の隣人の註:Glenn Rahmanは後に出版されたソロ・アドベンチャーのサプリメント"ALONE AGAINST THE WENDIGO"(日本語版は“ウェンディゴへの挑戦”)の作者であり、豊富なソロ・アドベンチャーを誇る"T&T"に関わった経験が“ウェンディゴ”にも生かされたのかも知れないと考えると興味深い]とフィリップ・ラーマンの書いた記事を読みました。この記事はとても良く書けていたのですが、ただ1ヶ所を除いてわたしの仕事にはまったく役に立たない物でした(記事でとり上げられている諸問題のほとんどを、わたしは既に解決してしまっていたのです)。そのひとつというのは、キャラクターの「意志力」を表すような新しい基本能力値をゲームに採用するという提案で、プレイが進行するに従って、キャラクターのこの数値は、しだいにゼロへと減少してゆくことになるのです。この記事の著者たちはまた、この数値に基づいたセービング・スロー(成功値ロールのこと)に失敗すると、そのキャラクターは発狂したり、失神してしまったりすることになると書いていました。わたしはこれを読んだ時、ラヴクラフトの作品の持つ雰囲気をルール中にとり込むためにはまさにこの方法しかありえない、といたく衝撃を受けたのでした。(後略)
 現在の正気度のルールはたいへん良くできているものとわたしは考えています。多くの場合、プレイヤーたちはやはり絶望感をプレイ中にこのルールから与えられることでしょうが、貧弱な正気度というハンディキャップを、キャラクターがまったく克服することが不可能なほど酷過ぎはしないのです。「正気度」の概念はゲーム全体にくまなく滲み渡り、このゲームをゲームとして確立させています。例えば、わたし自身が参加していたあるキャンペーンのプレイでのことです。6人のキャラクターたちが魔法陣の内に立ち、「時空間を踏み歩くもの」を召喚しようとしていました。あたりが一面の闇と化し、何かをこすりつけているような音がいずこからともなく聞こえて来た時、これから現れる呪わしい存在を見なくとも済むように、何人かのキャラクターは両眼をしっかりと閉ざしたのでした。このような出来事が“ルーンクエスト”や"D&D"で起こるなどとは、想像するだに困難でしょう。

◆キャンペーン・ゲームの進め方

ひとつのアドヴェンチャーと他とをどう無理なく連結するかというところは、キーパーの腕の見せどころです。ルールブックの中では、わたしはタマネギの皮にたとえてこのつながりを説明しました。つまり、キャラクターが探索を進めてゆけばゆくほど、さらに深くて暗い秘密が前方に待ち受けているのを見いだすことになるわけです。わたしのキャンペーンの例で言うと、化物屋敷を調査していたキャラクターたちは、まず屋敷の前の住人(クトゥルフの僕)が行った古い教会の廃墟へと導かれました。教会で、彼らはそこの現在の持ち主がさまざまな冒涜的な行為を実行しようとしており、そしてその正体が強力な魔道師であることをつきとめます。魔道師と戦う方法を探していたキャラクターたちは、今度は邪悪な異国人たちの住み家へと導かれることになりました。彼らは政府内部にその影響力を浸透させてゆき、最終的には全世界を破壊させることの可能な恐るべき装置を完成させようと企んでいるのです。ともあれ、キャラクターたちが発端となった化物屋敷に再び戻ることはまずありえず、屋敷は不運な訪問者を待ちつつ、いつまでもそこに立ち続けていることでしょう。


No.2:クトゥルフの呼び声におけるH・P・ラヴクラフト
H.P.Lovecraft IN CALL OF CTHULHU
エド・ゴーア/有坂純3P

ラヴクラフト自身や彼の著作をゲームデータ化して、シナリオ中に登場させる事が出来るようにしている記事。ラヴクラフトは日本語旧版ルールにおける「賢人」として活躍出来るようになっている。(ディファレントワールドISSUE 28より)

この記事中のラヴクラフト像は、実際の彼自身というよりは、むしろわたしが見たラヴクラフトなのです。もしこのわたしの解釈に御不満の点があれば、どうぞ御自由に変更を加えてください。技能のうちの幾つか、特に物理的な技能に関しては、かなり勝手な決め方をしています。H・P・Lの〈忍び歩き〉技能の成功率がどのくらいかなど、わたしには知りようがないのですから!

しかし、いくら御大だからといって、彼のAPPが18というのはひいき目に見過ぎなのでは……。ちなみに御大の〈クトゥルフ神話〉技能は65%、SANは30、知っている呪文はもちろん「星の精の召喚(旧版ルール)」。

また、御大の手による著作物は当然、全て「神話」知識の得られる魔道書扱いである。

●クトゥルフの呼び声

  • 執筆年:1926年
  • 初出及び発行年:「ウィーアード・テールズ」1928年2月号
  • クトゥルフ神話知識:+10%
  • SAN喪失:-2D6

●チャールズ・デクスター・ウォードの奇怪な事件*

  • 執筆年:1928年
  • 初出及び発行年:「ウィアード・テールズ」1941年5月〜7月号
  • クトゥルフ神話知識:+10%
  • SAN喪失:-2D8

●ダンウィッチの怪

  • 執筆年:1928年
  • 初出及び発行年:「ウィアード・テールズ」1929年4月号
  • クトゥルフ神話知識:+10%
  • SAN喪失:-2D8

●インスマスの影

  • 執筆年:1931年
  • 初出及び発行年:ペンシルバニア州エヴァレットのヴィジュナリイ出版発行の単行本(1936年)
  • クトゥルフ神話知識:+10%
  • SAN喪失:-1D10

*:上記の書物のうち「チャールズ・デクスター・ウォードの奇怪な事件」のみが完全な呪文をひとつだけ含む。その呪文は「復活」及びその逆の呪文であり、この本に載っている呪文はこれのみである。この本の呪文倍数は×3。


恐怖のR. P. G. 闇の中の怪物
Matthew J. Costello/中山てい子:訳24P

1924年のアーカムの街を舞台にした一人用シナリオ。プレイヤーは「アーカム・ガゼット」の若き新聞記者「B・スミス」となってミスカトニック大学の女子学生の行方不明事件を調査するうちに、クトゥルフ神話の勢力が暗躍している事に気がつく。何者かによって凶兆を予告された夏至の前夜までに事件の原因である神話的存在の正体をつきとめて、しかる後にその陰謀を明らかにし、そして粉砕しなくてはならない。(ファンタジー・ゲーマー第3号)

原題は"THE THING IN THE DARKNESS"。1985年発売の"ALONE AGAINST THE WENDIGO"(日本語版は“ウェンディゴへの挑戦”)以前に、"Fantasy Gamer #3, Dec/Jan 1984"において発表された、おそらく“クトゥルフ”初のソロ・アドベンチャー。著者のMatthew J. Costelloは、後にケイオシアムから出版されたソロ・アドベンチャーのサプリメント"ALONE AGAINST THE DARK"も手がけている。

シナリオにおいて、プレイヤーは手がかりとなる場所の一覧から探索先を選択し、そこに記されたパラグラフを参照する事で、まずは怪物の正体を推測しなくてはならない。しかし、探索先に移動したりそこで探索を行うたびに1時間が費やされる。そして探索者に許された猶予は、わずか45時間しかないのだ(食事や睡眠の時間を削って探索を行う事も出来るが、無理をするために体力を消費してしまう)。神話怪物の正体を突き止める事が出来たならば、シナリオのレベル1をクリアーした事になり、多少の時間的猶予を得て引き続き、その陰謀の詳細を解明するためにレベル2の探索を開始する事になる。シナリオのレベルは、神話的存在の陰謀を粉砕するレベル3の段階まで存在している。全182パラグラフ。

“闇の中の怪物”をプレイするために

  • キャラクターの能力値
  • 他のシステム
  • 技能ロール
  • 銃による戦闘
  • ダメージ
  • クトゥルフ神話の怪物たち

闇の中の怪物

 目次

  • 1・0 イントロダクション
  • 2・0 キャラクターについて
  • 2・1 他のキャラクター
  • 2・2 武器
  • 3・0 プレイの進め方
  • 3・1 時間
  • 3・2 その他の場所
  • 3・3 数字で表される名前
  • 3・4 ゲームを終わらせる
  • 3・5 狂気
  • 3・6 技能ロール
  • 4・0 表
  • 5・0 地図
  • 6・0 イベントのセクション

1987.1 (No.2)

こんなコンピュータRPGになったらいいな コンピュータRPG雑考
伊藤一郎2P

ホビージャパンで扱っているボードRPGの、当時の日本で次第に普及し始めていたコンピュータRPGへの移植を仮想する記事。“トラベラー”及び“カー・ウォーズ”と共に“クトゥルフの呼び声”が取り上げられている。

 このゲームも背景設定のデータに詳細を極めてほしいものです。全世界というのは無理にしても(中略)欧米やクトゥルフ神話ゆかりの地(中南米や南太平洋の島々など)については、主要都市ぐらいはできるかぎり詳しくデータ化してほしいものです。(後略)
このゲームの特徴は、狂気(とそのものさしとなる正気度:SAN)の導入です。(中略)CGを駆使して、発狂後の、あるいは一時的狂気中のプレイヤーの様子を表すのです。うつろな目をしてぼんやりと中空を見ている表情など、ゲームの雰囲気に引き込んでくれることでしょう。
 このゲームは、戦闘指向ではないため、戦闘ルールはそれほど詳しくはありません。(中略)無理して“アステロイド”タイプのシステムにせず(できればそれに越したことはありませんが)、“ウィザードリィ”タイプの戦闘にし、その分目一杯敵方のCGに凝り、見ただけで本当に発狂しそうな(もちろんモンスターの場合)オドロオドロしいものになればいいと思います。
(中略)
キャラクターの成長(クトゥルフ神話の技能は別にして)は、あまり期待できません。(中略)やはり、プロットが重要となります。おもしろいプロットに豊富なデータという意味では、舞台がいろいろと移る新発売のシナリオ“ヨグ=ソトースの影”のような、一種の連作シナリオ・タイプのものなどよいと思うのですが…。


"R'lyeh Advertiser"1920年代の客船
弓下弦3P

1920年代に運行されていたアメリカ・イギリス等の豪華客船に関する資料集。

私としてはこのコーナーは単なるゲームのフォロー記事ではなく、あくまで「ゲームにも役立つ雑学記事」といった感じでこの先進めてゆきたいと思います。


異界のクリスタル
ピーター・ガイハム (Peter Gilham)/中山てい子10P

1920年代のアメリカが舞台のシナリオ。

半伝説的な異界のクリスタルを求めて探索する探索者達は、未知の怪物に出会います。

ラヴクラフトの原神話を「史実」として忠実に世界観に組み込んでいる場合には、プレイに向かないシナリオかも知れません。


“クトゥルフの呼び声”キャラクターの経歴
グレッグ・スタフォード/弓下弦5P

キャラクターの経歴を作成するためのチャート。

“クトゥルフの呼び声”ではキャラクターのためにいくつかの職業が用意されています。しかし世の中にはさまざまな職業を転々とし、新しい技能を身につけてゆく人もいます。


CALL Of CTHULHU ヴァリアント クトゥルフを撃て
ディック・ウェイジネット/有坂純3P

「ディファレントワールド」"Different Worlds"誌issue19に掲載された“クトゥルフの呼び声”の銃器ルールを改良するためのヴァリアント"Guns Against Cthulhu"(著者:Dick Wagenet)の翻訳記事。種類と性能にヴァラエティを持たせるよう改良された銃器表、「ルーンクエスト」のストライク・ランク(SR)に似た機能を持つ「発射率(ROF)」の追加、射程距離と命中率との関係の変更、「零距離」の定義の変更、動く目標に対する射撃の命中率修正、銃撃によって肉体の被るショックの再現と「耐痛表」の導入、爆発の威力と距離との関係の再現、といったルールが提案されている。


メタルの塗り方おしえます!――クトゥルフ・メタルを例にして――
坂本誠徳4P

グレナディア社等から発売されたクトゥルフモンスターフィギュアの塗装の指導。残念ながら四色ページなので細かい色使いは分からない。ちなみに、記事の著者は中山てい子氏の甥である。


ちょっとお洒落なRPG“クトゥルフの呼び声”への招待
有坂純1P

当時発売されていた各ゲームに対する、それらのデザイナーや翻訳者等によるリレー・レヴューの中の一編。

言うまでもなく(と、わたしは思っているのですが)RPGにとって最も大切なのは背景世界と設定(流行のゲームブックで言えば物語そのもの)であって、ゲーム・システムなどは一番どーでもいい部分です。……[引用者註:“クトゥルフの呼び声”の背景である「クトゥルフ神話大系」について]あえて一言で言えばそれは、何も知らずにぬくぬくと地球上で暮らしている人類の理性と常識をはずれたところで、かつてこの神[原文ママ]を統べていた太古の邪悪きわまる暗黒の神々とその一党が虎視眈々と復権の機を狙い、再び全世界を自分たちの手中に収める日を狂おしくも夢見ている、という闇の神話です。
 この邪神どもに敢然と立向うプレイヤー・キャラクター「探索者」たちは、人間の知ってはならない秘密を何たる不運か、その耳に聞きしってしまい、「健全な」一般社会からもほとんど援助を受けられないまま、絶えず生命と、そしてさらに大事な魂の危険を抱えながら、孤立無援に戦い続けなければならないのです。
 また他のファンタジーRPGと異なり、このゲームに登場するおぞましい怪物どもは、(たとえ下っぱでも)腕力ではというと人間など太刀打ちできぬほどに強く、ゆえにキャラクターは(プレイヤーは)、あらゆる策謀と魔術(もまた諸刃の剣で、強力な術であればあるほど、より大きく使用者の精神を喰い破ってゆくのです)を持って、知恵によって暗黒の陰謀を打ち砕くべく尽すのです。そして肉体の死ばかりではなく敵の恐るべき秘密、この宇宙の真の姿を知り過ぎてしまった探索者には、永遠の発狂という精神の死すらも訪れ得るのです。

「宇宙の真なる姿=神々」と「その真実に気づいてしまった人間=探索者」との対比に比べて、「宇宙の偽りの姿=人間世界」と「その偽りに気づいてしまった人間=探索者」との対比は、日本ではあまりゲームに生かされていないような……。世界の狭間に立つ孤独をキャラクターに感じさせる演出とは? 「シルバー仮面」(「〜ジャイアント」以前)か?




TACTICS別冊 PERFECT MANUAL SERIES 3

クトゥルフ・ワールド・ツアー

CTHULHU WORLD TOUR
THE RECORD OF DESPERATE STRUGGLES FOR THE HUMAN RACE

1990.4.1 発行
“クトゥルフの呼び声”日本版リスト
編集部?2P

1986年6月から1990年2月までの間にホビージャパンから発売された“クトゥルフ”関連の製品について、「原題」「発表年(オリジナル及び日本版)」「デザイナー」「内容」「定価」「紹介」を一覧にしている。ちなみにサプリメントの最新版は“クトゥルフ・ナウ”である。


一九二〇年代アメリカ編――CTHULHU IN 1920'S
スキュラの恐怖 "THE HORROR OF SCYLLA"
山本弘12P

1920年代のアメリカが舞台の短編ゲーム小説。

グループSNEによるホビージャパン関係の著作等を集めた「ヘンダーズ・ルインの領主」(同社刊)に登場人物や怪物のデータ付きで収録されている。


現代編――CTHULHU IN MODERN AGE
電脳空間の悪夢 "LORD OF BLACKBOX"
石橋善揚、国海武、上総理佳10P

現代のアメリカが舞台のシナリオのリプレイ。“クトゥルフ・ナウ”を使用している。

連続するハッカー失踪事件の調査に関わったキャラクター達は、黒き神の力による世界の浄化を願う恐るべき陰謀を知ってしまう……。現代を舞台にする場合、何が出来るか/出来ないかを知っているプレイヤーはスムースにロールプレイを行えるのに対して、現代的要素を導入したシナリオを作成/キーパリングするキーパーは「叩いても埃のでない」ように予備知識を蓄えなければならず、かなりたいへんな(かつ、やりがいがある)ようである。

#「ハッキング」「コンピューター・ウィルス」「サブリミナル」「サブマシンガン」といった現代的要素の中で、最もプレイヤーの興味を引いたのはやっぱり一番最後のものだったようである。しかし狂乱と共にM16をフルオート連射する探索者の前に立ちふさがったのは、「命中部位表」の適用によってさらに「撃たれ強く」なった神話怪物だった……。


中世日本編――CTHULHU IN FEUDAL JAPAN
師資捜奇伝 "MOROSUKE SOUKIDEN"
岡本博信、門倉直人11P

鎌倉時代中期の日本が舞台のシナリオのリプレイ。この時代の探索者を作成するための簡単なルールが付属している。

失踪した同僚の官人の行方を追う探索者達の前に現れる、忌まわしき光を放つ社の秘密とは。シナリオ及び設定・システムの作者である門倉直人氏がキーパーとなり、“遊演体ネットゲーム90”グランドマスターの柳川房彦氏、同じくサブマスターの岡本博信氏、「タクテクス」編集長の村川忍氏がプレイヤーとして参加している。ちなみに題の「師資捜奇伝」とは、このシナリオを生き延びた探索者が書き残した書物の事である。PC達の神話的体験によって、あたかも「アタマウスの遺言」のごとく新しい「魔道書」が増えるのでは、と門倉氏は言っている。

門倉氏デザインの“中世日本版ルール”としては、探索者の職業別技能表及びキャラクターシートが掲載されている。用意されている職業には「歌人(女性キャラクターは基本的にこれ)」「薬師」「明法家」「紀伝家」「侍」「僧」「傀儡師」「官人」「検非違使」がある。

#個人的には一番面白かった記事。「星之御子」「惨之七秘聖典」「産佐須良」という当て字もお気に入り。今なら職業に「陰陽師」が加わるのかも。平安時代の都を舞台に鶴嘴を持った検非違使が星之御子と闘うシナリオ……。


ヴィクトリア朝編――CTHULHU IN VICTORIAN AGE
ミューズ劇場の怪人 "PHANTOM OF THE MUSE THEATRE"
弓下弦9P

1895年のロンドンが舞台のシナリオのリプレイ。日本人にとってはかなりイメージの湧きにくいこの時代を扱うのに、キーパーはかなり苦労したようである。そして残念な事に、シナリオは“クトゥルフ・バイ・ガスライト”の独自性を持つ事に成功しているとは言い難い。

#逆に日本人の持つ通俗的な「イギリスらしさ」をあざといほどに取り入れた方が良かったのかも知れない。レストレード警部やケント警部(「海軍条約文書事件」からか?)の登場だけではちょっとパンチ不足では。

最後に、“ガスライト”第二版における追加ルール及び図版のいくつか(「ロンドンの店」のデータ、「ロンドンの霧」発生ルールとその特性、「ホームズの下宿」「大英博物館」見取り図)と、日本版の修正が記載されている。

“クトゥルフ・バイ・ガスライト”日本版修正

一八九〇年代の資料集
六〇ページ:火星人を見て失うSANは1/1D8です。
ヨークシャーの怪事件
五〇ページ:ホームズ関係のキャラクターとは、ホームズ家の人々+ワトソン博士のことです。

“クトゥルフ・ハイパーボレア”
"CTHULHU HYPERBOREA"
北川直7P

先史文明時代のハイパーボレアを舞台に“クトゥルフ”をプレイするためのルール及びデータ。C.A.スミスが生み出した架空の大陸ハイパーボレアの世界を背景に、“クトゥルフ”とファンタジー系ロールプレイとを融合させたサプリメント。

どことなくあかぬけない土の香りのする魔術と、超近代的な思想の混在するところ。人類の黎明期にあって、このハイパーボレアほどクトゥルフ神話にふさわしい舞台はないと言えるでしょう。

完全なものではないにせよ次のようなシステムが記載されており、この別冊の事実上の目玉であると言えるだろう。

キャラクター作成
「戦士」「狩人」「衛士」「処刑執行人」「呪術師」「賢者」「神官」
追加技能一覧表
〈工作〉〈錠開け〉〈操船〉〈盾〉〈伝承学〉〈刀剣戦闘〉〈物品鑑定〉〈弓〉〈罠の設置〉
武器表/防具表/装備表
呪文表
(「処刑執行人」「呪術師」「賢者」「神官」は最初から〈クトゥルフ神話〉技能を持ち、SANを減らしていくつかの呪文を覚えておく事が出来る)
ゲームの背景
  • ハイパーボレアとは?
  • 歴史
  • 文化
  • 宗教
  • 重要地名一覧
  • 重要人物一覧
参考文献

北川氏は“クトゥルフ”へのファンタジー的要素の導入において、

人間の自由意志がすべてを解決する「剣と魔法」のヒロイック・ファンタジーと、運命の皮肉を呪いながら、人間などおよびもつかない邪神の復活をはばもうとするクトゥルフ神話では、まったく相容れないものがある

という事をふまえつつ、そのようなヒロイックな要素、あるいは疑似中世的な要素(どちらも日本における「ファンタジー」に対する典型的な認識)を離れたイメージでハイパーボレアをデザインしていく必要性を主張している。

#“ストームブリンガー”や“エルリック”のような雰囲気のゲームになるという事?


ファンタジー編――CTHULHU IN FANTASY
呪われた村 "THE CURSED VILLAGE"
北川直とグループSNE14P

先史文明時代のハイパーボレアが舞台のシナリオのリプレイ。

連絡を絶ったツァトゥグァの神官の消息について調査するため、キャラクター達はヴーアミタドレス山のふもとにある辺境の村を訪れる。しかし予想に反して神官は健在で、村に対する布教も順調である事を主張した。では何故彼は連絡を取らなかったのか? 疑念を残しつつ調査を続けた彼らはついに、村を呑み込みつつある禍々しき脅威をつきとめる。

#情報を得るために神官がツァトゥグァの落とし子と接触したり、最終的解決の手段として賢者が炎の精を召喚したりと、他の時代設定においては禁断のものとされる「クトゥルフ魔術」を比較的自在に行使するところが楽しそうである。


APPENDIX――付録シナリオ
中国水晶 "CHINA CRYSTAL"
牧山昌弘、国海武10P

現代の日本が舞台のシナリオ。明記されてはいないが“黄昏の天使”があるとなお良いと思われる。

ある大学の学生が、実家としばらく音信不通になっているという。共通の友人である彼の消息を訪ねた探索者達は、怪しい素振りの大学教授やいわくありげな「中国・シルクロード秘宝展」に関わっていく。その背後には昏き復讐の怨念が数千年の時を越えて渦巻いていた。

キーパーへ

私は“クトゥルフ・ナウ”の最大の魅力は現実世界とオーバーラップした奇妙な二重写しの世界観だと思っています。ですから、舞台はなるべくプレイヤーたちがよく知っている(できたら実際に住んでいる)町や学校に移し替えてプレイしていただきたいと思います。

探索者達は同じ大学の学生として設定されているが、〈クトゥルフ神話〉技能が必要とされる場面もあり、「神話」初体験のキャラクターと多少の経験があるキャラクターが混ざるというのが良いのでは。


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