[ ヴェールをはぎ取るもの0102雑感 ]

ヴェールをはぎ取るもの(要約之二)

 フィッシャーはダオロス召喚の準備を始める。「歪んだ半立体的な五芒星の形状に組み合わされた(プラスチック製のように見える)構成物」「歪み穢れた形をした二本の黒い蝋燭」「偶像を頂いた金属製の杖」「頭蓋に蝋燭を立てるための穴が穿たれている、口の欠如した(明らかに人類のものではない)歪んだ髑髏」が床の上に並べられた。五芒星が部屋の床の中央に押し出され、そのそばに蝋燭の乗せられた髑髏が置かれた時、ギルソンはいかなる光もあってはならないという先の発言との相違を彼に尋ねた。フィッシャーの答は、ダオロスは召喚された時に蝋燭から光を吸い取るので、何も照らし出される事はない、というものであった。

 準備が整い、電灯のスィッチに手を延ばしながらフィッシャーはギルソンに最後の注意を与える。ダオロスは五芒星の中に出現し、その三次元的実体はその中にとどまる。しかし、彼はその二次元的展開を伸ばして我々に触れ、小量の血液を採るだろうと。動揺するギルソンに、ダオロスが召喚者から血液を採取するのは召喚者の意図を調べる手段であるらしい事、それは多くはなく、しかも司祭である自分の方からより多く採るであろう事、ギルソンはただそこにいるだけでダオロスのための通路を開くのに必要な生命力を提供できる事、痛みがないのは確かであるという事を説明し、異議を待つ事無くフィッシャーは明かりを消した。

窓の外にガレージのネオンサインのわずかな光があったが、ほんのわずかな光を残してカーテンによって厳密に取り除かれていた。黒い蝋燭はあまりにも薄暗く、本棚のそばのギルソンからは五芒星の向こうにあるものを何も判別する事ができなかった。彼は主催者であるフィッシャーが偶像を頂く杖で床を荒々しく突き、ヒステリックな調子で叫びだしたのに驚いた。「うすごす ぷらむふ だおろす あすぐい……来たれ おお 汝視界のヴェールを払い除け、彼方の実在を見せる者よ……」詠唱の声は次第に大きくなっていったが、ギルソンは特に気付かなかった。彼は自分とフィッシャーから弧を描いて五芒星の中の髑髏の醜怪な頭蓋へと流れ込む、輝く霧を見つめていた。詠唱が終わる頃には、二人の男と髑髏の周りにははっきりとした霊気があった。彼がそれを魅惑されたように見つめていた時、フィッシャーが詠唱を止めた。

しばらくの間は何も起こらなかった。やがて弧状の霧が消え去り、蝋燭の光だけになった。だがそれは今やより明るく輝き、霧上の霊気がその周りを囲んでいた。ギルソンが注意していると、一対の炎は薄暗くなり始め、そして突然瞬いて消えた。一瞬黒い炎(ある種の負の炎か?)が取って代ったように見えたが、それもすぐさま消え去った。同時に、ギルソンは部屋の中にいるのが彼とフィッシャーだけではない事を知った。

彼は五芒星の方から乾いたかさかさという音を聞き、そしてそこに動いているおぼろげな姿を感じた。それと同時に彼は何かに取り囲まれていた。乾いた、ありえざる光を放つ物体が彼の顔に触れ、唇の隙間に滑り込んだ。しかし身体の他の部分は、接触するものを捉えられるほどそれに触れてはいなかった。その瞬間はあまりにも素早く過ぎ去ったので、彼は接触するものを感じたというよりも覚えていたといった感じだった。しかしかさかさという音が部屋の中央へと引き返した時、彼の口には塩の味が広がっていた。そして彼は口の中に侵入したものが血液を採った事を知った。

かさかさという音に向かってフィッシャーが呼び掛けた。「今汝は我らの血を味わい、我らの意図を知った。『平面の五芒星』は我らの望み、信念のヴェールをはぎ取り正体を現わした実在を我らに見せる事を果たすまで、汝をそこに留めるであろう。汝はそれを成し、そして自身を解き放つか?」

かさかさという音は増大した。ギルソンは儀式が終わる事を願った。彼の眼はガレージのネオンサインからの光に慣れ始めて、今や図形の内部の闇の中でおぼろげにねじ曲がるものをほとんど見る事さえできていた。

突然金属のこすれるような不協和音の激しい爆発があり、建物全体が震えた。音はかすれるように静まり、ギルソンは五芒星に捕われていたものが去っていった事を知った。部屋は既に暗闇に満たされていた。蝋燭の光は回復せず、彼の視界はまだ暗黒を見透す事ができなかった。

 フィッシャーはダオロスが退去した事を確認し、同時に彼がフィッシャーの請願を果たさずには退去できない事を確信していた。彼はギルソンに自分がこれから明かりをつけてあらゆるものをあるがままに見、その後杖についた偶像を使って術法の効果を無効化する事を告げ、彼にそのまま見たいものを見るか、アイマスクを付けるかの選択を尋ねる。ギルソンは怖じ気つく事はないと言って前者を選択するが、その返答はかろうじて聞き取れるものだった。

「いいでしょう。では、明かりをつけます……!」

 住人の通報で駆け付けた警官達は、部屋の床の上にはケヴィン・ギルソンの刺し殺された死体が横たわり、壊れた窓の下の芝生には喉を窓ガラスの破片で引き裂かれたヘンリー・フィッシャーが転がっているというぞっとする情景を見つけた。全てが尋常ではないように思われ、フィッシャーの客人殺害についていかなる正気の理由も見出せない中、刑事達はテープレコーダーに残された彼の最後の言葉を何度も再生してみた。

「なに……くっ、やはり暗闇を見る事はできないのか。待てよ、何か……」

「何という事だ、私は何処にいる? あなたは何処にいるのだ? ギルソン、何処だ……何処にいる? いや、近づいてはいけない……ギルソン、どうか腕を動かしてみてくれ。動くものは全て見る事ができる……まさか、それがあなたであるはずがない……何故あなたの声を聞けないんだ……だが充分驚かされるものだ……今私に向かってくる……何という事だ、それがあなたか……膨らむ……縮む……原始の原形質、形を得ては再び失う……そしてその色……向こうへ行け! それ以上近寄るな……正気なのか? 私に触れようとするのなら、杖の切っ先をくれてやる……湿った海綿状の……ぞっとするような感触が……本当に殺すぞ! いやだ、触るな……触れるのは耐えられない……」

そして叫び声と、どさっという音が聞こえた。狂気の絶叫の爆発はガラスを突き破る音によってさえぎられ、そしてむせ返る恐ろしい音がしばらく聞こえていたが、やがて静かになった。

 二人の男が被った「肉体の著しい変化」。しかし実際の二人の死体には致命傷以外のいかなる変化もなかった。全ては二人の狂気によって引き起こされた幻覚として扱われた。

 だが、異常な点が少なくとも一つはあった。テープの雑音として片付けられてしまった、騒がしい乾いたかさかさという音が……。

前の頁へ / 索引頁へ


“クトゥルフの呼び声TRPG”用データ(けえにひ様提供)
「ドリーム・クリスタライザーの守護者」 / 「ドリーム・クリスタライザー」

[ ヴェールをはぎ取るもの:0102雑感 ]

△Return to Top

▲Return to Index▲