「命をかけて、神かけて」雑感

[「命をかけて、神かけて」要約]


2007/05/23

“クトゥルフ神話TRPG”ルールブックにおいて「アイホート」の項に記されている、「一団のアイホートの雛に率いられた気の狂った人間たちのグループ」の一例が語られている物語です。ただ、「自分たちを人間のような姿にしている」アイホートの雛の元ネタがこの小説のカーウィン・バークレィであるかどうかは、今のところ未確認です。

原文の表題"Cross My Heart, Hope to Die"についてですが、"cross one's heart"は子どもが何かを本当だと主張したり絶対にやると誓ったりする際に胸の前で十字を切るしぐさの事で、「神にかけて(真実であると)誓う」という意味になります。これに「(うそだったら)死んでもいい」という意味の"and hope to die"が付け加えられると、より強調された表現になるそうです。子どもの言い回しですが、大人もくだけた会話等において使う事があります。日本語で言うなら「指切りげんまん、うそついたら針千本飲ます」なのでしょうが、邦題に取り入れる良いアイデアを思いつかなかったので直訳風にしてしまいました。いっそ邦題は「絶対陰険チルドレン」にした方が良かったかも。

秘密の組織を作って大人に脅威をもたらす子ども達といえば、スティーヴン・キングの「トウモロコシ畑の子供たち 」を思い浮かべます。ある日突然子ども達が大人を虐殺し始める、「ザ・チャイルド」(1976年スペイン/ナルシソ・イバニエス・セラドール監督)という映画もありました。未遂ですが、「ウルトラセブン」の「アンドロイド0指令」もこのパターンですね。また、身近な人々がいつの間にか侵略者にすり替わられ、あるいは操られているといえば、私の記憶にあるのはジャック・フィニィの「盗まれた街」やロバート・A・ハインラインの「人形つかい」でしょうか。アイホートの雛のドッペルゲンガーからは前者を、雛が子ども達に寄生して操るという描写からは後者を連想しました。これら二つのプロットが組み合わさると、ジョン・ウインダムの「呪われた村」になります。


この小説と同じ設定に基づいて作成された(つまりこの小説がネタバレとなっている)、同じ作者による同名のシナリオが、サプリメント"RAMSEY CAMPBELL'S GOATSWOOD"に収録されています。以前「嵐前」雑感に追加したアイホートの新しい魔力に関するデータは、このシナリオから抜粋したものです。

白い蜘蛛――アイホートの雛(2009/04/17追記)

白い蜘蛛(アイホートの雛)

"RAMSEY CAMPBELL'S GOATSWOOD"の挿絵及びハンドアウトより。太い実線のマスは一辺が1インチ=2.54センチ。耳の穴から出入りするには少し大きいような気もしますので、上下ともよく育った雛なのかも知れません。別のシナリオでは、契約者の身体を引き裂いて「小さなおはじきほどの大きさ(約1センチ)」の雛の大群があふれ出す様が描写されています。

カーウィンの正体

シナリオにおける設定では、カーウィンはアイホートとその雛達によって作られたドッペルゲンガーであり取り替え子とされています。産まれたばかりの本物のカーウィンが産院から誘拐された時、彼の姿から骨格や筋肉や内蔵までを模倣して、数百数千のアイホートの雛が寄り集まる事によって作られ、その場ですりかえられたのです。アイホートの迷路に幽閉されている本物のカーウィンの成長が魔術的に反映される事により、最初の数年間は外の世界のドッペルゲンガーも本物の人間のように育っていく事ができました(「ウルトラセブン」第2話「緑の恐怖」に登場するワイアール星人が、地球防衛軍の隊員に変身した際の方法に似ています)。

しかし次第に、真っ暗な迷宮に閉じ込められている本物のカーウィンの状態がドッペルゲンガーにも悪影響を及ぼし始め、彼は奇妙で不自然な行動を取るようになります。そこでアイホートは彼の周囲の数人の子ども達に雛を植え付け、人間の子どもとして適切な状態や行動についての知識をそれらから吸収し始めたのです。こうしてドッペルゲンガーは再び、普通の子どもとして成長し続ける事ができるようになりました。そして雛を植え付けられた子ども達はカーウィンに付き従うようになり、それらを中心として秘密の仲間「サバイバーズ」が結成されたのです。

なお、幽閉された本物のカーウィンは、何らかの方法で生かされ続けてはいるものの、正気度を完全に喪失した、凶暴な野生児と化してしまっています。こちらのカーウィンを初めて目撃した時は、1/1D6ポイントの正気度を喪失します。

シナリオにはアイホートの雛のドッペルゲンガーを作成するルールは載っていませんが、オリジナルのカーウィンとそのドッペルゲンガーのデータを比較してみたところ、SIZと年齢はオリジナルの人間と同じになるようです。耐久力の半分以上を失うか、あるいは旧き印を見せられたり、それで攻撃されたりした場合、ドッペルゲンガーは小説中のカーウィンのように溶解してしまい、その光景を目撃した者は1/1D6ポイントの正気度を喪失します。

追記:2006年の末に発売された"Malleus Monstrorum"には、カーウィンのような存在が「アイホートの落とし子」としてゲーム・データ化されて載っていました。

Broodlings of Eihort
アイホートの落とし子、下級の奉仕種族

アイホートの落とし子は、非常に小さな白い蜘蛛のようなアイホートの雛が無数に集まる事によって作り出され、個々の雛のそれをはるかに超えた能力を持つようになった存在です。落とし子は死人のように蒼白く、体毛の全く無い人間のように見えます。

 アイホートの落とし子は会話をする能力があり、少し変装するだけで見破られる事なく人間達の間をうろつく事ができます。何らかの物理的なダメージを被るまで、落とし子の正体があらわになる事はありません。耐久力へのダメージを受けるたびに、落とし子の身体の一部分が分解して、白い蜘蛛のような雛の粘つく塊となって剥がれ落ちます。耐久力が0にまで減少すると、落とし子はバラバラな無数の白い蜘蛛となって溶け崩れてしまい、蠢きながら這い去っていきます。

 他のグレート・オールド・ワンの子供達と同じように、アイホートの落とし子も自分の主君に仕え、グレート・オールド・ワンの到来する道を準備するために活動します。

アイホートの落とし子、迷路の神の合体せし従者

能力値 ロール 平均値
STR 2D6+10 17
CON 3D6+6 16-17
SIZ 2D6+6 13
INT 3D6+6 16-17
POW 3D6+6 16-17
DEX 2D6+6 13
APP 2D6-1 6
移動 8 耐久力 14-15

平均ダメージ・ボーナス:+1D4
武器:何らかのものをその基本成功率で、ダメージも武器による
装甲:無し。あらゆる物理的な攻撃からは最小限のダメージしか受けません。1ポイントでも耐久力を残して逃亡した場合、落とし子は完全に再生する事ができます。再生は本来の耐久力の最大値になるまで、1ポイントごとに10分かかります。耐久力が0にまで減少した場合、落とし子は溶解して蠢く白い蜘蛛の塊になってしまいます。一度耐久力が0になると、落とし子はもはや再生する事はできません。
呪文:アイホートの落とし子は一般的に1D4種類の呪文を知っています。それらはアイホート及びそれに類する存在に関係しているものでしょう。
技能:人間として通用するよう苦労しているため、ほとんどの技能に-10%のペナルティがつきます。
正気度喪失:完全に人間の姿をしている落とし子を見る場合、正気度の喪失はありません。一度落とし子が溶け崩れ始め、その正体をあらわにしたなら、1/1D8ポイントの正気度を喪失します。

ダメージを受けても耐久力が0になるまで崩壊する事なく、あらゆる物理的攻撃からは最小限のダメージしか受けない等、"Malleus Monstrorum"のデータは小説やそれを元にしたシナリオのものよりも、かなり強化されています。言及されていないところを見ると、旧き印についても、他の神話的存在と同様に移動を妨害したりは出来そうなものの、その正体を暴き崩壊させるまでの効力を持つかどうかは怪しそうです。

操られる子ども達

「サバイバーズ」のメンバーである子ども達は、アイホートの「契約」を受けているわけではありませんが、耳の穴から頭の中に雛を植え付けられて、思考や感情を読み取られてしまっています。さらに子ども達は、カーウィンに対する服従の念をかき立てられるとともに、倫理観を麻痺させられています。ジェイミーを残忍な方法でいたぶる他にも、カーウィンの産まれた産院で当時怪しげな人影を目撃していた元看護師の老女を、口封じのために家に放火して焼死させたりするのです。

そしてアイホートの影響力がより増大すると、子ども達はさらに凶暴化し、純心無垢な仮面を脱ぎ捨て嬉々として襲撃や放火を行うまでになります。個々人は内心自らの行いに困惑と恐怖を抱いているのですが、集団としての子ども達からはいかなる良心の呵責や自責の念も感じられません。

そのような子ども達は、カーウィンのドッペルゲンガーを滅ぼす事以外に、旧き印を押し付ける事によっても雛を追い出して正気に戻す事ができます。また、シナリオにおいてはジェイミー(姓は何故かアプトン"Upton"となっています)は、「儀式」においてアイホートに雛を植え付けられる直前に、恐慌状態になって逃亡しています。(以下は私の推測ですが、小説におけるジェイミーの場合、「儀式」において雛を植え付けられはしたものの、「サバイバーズ」の「誓約」を破ってしまったために、アイホートやカーウィンとの魔術的なつながりが断たれ、彼が気絶している間に雛が耳の穴から抜け出していったのだと思われます。)

ジェイミーの一家の末路

シナリオにおいては、ジェイミーの両親は彼が誘拐される直前に、子ども達によって惨殺されてしまっています。助けを求める彼からの電話を受けて家に駆けつけた探索者は、庭に張られた針金によって転倒させられ、顔面を石で判別不可能なまでに殴り潰されている父親と、居間で片手を昆虫標本のようにナイフで壁に止められたまま、身体中を切り刻まれて息絶えている母親を発見する事になります。両親の死に様は、目撃者が1/1D4ポイントの正気度を喪失してしまうほど惨たらしいものです。さらに探索者の救助が間に合わなかった場合、ジェイミーも小説同様アイホートの前に引き出され、神に貪り喰われてしまうのです。その様を見た探索者は1/1D6ポイントの正気度を喪失します。

アイホートの迷宮

「サバイバーズ」の入団の儀式が行われる場所であり、小説の最後でアイホートが出現した丘は、シナリオではグリムスダイク・ヒルと呼ばれています。丘の内部には蜘蛛の巣状に洞窟が掘られていて、そのうちのいくつかは丘の側面の、茂みや岩陰に隠れた小さな開口部へとつながっているのです。これらの洞窟の何本かは子どもがやっと通れるほどの太さしかなく、大人は通る事ができません。

丘のふもとにひときわ大きく開いている、アイホートが通る事ができる太さの洞窟を入っていくと、蜘蛛の巣の中心部分にあたる広い空洞に出ます。ここは「サバイバーズ」の秘密の会合場所になっています。大洞窟はそこからさらに曲がりくねりながら下っていき、やがてアイホートの迷宮との接点である円形の空洞に至ります。その壁は、触ると冷たくぬめっている蒼白い多孔質の石でできていて、あらゆる方向へと伸びる何十もの洞窟が口を開けているのです。こここそが「アイホートとの接触」の呪文が唱えられて「入団の儀式」が行われる場所なのです。

探索者のような招かれざる者がこの地点に侵入した場合、アイホートの迷宮はその異界の力を発現します。探索者の周囲の空間が歪曲し、強烈な幻惑を与えるのです。目が回り身体がよじれる感覚は数秒で消えてしまいますが、その時にはすでに探索者は、どれが地表へと続く洞窟なのかわからなくなっています。どの出口も同じであるように見えてしまうのです。これにより探索者は1/1D6ポイントの正気度を喪失します。

無事に迷宮から生還するためには、探索者は〈ナビゲート〉とINTの1倍以下の両方のロールに成功する事で、地表へと引き返す事のできる経路を見つけださなくてはなりません。どちらかのロールに失敗した場合は、再び両方のロールを行う必要があります。一度に両方のロールを成功させる事でのみ、探索者(及びその同行者)はこの迷宮から脱出する事ができるのです。探索者は好きな時に何度でもこのロールを試みる事ができますが、そのたびに1D2ポイントの正気度を喪失します。ロールを行う者以外の同行者は1ポイントの正気度を喪失するだけですみます。

さらに、アイホートの迷宮は湿気を帯び複雑怪奇に曲がりくねる洞窟であり、アイホートの雛達がその床から天井までをびっしりと埋め尽くして蠢き、衣服の上に這い上がったり落下したりしてきます。このような状況の中をさ迷うため、探索者は迷路で費やす1時間ごとに1ポイントの正気度を喪失していく事になります。加えて(D100ロールの頻度は何故かシナリオ中では明示されていませんが)以下の表のような出来事や遭遇が探索者を待ちうけているのです。

アイホートの迷宮、出来事あるいは遭遇

D100 出来事あるいは遭遇
01 地表への出口。
02-10 頭蓋骨の割れた、人間の骸骨。
11-20 行き止まり。
21-25 地震。1D6をロール:1-3の場合、天井の崩落による1D8ポイントのダメージを避けるために、〈回避〉ロールが必要。4-5の場合、何も起こらない。6の場合、探索者達の背後の天井が崩れ落ち、洞窟を完全にふさいでしまう。
26-40 何もなし。
41-45 [このシナリオに関連する出来事(野生児カーウィンの襲撃)。]
46-50 氷のように冷たい地底湖。探索者達は泳いで渡るか、引き返すかする事ができる。その際の選択肢として、キーパーは湖に恐ろしいものが棲んでいる事にしてもよい。
51-60 迷宮の壁が、まるで生きているかのように脈動し始める。壁に触った者はその内部に吸い込まれていき、吸引力のSTRである25ポイントに対して自身のSTRあるいはSIZによる抵抗ロールに成功しない限り、殺されてしまう。
61-64 割れた人間の頭蓋骨でできている塔。
65 迷宮は広がり、丸天井の巨大な空洞へと到達する。床には人間の骨によって、迷路に似た経路が形作られている。骨の経路から足を踏み出したり、何らかの行動でその配列を乱したりしても、いかなる異常な結果も生じない。キーパーがそうなるように決定しない限りは。
66-75 二人の洞窟探検家達の、朽ちかかった死骸。
76-80 何もなし。
81-85 [このシナリオに関連する出来事(野生児カーウィンの襲撃)。]
86-95 汚染された空気。迷宮ですごす1D4時間、STR、DEX及びCONがそれぞれ1D6ポイント減少する。
96-97 ひどく腐敗し、すでに雛の這い回っている人間の死体。
98-99 アイホート。
00 「門」。どこにつながっているのかをキーパーは決定する。

このような危険極まりないアイホートの迷宮において狂気に陥った探索者は、閉所恐怖や暗所恐怖、昆虫恐怖等の、この場所にふさわしい恐怖症を発症します。また、狂気や怪我等で動けなくなった探索者はアイホートの雛の群に容赦なく襲われ、貪り食われ始める事でしょう。

悪夢と雛の襲来

探索者達がカーウィンや「サバイバーズ」に対して敵対的な行動を取った場合、アイホートは悪夢と雛を送って探索者達を襲撃します。悪夢の中で、探索者はサラサラという衣擦れの音で目を覚まします。すると寝室の戸口かまたはベッドの足元に、ぼろぼろのフードつきローブを着た人影が立っているのです。顔の部分は完全にフードの陰に隠れていて見えませんが、その姿からはアイホートの領域が持つのと同じ冷気が発散されています。そして人影は衣擦れの音を立てながら宙を滑るように近づいてくると、探索者の目前で頭を覆っていたフードを後ろに引き上げます。その下からは空を漂う蜘蛛の巣のような頭部があらわにされるのです。これを目撃した探索者は0/1D4ポイントの正気度を喪失します。人影はそのまま頭部を探索者の顔に押しつけます。そして探索者は粘つくそれが、すばやく這い回るアイホートの雛達の巣だと気づく事になるのです。

夢の中の正気度ロールにおいて正気度を喪失していた探索者は、一匹の雛が蜘蛛の巣から自分の顔へと飛び移り、口の中に潜り込んでくるのを見ます。この時、探索者はCONの4倍以下のロールを行わなければなりません。成功した場合、探索者は滑り込む雛を吐き出す事ができ、それと同時に目を覚まします。そして、自分のベッドや身体や顔の上に、何十匹もの雛達が群れ蠢いているという光景を目撃する事になるのです。身体のそばにいる一匹は吐瀉物にまみれていて、探索者は実際に雛が口の中に侵入した事を理解し、さらに1/1D6ポイントの正気度を喪失します。

最初の夢の中の正気度ロールにおいて正気度を喪失しなかった探索者は、夢の中の人影が蜘蛛の巣状の顔を押しつけてきた時点で目を覚まします。その場合、探索者の目撃する光景は上記のものとほとんど同じですが、口の中に入り込んで吐き出された雛だけはいません。

目を覚ました探索者の周囲には3D12+10匹の雛が群がっていて、体内への侵入と寄生を試みます。雛達にいっせいに身体中に群がられる事は、1/1D3ポイントの正気度の喪失を引き起こします。探索者は1ラウンドに2回から3回、雛を叩き落す試みができ、1回につき1D6+2匹の雛が叩き落されますが、さらに次のラウンドでは、3D10匹の雛が新たに増えます。この襲撃は3ラウンド続き、雛達はその後、壁の割れ目や穴の中に消え去ります。

雛が探索者の口に侵入できるかどうかの判定方法は、なぜかシナリオにおいては明示されていません。状況から察するに、この襲撃は回避不可能であり、攻撃成功率は基本的に100%だと考えていいでしょう。まず探索者が雛を叩き落す判定を複数回行い、その終了の時点で雛が残っていたら、その中の一匹が口への侵入に成功したと判断してよいのではないでしょうか。この場合、探索者は雛を吐き出せるかどうか、CONの4倍以下のロールで判定する事ができます。失敗すると雛は胃にたどり着き、探索者は寄生されてしまった事になります。

雛に寄生された探索者はアイホートとの「契約者」と同じ扱いになりますが、この神の影響力により、雛の増殖する期間が大幅に短縮されるという違いがあります。寄生された探索者は1日ごとに2D4ポイントの耐久力と1D8ポイントの正気度を失っていき、雛達はわずか2D3日後には探索者の身体を引き裂いて誕生する事になるのです。またアイホートは寄生された探索者と精神的に接触し、命令したり召喚したりする事ができるようになります。おそらく探索者はこれに抵抗する事ができないと思われますが、何らかの理由でアイホートの命令に応えられなかった場合は、精神的な苦痛により1時間ごとに1D3ポイントの正気度を喪失してしまいます。

雛の一時的な集合体

カーウィンが産まれた日の夜に怪しい人影を目撃していた看護師の証言に基づくと、赤ん坊のすり替えを行ったのは人間に近い姿をしたアイホートの雛の集合体だったようです。雛達は分厚いトレンチコートを着て帽子をかぶった背の高い人影という姿で、停電で真っ暗な産院の中に現れました。「嵐前」の最後の描写(太陽の最後の光が消えると同時に雛が犠牲者の中から現れる)等から、雛は一定以上の強さの光が弱点であると解釈されているようです(これはシナリオ中でアイホート自身に対しても適用されています)。人影も、産院の非常灯が点灯した時には、まるで火に焼かれたかのように身体を引きつらせて素早く逃げていき、後には苦痛で集合体から分離したらしい雛の大群を残しています。この弱点は、完全に人間を模倣したドッペルゲンガーの状態では克服されているのでしょう。

また、すり替えの直前に、人影は看護師達を何らかの手段で短時間気絶させています。もしかしたらアイホートの精神攻撃のような能力を持つのか、神自身の力を中継して使う事ができるのかもしれません。

あと、すり替えの直後に産院の外の茂みで人影の着ていたコートと帽子が発見され、その場から逃げ去る雛の群も目撃されています。ドッペルゲンガーとは異なり、姿を模倣する元のない雛の集合体は、あまり長時間その形態を維持できないのではないでしょうか。あるいはカーウィンの場合も、アイホートの迷宮にいる本物が何らかの理由で死んでしまったなら、ドッペルゲンガーの方も姿を維持できずに溶解してしまうという可能性があります。


アイホートの雛のドッペルゲンガーと普通の人間とを見分ける方法は、やはりその相手の髪の毛を引き抜いてみる事でしょう。ドッペルゲンガーの髪の毛も雛が変化して作られているものなので(しかもカーウィンが髪の毛以外無毛だった事を考えると、あまりやりたくない変化のようです)。人間の髪の毛は抜いてもそのまま何も起こりませんが、人間に化けたドッペルゲンガーの髪を抜くと、数秒間のたくり動いた後、ところどころで雛どうしが手を離し(元の姿に戻って)逃げ去ります……たぶん。


個人的に思いつくシナリオのネタとしては……かつてアイホートを崇拝する社があった土地を舞台にするというのを思いつきました。社はアイホート崇拝が駆逐された際に取り壊されたのですが、地下の部分は破壊を免れて残されていたのです。やがて邪教の記憶とともに社も忘れ去られ、シナリオの時点では住宅地として再開発され、マンションが立ち並んでいます。

しかし、何らかの原因によってアイホート崇拝がこの地に復活してしまうのです。古代の文献等から社の存在を知った邪神崇拝者がマンションに移り住んできたのでしょうか。それともマンションの増築工事の際に社の地下部分が掘り出されてしまい、立ち入った人達の中にアイホートの支配下に置かれてしまった人間が出現したのでしょうか。

ともかく、雛の寄生によるアイホート崇拝がマンションの住民達の間に広がっていき、自治会役員や管理人のうちの数人は既にドッペルゲンガーと入れ替わってしまっています。元の人間達は社の地下部分において、雛の変化した繭のようなものに包まれて、仮死状態で保存されているのです。彼ら彼女らの知識は、ドッペルゲンガーが必要とした際に適時吸い出されて利用されています。

さらに、住人達からは一定期間に一家族が選ばれて、社の地下から門を通ってアイホートの棲む迷宮へと向かわされ、アイホートとの契約を結ばされた後に帰されています。やがて家族はアイホートの雛の誕生とともに全滅してしまいますが、表面上は「引越し」として扱われる事になります。増殖した雛は社の地下いっぱいに広がり、マンションの壁や床等の構造材の隙間にも入り込んでいるのです。ショーン・ハトスンの「スラッグス」みたいに、水道の蛇口からアイホートの雛がニュルニュルと這い出てくるんです。

そしてシナリオは、長期出張から我が家に帰ってきた一人の男が、出迎えてくれるはずの妻や子ども達に「あなたはだあれ?」と尋ねられるところから始まります。

……ドッペルゲンガーとその取り巻き達を全員少女に、舞台を人里離れた孤児院にして、子ども達が拉致してきた大人を無理やり世話人にしている、というのもいいかもしれません。少女達の秘密のクラブの名前は「赤いクレヨンの貴族」で。


△Return to Top

[「命をかけて、神かけて」要約]

"Made In Goatswood"へ
▲Return to Index▲