旅日記 四日目(11/8)

   シェムリアップ市内散策 

     今日の午前中は、自由行動である。とくに予定は決めていなかったが、昨日の朝の日の出が残念だったこともあり、

     今朝はもう一度0530起床、0550ホテルを出て、何とか日の出が見られないかと一人で街の中を歩いてみた。

     カンボジア人の朝は早い。道に積もった砂を掃く人、自転車で出勤する人、観光客を待ってるバイクタクシーもい

     て声をかけてくるが、全部断る。車に乗ってるとすぐそこまでと思える距離でも、実際に歩いてみるとかなりの距

     離がある。砂を掃くカドハキの人は辻辻に居合わせているが、目に付くのはゴミである。スイカの皮とかの生ごみ

     も、ビニール袋とかもところかまわず捨てられている。おそらく雨季になったら、こういうごみは何もかも一緒く

     たになって泥水とともにそこら中に広がって行くに違いない。国としてのインフラの整備もままならない状況で、

     そこまで手が回らないということなのかもしれない。そういう意味では、この国はまだまだ発展途上にあるのだ。

     20分くらい歩いて、すこし開けた場所に出たとき、真っ赤な太陽が昇ってきた。「これが昨日だったらよかった

     のに!」思わず息を呑むほど、このときの太陽は美しかった。0700前になると、国道は通勤のバイクと自転車、

     この小文の「序」のところに書いたような、労働者を満載した大型トラックで混雑し始めた。今日も一日が始まる

     のだ。朝日を浴びて学校へ向かう子供たちは屈託がない。ホテルへ帰ってきたら、茶色い靴が砂埃で真っ白になっ

     ていた。

     ホテルでのバイキング朝食も、今日で最後である。ちょっと違うものにしようと思ったけれども、結局3日間トー

     ストとハムエッグ、ウインナー、温野菜の炒め物、オレンジジュースという、オーソゾックスな内容にとどめた。

     今日はのどが乾いていたので、アップルジュースも飲んだ。変わったものを食べて、腹を壊してはと、食べ物には

     ちょっと気をつけたつもりだったが、幸いたべものは皆おいしく、健康に過ごすことができたことはありがたかった。

     朝食後、まだチェックアウトまでは時間があったので、もういちど市内散策に出かける。どうしても水田か野原に

     水牛がいるところを見たかったので、なるべく郊外の田園風景の場所まで足を伸ばしてみた。午前とはいえ、今日の

     日差しは昨日とはちょっと違って、暑さがぶり返したようだ。どこまでも続く赤茶けた道。自分の足で歩いてゆこう。

     私は今、カンボジアの大地に確かに立っている。ちょっと感傷的に、気が大きくなっていたかもしれないが、そのと

     き私はそんな気持ちだった。遠くに椰子の繁みがあるその手前に、水牛の親子を発見。探していた風景とはちょっと

     違うけど、何枚かの写真をその場で撮った。ここまできてよかった、あとはちゃんと撮れてるといいんだけど。

     やがて時間がきて、ホテルに帰り、荷物をまとめてチェックアウト。国際電話代が、トータル4分足らずで21ドル

     も掛ったのにはちょっとびっくりさせられる。インターネットが1時間4ドルだったから、余計高く感じる。  

   タ・プローム(Ta Prohm)

     タ・ソムもそうだったが、このタ・プローム遺跡は、巨樹に覆い尽くされた遺跡である。覆い尽くされたというより

     は巨樹に押しつぶされつつある、というのが正しい。崩落の廃墟、プリア・カンといい、日本やドイツ、イタリアを

     はじめとする世界各国から、細々と遺跡修復のための援助がなされてはいるが、こわれたものを復旧しようとする人

     間の力と、それを風化、崩壊、埋没させてしまう自然の力はどちらが強いのか。せめて人間が、自分の手で作ったも

     のをふたたびその手で壊してしまうことのないように、願うばかりである。

   バンテアイ・スレイ(Banteay Srei)

     傾き始めた太陽が、赤茶色の精緻な壁面をいっそう鮮やかなものにする。「東洋のモナリザ」と呼ばれて有名な女官

     像は、ここでも残念なことに遠目にしか見ることはできなかったけど、非常に美しい石造建築であることに変わりは

     ない。残り少ないフィルムを気にしながら、しかしここでは割合じっくりと写真を撮る時間があった。

     夕食まで少しまだ時間があるので、サンボーさんはもういちどプレループ遺跡へと車をまわしてくれた。しかし夕日

     が落ちるまでここにいる時間はもうない。おそらく今日ならきっと美しい夕日をみることができるだろう。いつかも

     う一度、この場所へ来ることがあるだろうか。いや、きっと来てみたい。いつの日かもう一度。そう思いつつ、遺跡

     の階段を降りる。

   空港へ

     食事の前に、アンコールクッキーの店に立ち寄る。オーナーが日本人で、ほとんど日本人客だけを相手に商売をして

     いるのではないかと思われる。結構有名なクッキーらしく、土産にはちょうどよい。

     夕食に最後のカンボジア料理を食べ、空港に向かう。ガイドのサンボーさんとも運転手のポンブーさんとも、ここで

     お別れである。チップは最後にまとめて渡したのだが、一日ずつ渡してあげたらよかったのかな、という気もする。

     ともかくお世話になりました。おかげで無事快適に、楽しく過ごすことができました。

     「カンボジアはこれまで長い間内戦が続いてきました。内戦も終わり、新しく天然ガスの鉱脈も見つかりました。

     いまは世界中からお金を借りていますが、これからどんどん発展して行くのです。今後5年、10年経ったときには、

     このまちの風景も一変していることだと思います。」そういってサンボーさんは目を輝かせた。

     出国手続きをして空港税を払い、また出発までかなり時間があって、待たされた。やがて時間になって、真っ暗な空

     港を一歩ずつ踏みしめながら、私は航空機のタラップに向かった。きっといつかまた来よう。

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   19.12.24