やまがた文庫インデックス
ぺんぺんぐさ



ぺんぺんぐさ 巻之一

石原完爾のこと
 

志田火路司



 いまから12年ほどまえのこと、『アニメージュ』(徳間書店)という雑誌の中で、宮崎 駿と村上 龍の対談の記事が載っていました。そのなかで、宮崎さんが、村上さんの『愛と幻想のファシズム』という作品を読んで強い印象をうけたということが書いてありました。宮崎フリークの高校3年のわたしは、さっそくその本を買い求めて読みました。
 かなりにショッキングで過激な作品でしたが、そのなかで、主人公が敬愛している人物として「石原完爾」のことが断片的に書いてありました。それが、わたしの石原完爾との出会いです。

 それからしばらく忘れていたのですが、大学時代に再度『愛と幻想の〜』を読み直していて、ふと石原完爾のことを思いだしました。

 石原に関する幾冊かの本を探しあてました。実在の人物であり、しかも同郷のやまがた(庄内)出身ということを知りました。関東陸軍参謀、満州事変の立役者、熱狂的な日蓮信者、「世界最終戦争論」という著書があり、しかも東条英機とは仲がよくなかったらしい……。なおかつ、GHQの東京裁判に参考人として呼び出されたものの、戦犯として処分されなかった……。疑問はふかまるばかりで、評価などとうていできるものではありませんでした。批判されるべきはずの人だとも思うのですが……。

 その後、3年ほどまえのことでしょうか、安彦良和さんの『虹色のトロツキー』を読む機会がありました。そこで、ひさしぶりに「石原完爾」に出会いました。そこで受けた石原像は、当時の日本やアジア・満州の「理想」を夢に描き実現しようとしていた陸軍の年輩エリートという印象です。欧米との「現実」を実務処理するという立場の東条英機との差や、汚れた部分を一手に請け負う甘粕正彦とも対照的で、ある種の英雄像やカリスマ性をそなえた描き方を安彦さんはしていました。

 また、別のところでは、山口昌男さんが「敗者」としての石原像を執筆しているという新聞記事を読んだことがありました。おそらくすでに書籍として発行されているはずです。

 今年の夏、鶴岡市立図書館と酒田の光丘文庫で、石原完爾の資料展が開催され、それをみる機会がありました。日本人で最初のライカ愛用者であるというはなしを聞いたことがありましたが、実際に彼がドイツ留学中撮影した写真を多数見ることができました。彼のナポレオン関係のコレクションも膨大なものでした。また、晩年は小規模な農業にたずさわったといいます。「不憂不異」という直筆の小さな色紙があったのが、印象に残っています。

 青空文庫の掲示板・みずたまりの書き込みのなかで、今年は満州事変からちょうど70年目にあたるということを知りました。石原完爾を評価することも、批判することも、わたしにはまだ早いでしょう。すくなくとも現在できることは、記憶し続けること、考え続けること、彼の著作を読んでみることだと思っています。



 2001.12.11
 志田


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