■ 私的感想 |
今回この映画を観るにあたり、あまり難しいことは考えずに 子供になった気持ちで観ることにしました。 前々から期待していたこともあり、予備知識を頭に入れないようにして映画館に行きました。 ただ面白かっただけではなく、余韻が残りました。 この映画には、宮崎監督の様々な思いが込められており、決して安直な成長物語ではないのだということを感じました。 そこで、改めて文章にして感想をまとめてみました。
油屋
油屋は、人間社会の縮図のようなところであり、世間そのものの例えであると思いました。 それを宮崎監督は自分の世界観と想像力であのように表現したのでしょう。 湯婆婆は、冷酷な経営者ですが、子供を溺愛するという人間のような面を持っていますし、 湯屋で働くカエル男にナメクジ女もあくせく働く企業社員の様でもあります。
また、働かないものは生きていけないという世間の厳しさが、湯婆婆との契約という形で存在しています。 今の日本では、子供達は働かなくても生きていけますが、 将来出て行かなくてはならない世間というものが、まぎれもなく千尋の前に存在していたのです。
また、油屋の中では現実社会で自然が汚され壊されていることの風刺も表現されています。 汚れているだけで真の姿は高名な川の神であるオクサレ神、 マンションが建った為に埋められてしまったコハク川の神様であるハク。 川の神様であるニギハヤミコハクヌシ(ハク)が、湯婆婆に弟子入りして魔法の力を手に入れようとしたのも、 棲んでいた川が無くなり行き場所を無くしてしまったという悲しい背景があるのかも知れません。 物語を通して、自然界は自然(生物)だけで成り立っている訳でなく、また、単なる有機物と無機物の集合体でもなく、 魂が宿っているというアミニズムの思想を見ることができます。
カオナシ
孤独感、欲望、攻撃性、キレる等、現代日本人の弱さを映す鏡と言えるでしょう。 他人の気持ちを考えられないところ、また、それ故砂金で興味を引こうとするところは、コミュニケーションができない現代の日本人、 また、バブルに浮かれていた頃の日本人の比喩とも取れます。
カオナシは、油屋のある世界とも違う世界からやって来たということからも、 千尋と共に現代日本の人間界から来たという解釈も成り立つでしょう。 結局、油屋(=世間)では生きていけなかったカオナシは、現代日本人を象徴するようでした。
語られない背景
この物語では、設定など多くのことが語られないままになっています。 そもそも、千尋達が異世界に迷い込んだのはなぜかも説明されていません。 千尋は他の事に精一杯でいちいち疑問を感じなかったはずですから、 千尋が疑問に思わないようなところの説明はあえてされていないようです。 大人達は、ややこしくああだこうだと解釈するのかもしれないが、子供が世界のほんの一部しか知らないのと同様に、 説明がなくても大した意味はないのかも知れません。 子供達に伝えたいのはもっと別なことで、それを伝えることに意味があるということでしょう。
現実世界に戻って…
千尋が異世界に行ったことは夢だったのでしょうか? 車に積もった葉が時の流れを示し、また、髪の中で光る銭婆のくれたお守りの髪留めが、異世界が存在したことを示しています。
また、千尋は異世界での出来事を忘れてしまったのでしょうか? 銭婆が言うように1度あったことは忘れないはずです。
大人になってからの数日は一瞬ですが、子供の頃は1日1日に重みがあると思います。 千尋はたった数日異世界にいただけですが、様々なことを吸収して現実世界に戻って来ました。 「生きる力」を呼び覚ました千尋は、以前より少し物事を深く感じ取れるようになって現代社会を生きて行くのだと思いますが、 千尋のその後については、映画を観た人の想像に委ねられています。
生きる力
現代社会では大人達だけでなく子供達も漠然と将来に不安を抱いています。 しかし、例え困難が待ち受けていても、みんなには普段は眠っている「生きる力」があるから大丈夫だよと、 宮崎監督は言いたかったのではないでしょうか? あえて千尋のような特別取り柄もない少女を主人公としていることからも、特別な人でない誰にでも 「生きる力」はあるのだということが言えるでしょう。 現代社会の子供達は、普段「生きる力」を発揮するような機会があまりないはずなので、 物語の最初の頃の千尋同様に「生きる力」は眠っているはずです。 そこで宮崎監督は、子供達がこの映画を観ることで物事を少し深く感じ取れるようになって、 この先も元気に生きていって欲しいと思ったのでしょう。
かつて子供だった大人達にも、子供の頃の気持ちを思い出して観て欲しい映画です。
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