選挙について
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選挙について
 2005年1月30日にイラクの選挙が行われました。
 この選挙は、どのようなものだったのでしょう。さまざまな報道から考えてみましょう。

自由な選挙だっかのか
新聞社などの報道を見ると、自由な選挙が成功したと伝えるものがほとんどです。

イラク選挙「際だった成功」 ブッシュ米大統領が称賛(朝日新聞2005.1.31)

 ブッシュ米大統領は30日午後(日本時間31日未明)、同日に実施されたイラク国民議会選挙について全米向けにテレビ演説し「イラクの国民は、この選挙を際だった成功に導いた」と称賛した。米主要メディアも、投票率が予想を上回ったとの見方を示し、肯定的に伝えている。
 大統領は「大きな危険が伴うなか、多くの国民が民主主義への責任を果たした」と述べた。一部地域で選挙実施が不可能だった点には触れず、「自由選挙に参加することで、テロリストの反民主主義的なイデオロギーを明確に拒絶した」と語った。
http://www2.asahi.com/special/iraqrecovery/
TKY200501310145.html

初の自由選挙、テロ続発 イラク国民議会選(共同通信2005.1.30)

 旧フセイン政権崩壊後、イラク人の民意を初めて問う国民議会選挙の投票が30日午前7時(日本時間同日午後1時)、始まった。イラク治安部隊や米軍など30万人が厳戒態勢で警備したが、各地で投票所を狙った迫撃弾攻撃や自爆テロが相次ぎ約30人が死亡。長期の独裁体制と米主導の占領統治を経験したイラクは不安の中で、国民の自由意思に基づく国造りへと一歩を踏み出した。大勢判明の時期は不透明だが、多数派のイスラム教シーア派勢力が最大議席を占める公算が大きい。
 イラク暫定政府のアラウィ首相は「イラク人が自らの未来を描く歴史的な瞬間だ」と語った。
http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/kokusai/
20050130/20050130a3920.html
 
イラクで行われた選挙は、これらの報道が伝えるように、自由なものだったのでしょうか。それをさぐるために、イラク人の手で書かれたものやイラクへ入って取材しているジャーナリストの記事を見てみましょう。

 まず、ライード・ジャラールさんというイラク人建築家のブログを見てみましょう。ライードさんは、ファルージャの人々を支援しようと募金(ぼきん)を呼びかけ、援助物資を届ける活動をしている人です。

食べる物のために投票を(Raed in the Middle 2005.1.30)
 投票に行かなければ,政府は毎月の食糧配給をカットするということが,イラクじゅうでよく知られている。みんながこのことを話していて,みんなが信じている!!! ひどい状況にありめちゃくちゃにされたイラク人たちが何百万人と家から引っ張り出されて,爆発やら銃撃やらの中を選挙センターに行かされた大きな理由のひとつが,これなのだ。
 彼らは選挙のことなどまったく気にかけていない。食べる物がほしいのだ。何百万というイラク人は,この噂が本当なのかでたらめなのかを調べることなどできる可能性もない。これは生き残れるかどうかという問題なのだ。毎月の食糧配給を受けるためには命の危険も辞さない。
 シスタニの命令ですら,人々を家から出させて投票に行かせるためには十分ではない。彼らはブッシュ流の自由などほしくないのだ。
 数日前,バグダードで,弟のハリードの友人が,ハリードに「行くだけ行って白票を投じてくるよ。家族の食糧配給がほしいから」と言った。今日は2度,バグダードのハリードに電話をして,どんな状況かを確認したが,僕が(アンマンで)BBCで聞いたのと同じことを弟は言っていた――2分に1度爆発があると!
http://raedinthejapaneselang.blogspot.com/2005_01_30
_raedinthejapaneselang_archive.html

 次に、アメリカの「ニュースタンダード」という新聞の特派員で、イラクに行って取材を続けているダール・ジャマイルさんの記事を見てみましょう。

食料と引き替えに投票しただけ
 31日(=投票の翌日)、多くのイラク人は、政府機関から提供されたリストに自分たちの名前が記録されたと話していた。その機関は有権者登録をする以前から、毎月の食料配給をおこなっていた。
 「私は投票所に行って、ある人物に私の住んでいる住所と名前を届けた」とワシフ・ハムサは話した。32歳になるこのジャーナリストは、バグダッド市内のシーア派が多いジャニラ地区に住んでいる。「そうすると、月々の食料配給をしてくれる人物のところへ、この男が案内してくれた。」
 バグダッド市内バヤア地区に住む工科大学生のモハメッド・ラアドも、同じような体験を語った。
 ラアド(23歳)は、毎月の食料配給をしている人物を、地区の投票所で見かけたと言った。「食料の配達者はもちろん個人的にも顔見知りだが、彼が私の名前と投票している家族の名前を記録した」と彼は言った。「そうしてやっと、私は投票用紙を手に入れ、投票できるようになった。」
 サイード・ジョデトも、「顔見知りの食料配達者2人が話しかけてきて、もし私たちが投票しなかったら、私たちの食料配達は保留にされると告げた」と言った。彼は21歳の工科大学生でバグダッドのハイ・アル・ジハード地区で投票した。
 投票しなかったイラク人には、月々の食料配給が届けられなくなる、という公式の指示はなかった。
 だが、多くのイラク人は選挙前に、もし投票しなかったら、月々の食料配給を止められるという懸念を感じていた。彼らは食料を受け取るために有権者登録に署名しなければならなかったと証言した。
 投票当日の体験は、投票者を増やすために米国に後押しされたイラク暫定政府がとった疑わしい措置をめぐって、多くの懸念を強調することとなった。
 バグダッド中心部に駐車場を持つ52歳のアミン・ハジャルは、選挙の数日前に、「私は食糧配給を止められるわけにはいかないので投票するつもりだ・・・もし止められでもしたら、私と家族は飢え死にしなくちゃならん」と話していた。
 ハジャルはIPS(インター・プレス・サービス)に、こないだ月々の食料配達を受け取るとき、有権者登録を済ませたという申告書に署名するよう迫られたと語った。投票しない者の追跡調査に、政府がこの情報を利用するつもりだと恐れを抱いた−−彼はそう指摘した。
http://www.geocities.jp/uruknewsjapan/
2005Vote_for_Food.html

 2人が伝えているところによると、選挙に行かないと食料がもらえなくなると思った人が多かったようです。このようなことは、他のHPにも見られます。投票しなかったイラク人には、月々の食料配給が届けられなくなる、という公式の指示はなかったようですが、「食料配達を受け取るとき、有権者登録を済ませたという申告書に署名するよう迫られた。」という証言などから、食料配給を受けるためには投票をしなくてはならないと、人々に信じさせるような操作がなされていたことがわかります。

投票しなかった理由
 今回の選挙では、投票しなかった人は、たくさんいます。
 はじめ、投票率は72%だと発表されましたが、まもなく60%だと訂正(ていせい)されました。しかし、投票していない人は、40%の人ではありません。それは、今回の選挙の投票率が、
  (投票した人の数)÷(登録した人の数)×100
という式で出されたのですが、本来であるならば、
  (投票した人の数)÷(投票する権利のある人の数)×100
という式で出されるものですので、投票しなかった人は、40%よりも多いのです。
 今回投票した人は、約800万人と言われています。投票する権利のある人は、イラクの国内・国外を合わせて約1600万人と言われていますので、約半数の人が投票していないことになります。(あくまで、約800万人が投票したというのが事実ならばのことです。すぐに投票率が訂正されていることから考えると、確かではないのかもしれません。)
 では、この人たちは、なぜ投票しなかったのでしょうか。
 投票しなかった人は、投票したかったが危険から身を守るために投票できなかった人と、投票しないと決めた人に分けられます。
 投票しないと決めた人は、なぜ、そのように決めたのでしょう。

 よく伝えられていたことは、次のNHK週刊こどもニュースにもあるように、スンニ派の人たちが、今までもっていた国の政治の権利が得られなくなるからというものです。

NHK週刊こどもニュース2005.1.29
イラク国内の3つのグループのうち、アラブ人のイスラム教シーア派の人たちの多くは、選挙に賛成しています。クルド人のイスラム教スンニ派の人たちも賛成しています。
 でも、アラブ人のイスラム教スンニ派の中には、選挙に反対している人たちも多いのです。
 というのは、フセイン大統領は、アラブ人のイスラム教スンニ派で、スンニ派の人たちは、これまで国の政治の中心になってきましたが、人口では全体の20%しかいません。選挙をしたら、人口の60%を占めるシーア派が政治の中心になってしまい、自分たちの力が弱くなってしまう、と考えている人たちがいるのです。
http://www.nhk.or.jp/kdns/_wakaran/05/0129.html

 では、イラクの人たちは、どのように言っているのでしょうか。
 ライード・ジャラールさんは、次のように言っています。

早い選挙,いんちき選挙(Raed in the Middle 2005.1.27)
 わたし自身,イラクという国家の政府によって影響を被った人間のひとりである。あれらすべての戦争で命を落とした親戚がいる。祖先がイラン出身であったために,イラクとイランの戦争の期間は国境地帯に投げ出された親族もいる。イラク政府の態度をイラク国内で批判したために,個人的にも多くの問題が発生した。イラク政府が違ったものであったならば,わたしの生活の質はもっとよいものであったであろう。わたしも,イラク国内で暮らしている間に政府によって悪い方に影響を受けた何百人という人々のひとりである。それでも,この戦争の前の政府は,国家的で公式な政府であったとわたしは理解している。この国を「解放する」ために起きた違法な戦争の正当な理由となるものは,何もない。わたしはこのスタンスを戦争の前から取っていた。そして,イラクの人々の生活を改善する唯一の方法は,内部からの変革であると信じていた。わたしは経済制裁に反対し,戦争に反対していた。そして今,わたしは占領に反対している。
 今回の選挙は,中東におけるブッシュの計画の一部である。イラクにおけるブッシュの計画の……この選挙に参加することは,この計画のありとあらゆる点を,正当なものとしてしまう。二重封じ込めを正当なものとし,最初の戦争(湾岸戦争)を正当なものとし,経済制裁を正当なものとしてしまう。そして,占領の戦争を正当なものとし,そのために奪われた数万の命に正当な理由を与えてしまう。この選挙で票を投じることは,すべての殺人に,ブッシュ政権の行なったすべての不法な動きに,正当な理由を与えてしまう。
 人々が選挙に行くという事実によって,ブッシュ政権がイラクの人々の代理として為したすべての動きが,正当化されるであろう。この政権は遠路はるばるわたしたちを「解放する」ためにやってきたのではなかったか? わたしたちに選挙権を与えるために,遠路はるばるやってきたのではなかったか? これは,彼らがわたしたちの国を破壊しに来るための虚偽の口実ではないのか? 票を投じる者は誰であれ,不幸なことに,ブッシュの物語を完成させることになる。そして,ブッシュの物語を,あたかもみなが起きたことについて喜んでいますというかのようなものに仕立て上げることになる。
http://raedinthejapaneselang.blogspot.com/2005_01_30_
raedinthejapaneselang_archive.html

 また、イラク愛好同盟のサミ・アラアさんは、次のように言っています。イラク愛国同盟は、アメリカの占領に反対して、武器を持ってたたかっている人たちの組織です。

民主主義よりも、まず国民の解放を(イラク愛国同盟サミ・アラアへのインタビュー2005.2.1)
イラク愛国同盟は、1991年の湾岸戦争と国連の経済封鎖、そして2003年に始まる戦争と占領を、国際法およびジュネーブ条約、国連憲章に照らして、不当で不法なものと考えています。したがって、そこから生じたすべての政治制度と同様に、選挙も正当性のない不法なものです。「統治評議会」から「主権移譲」と「暫定政府」をへて、いわゆる選挙まで、それに連なる占領者によって動かされたあらゆる政治プロセスが正当性のないものなのです。
 したがって私たちは、わが国民に選挙をボイコットするよう呼びかけました。
http://www.geocities.jp/uruknewsjapan/
2005Interview_with_IPA.html

 ライード・ジャラールさんは、武器をもってたたかうことに反対していますが、サミ・アラアさんは賛成しています。2人の立場は違いますが、アメリカの占領に反対し、今回の選挙で投票することは、アメリカがイラクに攻撃をしてイラクを占領したことすべてを認めてしまうことになるので、投票はしないと考えていることは一致しています。立場が違う人たちがこのように思っているということから、さらに大勢の人がこのように考えていることが想像できます。
 もしも、投票してもしなくても食料はもらえると、人々が信じていたら、投票結果はどのようになっていたのでしょうか。