石の森 第 113 号  10 ページ   /2003.1

 トモコノアカチャン

奥野 祐子


この世界に来る前
わたしは全身ぬれねずみで
切り立った崖の先端に立っていた
順番が来るのを震えながら待っていたのだ
程なくその時は来て
わたしは頭からまっさかさまに
闇の中へ飛び込んだ
そんでもってたどりついたのが
ニッポン オオサカ トモコノ子宮
泣き喚くわたしにトモコが乳をふくませた
わたしは手足を振り回し
がむしゃらに生きていた
たくさんのカオやコトバや音や臭いが
豪雨のように降り注ぐ中
よろこびもさみしさもないわたしは
死のように無慈悲で確かなものだった
トモコノアカチャン?
冗談じゃない! そんなふうに呼ぶな
わたしはわたしだ!


 次へ↓ ・ 前へ↑