石の森 第 113 号  10 ページ  /2003.1

 三尸

金堀 則夫


癇の虫は
ものごころのついたときから
鎮められている
からだに
三匹の虫が生息しているという
虫の眼が
わたしの見えざるもの
言わざるもの 聞かざるものを
じっと見つめている
たまらない叫びが たまらないまま
胎に巣くっている

六十日ごとに
かのえさるがくる その晩に
わたしのからだから抜け出し
三匹の虫が知らせにいく
朝 裁きを受けて
わたしの生き様が現れてくる
わたしは感知できない
見えないもの 言い表せないもの
聞こえないもの
自滅寸前に虫の知らせがくる
口をふさぎ 耳を押さえ 眼を覆う
三猿の生き様が虫食っている
死のないしかばね
虫の音

虫を殺して
きょうも番の鶏が 目覚める
死からの蘇生が
神も仏もない
供養しようが してもらおうが
戒名の助けを受けようが
裁きは裁き
わたしはわたし
化石になって しかばねになって
忘れ去られていく
そこにある石塔は
いつも風化している


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