後藤の部屋

No.66「足湯=フットバス」

 寒かった冬も終わりが近づきました。今年は冷えが強かったせいか、足湯や足へのお灸で症状が警戒する患者さんがたくさんおられました。現代人は足が冷たい人が増えているようで、足湯がさまざまな症状に効くようです。先だっての勉強会では「いよいよ花粉の時期が始まります。漢方薬と西洋薬で治療しても症状が軽快しない人は、まず甘いもの、食べ過ぎを控える養生、適度な運動、そして足湯をしましょう。」という話がありました。足湯が花粉症に効く?不思議な話ですが、ストレスなどがあると気の巡りが悪くなります。頭で考えすぎると上半身に熱が集まるので 鼻詰まりや顔面紅潮などの症状を起こすほか熱の分布が不均衡になり下半身が冷えます。全身の熱循環をよくしなければなりません。熱は本来下から上に上がるものなので、足湯で下半身を温めると熱の循環が改善され上半身に集まりすぎた熱が全身に回って症状が軽快します。このほか婦人科疾患や腰痛、老人のうつなど足が冷えている患者さんに足湯の効果があります。

 これまではお風呂の追い焚きで、汗をかくくらいまで足湯することをお勧めしていましたが、寒い中でお風呂まで行ってやるのは面倒だと思います。最近の経験でフットバスで十分効果があることがわかりました。1万円くらいでネットで購入できますので足が冷えて体調が悪い方は、お風呂で試して効果がありそうなら寒い時期はフットバスで足湯されてはいかがでしょうか。こたつでいいじゃんという方もおられますが、空気とお湯では熱の伝わり方が段違いですので足湯をお勧めしています。湯冷めしないように上がった後で冷たい水をかけるのがよいでしょう。



2025年02月19日

No.65「一挙手一投足」

 まだ20代の頃地方の病院の整形外科医として勤務していた時に、高齢の先生と一緒に外来を担当していました。その先生は仕事がマイペースだったので少しムッとすることもあったのですが、ある時「若い医師と高齢の医師では守備範囲が違う。若い医師は新しい知識はあるだろうが、経験が足りない。何より人間が歳をとるとどうなるのかがわかっていない。だから高齢者を診るのは高齢の医師の方がよい。若者は若者らしく働けばよい」というようなことを言われました。その時はそんなものかなと思ったのですが・・・。

 時が流れて最近よく老いを感じるようになりました。カルテの入力で入力ミスが多くなりキーボードから目が離せませんし、患者さんの話を聞いていても聞き違えて「先生、違いますよ。」と言われることが多くなりました。歳をとると困り事が増えるようです。

 しかし、老いることは悪いことばかりではないはずで、例えば禅のことを外国に紹介した鈴木大拙が九十歳を過ぎて「歳を取らなければわからないことがある」と言っています。それは何だろう、高齢の患者さんの中にそのヒントを探していました。ふと一挙手一投足という言葉が浮かびました。一挙手一投足といのは、手を挙げて足を踏み出すということで細かな一つ一つの動作の意味です。歳をとると誰でも動作が緩慢になります。早く動かす筋肉が衰えるからと言われていますが、急な動作をすると痛みを感じることが多くなるので、自然と慎重にゆっくり動いていることもあると思います。

 患者さんの中に90歳すぎても筋力がしっかりして痛みを訴えない人がいましたが、その動きはゆっくりではあるが洗練されているなと感じました。椅子にどすんと座る患者さんはいかにも痛みが出そうです。そこで考えたのは、歳をとると一挙手一投足を大事にしなければならないのではないか、そうすることで元気で長生きできるのではないかと。一挙手一投足、つまり細かい日常のことが実は大事なのだということを老いた身体が教えてくれるのではないかと思いました。自らを顧みて、若い時は細かいことは気にせずに突っ走っていました。これからは一挙手一投足を大事にしていきたいと思います。


2025年01月06日

No.64「痛みに負けないために 養生とヨガ」

 鍼治療した患者さんから「やったときはいいけど、また痛くなる。」というお話をよく聞きます。「痛みの原因がなくなるわけではないのでそうでしょうね。痛くなったらまたやりましょう。」とお答えしています。急性の痛みの中には鍼ですぐ治るものもありますが、慢性の痛みの中にはしぶとくて鍼でも薬でもなかなか治らないものがあります。

 治らない痛みをどうするか、これは大きなテーマです。痛みに勝てないなら負けずにうまくつきあっていく他ありません。車いすバスケットの選手が「普段は脊髄を損傷した腰から下が氷に浸かっているような痛みがあるのですが、バスケをやるとその痛みを忘れます。」と言っていました。痛みがあってもスポーツができる人間の潜在力はすごいものです。痛みがあっても日常生活をおくれるなら痛みに負けていません。痛みに負けないために何をするか、まず養生そしてヨガですというのが今回のお話です。

 私たちのやり方は、まず日常生活の中で節制に心がけて身体の状態を整えます。身体の状態を整えるために食事、睡眠、運動などの日常生活を改善するのが、外来でお渡ししている黄色いチラシの養生です。この養生で生活の乱れからくる痛みが軽くなることが期待でき、痛みで衰えた体力を回復する基盤ができます。その上でヨガをやります。私たちのやっているヨガは呼吸に集中することで余計なことを考えないようにする訓練で、同時に体力を向上するものです。痛みがあると、なぜ痛いんだ、痛みを何とかしてくれ、痛みから逃げたいなど心が乱されます。この心の乱れが痛みを苦しみに変え、自ら動こうという積極性を奪います。痛みがあっても心が乱れないようにしておけば日常生活を継続できます。

 養生をやってヨガの練習を続けている人の話を聞くと確かに効果があるようです。ヨガをやって「やる前は呼吸が浅くてそのことに気づかなかった。ヨガやって次第に呼吸が深くなりそれとともに症状が軽くなった。また以前は体力がなかったが、体力がついていろいろやれるようになった。」という話を聞きました。痛みに負けないようになったのは薬や特殊な治療のおかげではなく、自らの努力によるものだと思います。

 将来は治療法として一般的になることを期待して努力を続けていきます。


2024年12月05日
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