後藤の部屋

No.59 熱中症の筋肉痛

 梅雨が明けて急に暑くなり熱中症の予防が急務です。今年は10年に一度と言われる暑さで今までと同じではこの夏は乗り切れません。今回は水分の補給は当然のこととして塩分も補給することが重要だというお話からです。

 先日暑い中、家でじっとしていても身体に良くないと思い散歩に出ました。予定通り8000歩だけ歩いていると途中で「あれ?太ももが痛い。いつもならこのくらいで痛みが出ることはないのに。」と不思議に思いました。帰っても痛みが続き、マッサージしていたら攣るようになりました。これはあれだ!と思ってコップの水に食塩をひと匙入れて味見したところ、やはり塩っぱくありません。この濃度は普段なら飲めたものではないと感じるので身体が塩分不足で塩を求めていると自己診断して梅干しやら塩飴やら塩分補給を行って痛みも攣りも解消しました。原因のわからない筋肉痛は熱中症のサインかもしれません。

 その経験から外来でも「脚が攣るので芍薬甘草湯をください。」という患者さんが数人来られたので「この時期は塩分が不足して筋肉が熱痙攣を起こすこともあるので、必ず塩分の補給もしてください。」とお伝えしています。

 それにしても今年の夏の暑さは危険です。水をがぶ飲みすると消化力が弱くなって夏バテしやすいので普通の年はお勧めしないのですが、今年は強烈な夏を生き残るために一定の水分と塩分を必ず摂ることをお勧めします。

 もう一つ、普通は暖かくなれば血管が開いて血圧は下がるものですが、強烈に暑いとストレスになって血圧が上がります。この上がった血圧を下げるには冷やせばよいわけで私は冷蔵庫の中から保冷剤を出してタオルで包んで頭を冷やしています。血圧といえば先日外来で血圧が高い患者さんが「自分では何ともないよ。」と言っておられました。そこが血圧の怖いとこでサイレントキラーつまり静かな殺し屋と言われる所以です。つまり測らなければ危険に気づきません。普段から血圧を測定して高血圧があれば医師と相談して適切に管理しておくことが肝要です。

 残念ながら地球の温暖化は悪化するばかりです。抜かりなく対策を立てて暑い時代を生き残りましょう。



2024年07月23日

老年医学編「ひまでひまで」

 整形外科の外来に80すぎの高齢者が膝の痛みで来られました。診察でもレントゲンでも異常はなくお年にしては驚くほど立派な筋肉です。
 「痛みの原因に心当たりは?」「前の日に少し歩きすぎたかな。」
 「どのくらい?」「4万歩かな。」
 「4万歩!旅行にでも行ったのですか?」「いや、近所だよ。毎日1万歩以上、歩いている。」
 「おそらく歩きすぎでしょう。」「俺もそう思う。」
 「休めば良くなるのでは?」「いやぁ。ひまでひまで。」

 厚生労働省は高齢者に毎日6千歩の運動を推奨しています。体力のある人には若い人同様に8千歩歩くことでさらに健康増進効果があるとも。やりすぎがどのくらいかはまだわからないとのことですが、痛みが出るほど歩くのは控えた方が良いでしょう。

 高齢になると仕事から解放されるので、時間が余るようになります。亡くなった私の母も「しのぎができない。」と嘆いていました。ひまな時間を耐え忍ぶのが難しいということのようです。個人差はありますが、目は見えにくく、耳はきこえにくくなり、楽しみが遠のきます。友達も少なくなり、使えるお金も節約せねばならず、社会とのつながりも減ってきます。落語の世界ではご隠居さんとして、若い人の相談役になるのでしょうが、生き方が全く違ってくるとそれも難しく、へたすると老害と言われかねません。アメリカにいた時に「引退した老人は世界一周旅行をしたら、家の窓辺に座って通りを歩く人を眺めながらお茶を飲んで過ごすものだ。」と聞いたことがありますが、そのあたりに答えがあるのかもしれません。高齢になってみないとわからないことは多いので、年配の方とお話しするのは本当に勉強になります。



2024年06月17日

No.58 お薬いりますか?

 気温差が大きい日が続いています。体調を整えるのが大変でしょうが、衣服を調整し、適度に運動して、何より日常生活で養生を心がけてこの時期を過ごしましょう。

 先日後輩の心臓外科専門医と話していました。「後藤さん、血圧は大丈夫ですか?」「寒いと血圧上がって薬飲むこともあるけど基本飲まなくても大丈夫だよ。」「薬飲んでおいた方がいいですよ。血圧と脳梗塞の頻度は比例しますから。」「そうかもしれないけど、薬飲まなくていいなら飲まない方がいいんじゃない。」「脳梗塞になったら大変ですよ。しもの世話もやってもらわなくちゃいけない。脳梗塞だけは絶対なりたくないから薬は飲んだ方がいいですね。」見解の相違でしょうが、どう生きるかもどう死ぬかも本人の選択です。他に病気がないか、家族はどうだったか危険度を評価して、薬が必要なら飲みますが、そうでないなら普段の生活でやるべきことをやって、わずかのリスクは覚悟して生きていくことにしています。

 以前は患者さんが求めれば薬は出すものだと思っていましたが、最近はそうではないと思うようになりました。薬が絶対必要であればお勧めしますが、そうでなければ他の方法を試してはと提案しています。痛みがあるからと痛み止めをもらって、もっと強い薬でないと効かないとどんどん違う薬を飲んで最終的には病院で出る薬では効かないからと非合法な薬に手を出した人を知っています。薬だけに依存してしまうのは危険です。薬以外で病気を治す養生や鍼治療などもっと広がると良いと思っているのですが。

 例えば足が攣るのに芍薬甘草湯は効果ありますが、長く服用すると血圧が上がるなどの副作用が出てきます。汗をかく時期になりましたので水分を補給することも必要ですが、自分で足をマッサージすることもお勧めします。朝起きていきなり足首を回そうとすると攣りそうになるので、足や下腿の筋肉をマッサージして足の指の間に手の指を入れて足の関節を動かしてやると足首がスムーズに動いて攣らなくなります。小学校の頃に教わった準備運動を毎日の生活に取り入れることで薬が必要なくなると考えます。他ならぬ自分の身体のことです。手間を惜しまず、大事にしてあげましょう。


2024年05月13日
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