後藤の部屋

No.73「春になりました」

 諸事に追われているうちに、あっという間に冬が過ぎ、春になりました。
朝の連続ドラマも、舞台が“サムイジゴク”の松江から熊本に移り、子どもも生まれて、これからの展開が楽しみです。

 冬の間は、冷えと乾燥が主な問題でした。
 これからしばらくは過ごしやすい季節になりますが、温暖化が止まる気配もなく、夏に向けては暑さと湿気が気になってきます。春は気持ちよい季節ですが、季節の変わり目は寒暖差が大きく、体調を崩しやすい時期でもあります。
 よく眠ること、適度に体を動かすこと、甘いものを食べ過ぎないこと、冷たいものでお腹を冷やさないことなど、日々の養生を心がけることが大切です。

 特に歳を重ねると、毎日の生活にあまり波風を立てないことが大事になってくるように思います。インド医学では「ディナチャリア」といいますが、健康的な生活習慣を毎日繰り返し、乱さないようにするという考え方です。

 日本にも長生きの秘訣として
「転ぶな、風邪をひくな、義理を欠け」
という言葉があります。
 この最後の「義理を欠け」とは、さまざまな付き合いに振り回されて、日常生活のリズムを乱さない方がよい、という意味でしょう。
 私も以前親孝行のつもりで旅行に連れて行こうかと提案したところ、
「もう見聞は広めんでよか」
と断られました。
 平凡に思える日常生活こそが一番よい、ということだったのだと思います。
 若い頃にはそのことがよくわからず、高齢の患者さんに無理なことを勧めてしまったこともあったのではないかと、今になって反省しています。

 さて、もう4年になりますが、北京で冬季オリンピックが閉幕した後、ロシアがウクライナに侵攻しました。
 その戦争の終わりも見えない中、ミラノなどでの次の冬季オリンピックが、閉幕したところ、今度はアメリカとイスラエルがイランを攻撃しました。
 ペルシャ湾は、日本にとって石油輸送の重要なルートです。備蓄は8か月分あるといわれていますが、戦争が長期化すればどうなるのか心配になります。
 ウクライナの戦争を逃れて日本に来た若者が、相撲の世界で横綱を目指しています。
 母国のことは何も語りませんが、きっとさまざまな思いがあるのだろうと考えながら、相撲中継を見ています。
 戦火が1日も早く治り、平和な世界が戻ってきますように。



2026年03月09日

No.73「幸せな人は長生きする」

 先日、外来にリハビリのため来院された年配の紳士がいらっしゃいました。健康状態を確認するために「何か病気はありませんか?」と尋ねると、「がんで治療中です。余命宣告を受けています」と落ち着いた口調で答えられました。さらに「終活をしないといけないのですが、最後まで元気でいたいのでリハビリをしています」と冷静に話されていました。

 余命宣告といえば、最近終了したNHKの朝ドラ「あんぱん」でも、最終回で主人公の朝田ノブががんで余命を告げられながら、奇跡的に5年も生きたという話がありました。なぜそんなに長く生きられたのか。それは「幸せだったから」ではないかと思います。

 私が子供の頃の話です。母は仕事をしていたため、私は明治生まれの祖母に育てられました。あるとき「おばあちゃん、どうして長生きする人と早く亡くなる人がいるの?」と聞いたことがあります。祖母はしばらく考えたあと、「庄屋さんの家は長生きだから、きっと楽な生活をしている人は長生きするんだろうね」と答えました。私は驚いて「え、そんな理由で長生きするの!」と声を上げたのを覚えています。それから私は、大好きな祖母が少しでも楽に長生きできるように、肩がこると言えば肩を揉み、脚が疲れたと言えば脚を揉んであげていました。祖母は私が大学を卒業するまで元気に生きていました。

 最近、学会で興味深い話を聞きました。「Happy people live longer(幸せな人は長生きする)」という研究結果があるそうです。たとえば、タバコを喫う人は寿命が約10年短くなり、運動習慣のある人は寿命が約3年長くなることは、よく知られています。今回の研究では、「自分は幸せだ」と感じている人は、なんと寿命が9年も長くなることが分かったのです。その話を聞いたとき、私は祖母を思い出しました。祖母は人生の経験から、「楽」と「幸せ」は違うけれど、長生きの本質をよく理解していたのだと、そしておそらく幸せに長生きしたのだろうと思いました。どうせ生きるなら――そしていつかは誰もが死ぬのなら――少しでも幸せに、そして長く生きたいものです。

 外来で余命を告げられながらもリハビリに励んでいるあの患者さんにも、「あんぱん」の主人公のように、日々の中で幸せを感じながら過ごしてほしいと願っています。


2025年10月22日

No.72「タクシーにて」

 外来の終わりに「後藤の部屋、読んでます。」と言われて「は、はあ、ありがとうございます。」と答えました。読んでもらっていると励みになります。

 猛暑が続き外を歩くのも危険なので最近駅からタクシーに乗っています。「松田整形外科までお願いします。」と伝えてしばらく走っていると、年配の運転手さんに「松田整形は腕いいのかね?」と聞かれました。これはチャンスです。ネットでの評価は当てになりませんが、リアルな口コミは重要です。「いい先生が多いみたいですよ。」と答えたら「俺、最近肩があがんなくてさ。やっぱ筋肉か神経だろうね。」と聞いてきたので「いや、肩なら関節が原因じゃないですか。」と気楽に答えていたら、「最近、手の先が痺れるんだよね。」「あ、それなら首からきているかもしれませんよ。受診して確認したほうがいいと思います。」痛くて上がらないのか、力が入らないのか聞こうと思ったところで玄関に到着しました。降りる時に「よかったら受診してください。」とお伝えしましたが、さてどうなりますか。

 「肩が上がらない」からいろいろな病気が思い浮かびます。五十肩が有名ですが、年齢関係なく肩が痛くて上がらない人はいます。最近人工知能(AI)の進歩が著しくて、なんでも聞けばほぼ適切に答えてくれます。試しにチャットGPTに「肩が上がらないのはなぜ?」と質問したら、私が言っていたのと同じような回答がありました。すごい時代になったものです。患者さんもAIを使っているのか、最初からレントゲンだけお願いしますと言われることも多くなりました。AIが医師にかかった方が良い場合を示してくれて、そこを確認するために来院されたものと思われます。

 時代の変化に合わせて仕事のやり方も変えていかねばなりませんが、AIが普及して患者さんが病気のことを勉強できるのはとても良いことです。アメリカでは医療費が高いせいか、患者さんがよく勉強していて、医学用語を使って堂々と治療法を医師と議論していました。これからはAIでより安全に、より納得の得られる医療が行われると期待しています。



2025年08月25日
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