先日、外来にリハビリのため来院された年配の紳士がいらっしゃいました。健康状態を確認するために「何か病気はありませんか?」と尋ねると、「がんで治療中です。余命宣告を受けています」と落ち着いた口調で答えられました。さらに「終活をしないといけないのですが、最後まで元気でいたいのでリハビリをしています」と冷静に話されていました。
余命宣告といえば、最近終了したNHKの朝ドラ「あんぱん」でも、最終回で主人公の朝田ノブががんで余命を告げられながら、奇跡的に5年も生きたという話がありました。なぜそんなに長く生きられたのか。それは「幸せだったから」ではないかと思います。
私が子供の頃の話です。母は仕事をしていたため、私は明治生まれの祖母に育てられました。あるとき「おばあちゃん、どうして長生きする人と早く亡くなる人がいるの?」と聞いたことがあります。祖母はしばらく考えたあと、「庄屋さんの家は長生きだから、きっと楽な生活をしている人は長生きするんだろうね」と答えました。私は驚いて「え、そんな理由で長生きするの!」と声を上げたのを覚えています。それから私は、大好きな祖母が少しでも楽に長生きできるように、肩がこると言えば肩を揉み、脚が疲れたと言えば脚を揉んであげていました。祖母は私が大学を卒業するまで元気に生きていました。
最近、学会で興味深い話を聞きました。「Happy people live longer(幸せな人は長生きする)」という研究結果があるそうです。たとえば、タバコを喫う人は寿命が約10年短くなり、運動習慣のある人は寿命が約3年長くなることは、よく知られています。今回の研究では、「自分は幸せだ」と感じている人は、なんと寿命が9年も長くなることが分かったのです。その話を聞いたとき、私は祖母を思い出しました。祖母は人生の経験から、「楽」と「幸せ」は違うけれど、長生きの本質をよく理解していたのだと、そしておそらく幸せに長生きしたのだろうと思いました。どうせ生きるなら――そしていつかは誰もが死ぬのなら――少しでも幸せに、そして長く生きたいものです。
外来で余命を告げられながらもリハビリに励んでいるあの患者さんにも、「あんぱん」の主人公のように、日々の中で幸せを感じながら過ごしてほしいと願っています。
後藤の部屋
No.72「タクシーにて」
外来の終わりに「後藤の部屋、読んでます。」と言われて「は、はあ、ありがとうございます。」と答えました。読んでもらっていると励みになります。
猛暑が続き外を歩くのも危険なので最近駅からタクシーに乗っています。「松田整形外科までお願いします。」と伝えてしばらく走っていると、年配の運転手さんに「松田整形は腕いいのかね?」と聞かれました。これはチャンスです。ネットでの評価は当てになりませんが、リアルな口コミは重要です。「いい先生が多いみたいですよ。」と答えたら「俺、最近肩があがんなくてさ。やっぱ筋肉か神経だろうね。」と聞いてきたので「いや、肩なら関節が原因じゃないですか。」と気楽に答えていたら、「最近、手の先が痺れるんだよね。」「あ、それなら首からきているかもしれませんよ。受診して確認したほうがいいと思います。」痛くて上がらないのか、力が入らないのか聞こうと思ったところで玄関に到着しました。降りる時に「よかったら受診してください。」とお伝えしましたが、さてどうなりますか。
「肩が上がらない」からいろいろな病気が思い浮かびます。五十肩が有名ですが、年齢関係なく肩が痛くて上がらない人はいます。最近人工知能(AI)の進歩が著しくて、なんでも聞けばほぼ適切に答えてくれます。試しにチャットGPTに「肩が上がらないのはなぜ?」と質問したら、私が言っていたのと同じような回答がありました。すごい時代になったものです。患者さんもAIを使っているのか、最初からレントゲンだけお願いしますと言われることも多くなりました。AIが医師にかかった方が良い場合を示してくれて、そこを確認するために来院されたものと思われます。
時代の変化に合わせて仕事のやり方も変えていかねばなりませんが、AIが普及して患者さんが病気のことを勉強できるのはとても良いことです。アメリカでは医療費が高いせいか、患者さんがよく勉強していて、医学用語を使って堂々と治療法を医師と議論していました。これからはAIでより安全に、より納得の得られる医療が行われると期待しています。
猛暑が続き外を歩くのも危険なので最近駅からタクシーに乗っています。「松田整形外科までお願いします。」と伝えてしばらく走っていると、年配の運転手さんに「松田整形は腕いいのかね?」と聞かれました。これはチャンスです。ネットでの評価は当てになりませんが、リアルな口コミは重要です。「いい先生が多いみたいですよ。」と答えたら「俺、最近肩があがんなくてさ。やっぱ筋肉か神経だろうね。」と聞いてきたので「いや、肩なら関節が原因じゃないですか。」と気楽に答えていたら、「最近、手の先が痺れるんだよね。」「あ、それなら首からきているかもしれませんよ。受診して確認したほうがいいと思います。」痛くて上がらないのか、力が入らないのか聞こうと思ったところで玄関に到着しました。降りる時に「よかったら受診してください。」とお伝えしましたが、さてどうなりますか。
「肩が上がらない」からいろいろな病気が思い浮かびます。五十肩が有名ですが、年齢関係なく肩が痛くて上がらない人はいます。最近人工知能(AI)の進歩が著しくて、なんでも聞けばほぼ適切に答えてくれます。試しにチャットGPTに「肩が上がらないのはなぜ?」と質問したら、私が言っていたのと同じような回答がありました。すごい時代になったものです。患者さんもAIを使っているのか、最初からレントゲンだけお願いしますと言われることも多くなりました。AIが医師にかかった方が良い場合を示してくれて、そこを確認するために来院されたものと思われます。
時代の変化に合わせて仕事のやり方も変えていかねばなりませんが、AIが普及して患者さんが病気のことを勉強できるのはとても良いことです。アメリカでは医療費が高いせいか、患者さんがよく勉強していて、医学用語を使って堂々と治療法を医師と議論していました。これからはAIでより安全に、より納得の得られる医療が行われると期待しています。
No.71「脚がつるは68でいいの?」
猛暑が続いていて、熱中症にならないように注意しないと危険です。汗をかくので脱水と電解質の乱れから、脚がつるという患者さんが多く来られます。脚がつるなら通常漢方の68番芍薬甘草湯でよく効くのですが、いつもそれでよいのかというお話です。
女性の方が「最近脚がつるんです。」と来院されました。最近電子カルテの入力にも手間取ることも多くなり時間つなぎで「どこがつるんですか?」と聞いたところ「ふくらはぎの前の方です。」と。それはおかしい。普通はふくらはぎがつります。「戻してもまたすぐつるんです。」これは何かつる原因が継続していることを示しています。「普通ではありませんので一応血液検査をしましょう。」と言って検査を指示しました。
脚がつるのは困るので、お薬として68番の芍薬甘草湯を出そうと考えました。「飲み続けると血圧が上がることがありますので、できるだけ飲まないでください。」と言ったところ「血圧は少し高めなので毎日記録をつけています。」とのこと。これは芍薬甘草湯を使ってはいけない病気があるかもしれないと考えました。電解質に異常があれば心電図に変化が出ますのでその場で脈を調べたところ不整脈はありませんでした。しっかり注意すれば芍薬甘草湯を飲んでもよいと判断して処方しました。
68番芍薬甘草湯を飲んではいけない病気は①アルドステロン症②ミオパチー③低カリウム血症です。いずれも検査しなければわからない病気ですが、診察である程度推測することはできます。
かえってきた検査結果を見てみるとカリウムの値が正常値以下なので低カリウム血症があることがわかりました。すぐに電話して漢方薬を飲まないことと、カリウムを多く含む食べ物(バナナなど)を食べるようにお伝えしました。他に原因があるかもしれないので再度受診をお願いしました。
通常は脚がつる=68芍薬甘草湯でよいのですが、よく効くだけに注意が必要なお薬であることは間違いありません。余ったお薬をお持ちの方もあるでしょうが、いつもと違うと思ったら必ず受診してください。
女性の方が「最近脚がつるんです。」と来院されました。最近電子カルテの入力にも手間取ることも多くなり時間つなぎで「どこがつるんですか?」と聞いたところ「ふくらはぎの前の方です。」と。それはおかしい。普通はふくらはぎがつります。「戻してもまたすぐつるんです。」これは何かつる原因が継続していることを示しています。「普通ではありませんので一応血液検査をしましょう。」と言って検査を指示しました。
脚がつるのは困るので、お薬として68番の芍薬甘草湯を出そうと考えました。「飲み続けると血圧が上がることがありますので、できるだけ飲まないでください。」と言ったところ「血圧は少し高めなので毎日記録をつけています。」とのこと。これは芍薬甘草湯を使ってはいけない病気があるかもしれないと考えました。電解質に異常があれば心電図に変化が出ますのでその場で脈を調べたところ不整脈はありませんでした。しっかり注意すれば芍薬甘草湯を飲んでもよいと判断して処方しました。
68番芍薬甘草湯を飲んではいけない病気は①アルドステロン症②ミオパチー③低カリウム血症です。いずれも検査しなければわからない病気ですが、診察である程度推測することはできます。
かえってきた検査結果を見てみるとカリウムの値が正常値以下なので低カリウム血症があることがわかりました。すぐに電話して漢方薬を飲まないことと、カリウムを多く含む食べ物(バナナなど)を食べるようにお伝えしました。他に原因があるかもしれないので再度受診をお願いしました。
通常は脚がつる=68芍薬甘草湯でよいのですが、よく効くだけに注意が必要なお薬であることは間違いありません。余ったお薬をお持ちの方もあるでしょうが、いつもと違うと思ったら必ず受診してください。