後藤の部屋

老年医学編「ひまでひまで」

 整形外科の外来に80すぎの高齢者が膝の痛みで来られました。診察でもレントゲンでも異常はなくお年にしては驚くほど立派な筋肉です。
 「痛みの原因に心当たりは?」「前の日に少し歩きすぎたかな。」
 「どのくらい?」「4万歩かな。」
 「4万歩!旅行にでも行ったのですか?」「いや、近所だよ。毎日1万歩以上、歩いている。」
 「おそらく歩きすぎでしょう。」「俺もそう思う。」
 「休めば良くなるのでは?」「いやぁ。ひまでひまで。」

 厚生労働省は高齢者に毎日6千歩の運動を推奨しています。体力のある人には若い人同様に8千歩歩くことでさらに健康増進効果があるとも。やりすぎがどのくらいかはまだわからないとのことですが、痛みが出るほど歩くのは控えた方が良いでしょう。

 高齢になると仕事から解放されるので、時間が余るようになります。亡くなった私の母も「しのぎができない。」と嘆いていました。ひまな時間を耐え忍ぶのが難しいということのようです。個人差はありますが、目は見えにくく、耳はきこえにくくなり、楽しみが遠のきます。友達も少なくなり、使えるお金も節約せねばならず、社会とのつながりも減ってきます。落語の世界ではご隠居さんとして、若い人の相談役になるのでしょうが、生き方が全く違ってくるとそれも難しく、へたすると老害と言われかねません。アメリカにいた時に「引退した老人は世界一周旅行をしたら、家の窓辺に座って通りを歩く人を眺めながらお茶を飲んで過ごすものだ。」と聞いたことがありますが、そのあたりに答えがあるのかもしれません。高齢になってみないとわからないことは多いので、年配の方とお話しするのは本当に勉強になります。



2024年06月17日

No.58 お薬いりますか?

 気温差が大きい日が続いています。体調を整えるのが大変でしょうが、衣服を調整し、適度に運動して、何より日常生活で養生を心がけてこの時期を過ごしましょう。

 先日後輩の心臓外科専門医と話していました。「後藤さん、血圧は大丈夫ですか?」「寒いと血圧上がって薬飲むこともあるけど基本飲まなくても大丈夫だよ。」「薬飲んでおいた方がいいですよ。血圧と脳梗塞の頻度は比例しますから。」「そうかもしれないけど、薬飲まなくていいなら飲まない方がいいんじゃない。」「脳梗塞になったら大変ですよ。しもの世話もやってもらわなくちゃいけない。脳梗塞だけは絶対なりたくないから薬は飲んだ方がいいですね。」見解の相違でしょうが、どう生きるかもどう死ぬかも本人の選択です。他に病気がないか、家族はどうだったか危険度を評価して、薬が必要なら飲みますが、そうでないなら普段の生活でやるべきことをやって、わずかのリスクは覚悟して生きていくことにしています。

 以前は患者さんが求めれば薬は出すものだと思っていましたが、最近はそうではないと思うようになりました。薬が絶対必要であればお勧めしますが、そうでなければ他の方法を試してはと提案しています。痛みがあるからと痛み止めをもらって、もっと強い薬でないと効かないとどんどん違う薬を飲んで最終的には病院で出る薬では効かないからと非合法な薬に手を出した人を知っています。薬だけに依存してしまうのは危険です。薬以外で病気を治す養生や鍼治療などもっと広がると良いと思っているのですが。

 例えば足が攣るのに芍薬甘草湯は効果ありますが、長く服用すると血圧が上がるなどの副作用が出てきます。汗をかく時期になりましたので水分を補給することも必要ですが、自分で足をマッサージすることもお勧めします。朝起きていきなり足首を回そうとすると攣りそうになるので、足や下腿の筋肉をマッサージして足の指の間に手の指を入れて足の関節を動かしてやると足首がスムーズに動いて攣らなくなります。小学校の頃に教わった準備運動を毎日の生活に取り入れることで薬が必要なくなると考えます。他ならぬ自分の身体のことです。手間を惜しまず、大事にしてあげましょう。


2024年05月13日

東洋医学編「便秘にはヨガが効く」

 ウクライナもガザも悲惨な状況が続いています。見たくも聞きたくもないという人も多いようですので1日も早く平和が訪れることを願いつつ、読者のみなさんの健康に役立つ情報を提供したいと思います。今回はヨガの効用についてです。

 便秘と鼻詰まりにはヨガが効くと言う話はよく聞きます。「気持ちよく便を出すことは人生最高の幸せである。」これは同級生で外科の教授になったH君の言葉ですが、便秘は苦しいものです。薬もありますが、次第に効かなくなることも多いので、運動を心がけたり水をたくさん摂るなどそれぞれ工夫されています。その工夫の一つにヨガを加えてはという話です。ヨガは大変でしょう、特に高齢者は身体が硬いし、と思われがちですが、ヨガのポーズの中でも特に便秘に効くポーズがあり、難しく無いので一度試してはいかがでしょうか。
 インド医学であるアーユルベーダは、理論が非常に高度で説明が難しいのですが、ものすごく端折って言うと、人間の体の中には風があって、その中でお腹の排泄をつかさどる風を強くすると便秘が改善するというものです。理屈はともかく自分で試して効果があったので体質が合う人には効果あると思います。効果がなかったら残念ですが、お金はかかりませんし、特に害もありません。
 便秘に効くのはヨガの月のポーズで、まっすぐ立った状態から両手を上げて掌を合わせバナナのように全体を横にカーブさせます。片方の体側を呼吸して伸ばす感じです。ポーズはそのようになりますが、少し捻ってみるのも良いようです。自分で効果があると思ったのは便が出にくいと思った時に便座に座っていて月のポーズを試してみようと思い立ち、いろいろ努力したらうまく出すことができました。狭いトイレの中でああでもない、こうでもないとやったので長く時間がかかり同居人にはご迷惑だったかも知れせんが、浣腸する手間を考えれば安いものです。何かの参考になれば幸いです。

 ヨガは長い歴史を持つ健康法ですし、インドでは120歳まで長生きできると考えられているので、高齢者の増える日本で役立てることがあるのではと思っています。





2024年03月06日
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