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白い古書、ぞっき本も、時を経て読むと面白いものです。

今月の一冊は、これ!


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 たぬき小路 南二条と南三条との間にあって、又鈴蘭街と言ふ。立並ぶ両側の商店には殆どありとあらゆる商品が網羅され之と軒まじへて映画館ありカフエーあり料理店あり。道幅は僅か六間に過ぎぬが敷きつめたアスフアルトの鋪道に群れる人は四季を通じて織るやうである。殊に夏は乳白色の鈴蘭形の街燈が明るく輝やき出す頃から三々五々袂を連ねて此処に吸はれゆく人波は夜が深くなつてもなかなか消え去らない。……。 (河野 久子)



 日本地理大系第十巻
       
北海道・樺太篇  

編集代表者・山本 三生
改造社刊(1930年2月20日発行)

 購入年月日は定かではありませんが、デパートの古書展で買ったものです。元来、地理学などに微塵も興味のなかった私ですが、この一冊だけがバラで売られていて、「北海道・樺太篇」の文字につられて手にしたのでした。樺太は私が満一歳まで住んでいた所ですが、ほとんど記憶は無く、両親の話を聞いても全くイメージできない場所でしたから、「樺太はどんな所だったのか」の思いで手にしたのだと思います。大判の本(26.5×19×3.5センチ)で500ページほど。九割がたが写真と図版です。
 巻頭に北海道・樺太地方地図と四頁大の狩勝峠展望の写真が折り込みで入っているのを見て、即買うことにしました。何もする気がせずごろごろしている休日など、日がな一日この本を眺めていると、昭和の初めにタイムスリップして、のんびりできるのでした。

 函館方面、室蘭地方、小樽方面、札幌方面、旭川方面、留萌・稚内方面、宗谷・網走方面、帯広・釧路・根室方面、千島地方、樺太南部方面、樺太中部方面、樺太北部方面と地方別に掲載された写真から、大正末−昭和初期の豊富な人文地理情報を読み取ることができます。写真解説者は帝大教授など錚々たるメンバーで、中に巌谷小波、河東碧梧桐、土岐善麿、三宅やす子、丸山晩霞らの名も見えます。

 「日本地理大系」の巻立ては次の通り。第1・2巻 総論篇 自然地理・人文地理、第3巻 大東京篇、第4巻 関東篇、第5巻 奥羽篇、第6巻 中部篇 上,下巻、第7巻 近畿篇、第8巻 中国及四国篇、第9巻 九州篇、第10巻 北海道・樺太篇、第11巻 台湾篇、第12巻 朝鮮篇。別巻 第1 山岳篇、第2 満洲及南洋篇、第3・4 海外発展地篇 上,下巻、第5 富士山。

 刊行順は未調査で分かりませんが、第10巻添付の月報が「第三号」となっており、月報内容から前回配本は第4巻関東篇、次回が第3巻大東京篇であることが分かります。また、毎月1巻の配本とありますので、初回配本は昭和4年12月だったと思われます。

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