石の森 第 113 号  10 ページ   /2003.1

 いくらか前の日常

四方 彩瑛


高い木に近付くなと言われた頃
狐の面を被った少年によく会った
――高い所は駄目よ、連れていかれるから
規則正しい鼓のような足音は
いつも、通り過ぎるのだけど
その日だけは
休止符みたいにヒタリと止まり
隣に居た弟を
赤ちゃんみたいにだっこして
そのまま
足音は遠のいていった
私でも良かったのに


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