からす空
枕草子の「春はあけぼの」に
こんな一節がある
「烏の寝どころへ行くとて、
三つ四つ、二つ三つなど、
飛び急ぐさへあはれなり。」
松崎の夕空に
黒羽をまとった何百もの烏らが
寝どころにはたどり着けずに
電線にちょこんと休んでいる
その烏らの重さに
電線はひどく垂れ下がって
巨人の首飾りのようになっている
真下の道には
真上の黒とは対照して
無数の白い糞で汚れていた
翼を持っても、それは
自由を手に入れたわけではない
翼を休める地上に居場所がなければ
寝どころなどたどり着けはしない
昔々の風情ある景色も
今の烏らに作り出すことはできない
烏らが真冬の寒さに
電線の上で危なっかしい
おしくらまんじゅうをしている
風情に欠けた夕空に
夕日のだいだい色だけが
無数の黒い影をいっそう深く映し出す
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