石の森 第 126 号   ページ   /2005.3

 望み

石 晴香


私は笑うことしかできない
動く手足を十分に使って
たくさんの人の重みを感じる
何十年とつちかった人の重み
カルテに簡単に書かれた今までの経過や
家族構成
戻れない彼や彼女自身のこれからを考える
重さは重みに変わる
体半分の機能を失った人
宇宙人のような言葉しか話せない人
日常の当たり前のことを理解できない人
「脳梗塞」「脳出血」
病名にはそう書かれるけれど
一般の人が失われた機能を理解するのは
難しい
車椅子からベッドへ行けるようになった
歯みがきが一人でできるようになった
トイレへ行けるようになった
それだけの人で涙を流す人たち

私は笑って
一つ一つのことに対してほめていくことしか
できない

彼や彼女らは気付かない
これからここを出るとやってくる
たくさんの波を 風を


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