石の森 第 126 号   ページ   /2005.3

 戀

夏山 直美


恋って
糸電話のようだと
気がついた朝
言の葉をふるわせ
伝えるものを探した

木綿の糸には
さり気ないあいさつを
絹糸には
つま先立ちした修飾語
ポリエステルの糸には
長いおとぎ話しが
よく似あう

どんな言葉を使っても
糸は正しくその音を
伝えてくれるけど
心の中の振り子は
違う振動で揺れ動く

こんなにもあなたが好きでも
こんな心があなたの重荷になる
恋すれば
すべて許せると
許してもらえると
信じていたキューピットは
羽根の中から
ハサミをとり出して
糸を切ることがある

携帯電話の電波が
地球を抱きしめる
時代になっても
恋人たちは
赤い糸の神話にぶらさがり
糸をふるわせ
胸をふるわせる
言葉を紡いでいる


 次へ↓ ・ 前へ↑