趣味で行う根付彫刻
根付に興味を持った人の中には、根付蒐集に飽きたらず根付製作にまで進まれる方もいらっしゃるようです。
私の根付コレクションの中にも趣味で根付を作られている方々の作品が含まれています。
現代根付師の中には、カルチャーセンターなどで根付彫刻の講座を開設し、製作実技を教えて下さる方もいらっしゃいます。本格的な根付製作をお考えの方は、そのような機会を有効活用する手があります。
独学での根付製作も不可能ではありません。が、カルチャーセンター等を通じて先人の技術を参考にした方が、効率よく根付彫刻の技を身につけることができる場合もあります。例えば、根付彫刻の材料(黄楊材、牙材)や特殊な彫刻刀の入手、染めのための夜叉五倍子液の調合など、彫刻技術を習得する以前の問題として、一人では解決できない課題が多いようです。また、一部の根付師が用いたと言われるお歯黒染めについては、お歯黒の生産が何十年も前にストップされている現在では、実現不可能です。製法を調べて、自家製のお歯黒を時間をかけて調合するしかありません。
一方、彫刻のための電動ルーターやヤスリ類、万力などは、ホームセンターなどを探せば手頃な道具を手に入れることができるようです。また、根付に取り付ける専用の組み紐(印籠紐)も、今ではインターネットを通じて簡単に手に入れることができます。京都には伊藤組紐店という老舗店があり、美しい絹糸で作られた印籠専用の柔らかい印籠紐が売られています。常時10色程度の紐が用意されており、切り売りもしてくれます。
根付の材料や彫刻刀は、東急ハンズでも売っていました。左刀の彫刻刀2本、象牙の破材、ヤスリ、紙ヤスリ、とくさ(砥草)、仕上げワックスが入っています。ただし、これはあくまでも根付彫刻の雰囲気を味わうためのものですので、これだけの道具で一つの根付を製作しきることは、困難です。本格的に彫刻を行うためには、しっかりとした彫刻刀を入手する必要があります。
私が現代根付作家の駒田柳之先生の教室に通ったときの報告はこちらです。
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象牙彫刻セット
(東急ハンズ池袋店 ¥2800(当時)) |
根付の価格は、他の美術品と同様、千差万別です。数千円で購入できる根付もありますし、数千万円で取引されるトップクラスの根付もあります。
江戸時代において、単純な実用根付の価格は、現代のケータイストラップのアクセサリーと同じ価格(例えば、500円〜1500円)であったと思われます。一方、美術品として希少価値があるものは、購買力を有した大名や有力商人のみが手に入れることができる程度に、当時から非常に高価なものでした。
例えば、丹波の豊昌根付を例に取ると、豊昌根付1体の価格は、金貨に換算すると1両1分が通例になっていたといいます。また、藩主からの特注品の場合は、代金は約5両だったとの記録もあります。当時の下級武士年俸が約3両1分であったことに比較すれば、庶民には手の届かない高価な品物であったことが分かります。 (「目の眼」No.212(1994.6)の記事『内藤豊昌と丹波の根付師たち』(渡辺正憲)より) 下級武士の年棒を現在の平均年収に換算すると、3両1分はだいたい500万円くらいの価値でしょうか。ということは、藩主向けは一作品約800万円ということになります。江戸時代では本当に高級品であったことが分かります。
当時の根付の価格は、材料費、根付師の加工費や一門を養う人件費などの積算により価格が形成されていました。象牙やウニコールといった高価な材料を使用した根付は当然、高額商品でした。また、売れっ子の有名根付師の根付は、その根付師の生前においても既に偽物が出回るほど、相当のプレミアが付いて販売されていたものと思われます。
一方、根付は日用品として用いられていたため、一般庶民が使用するための数物(かずもの)と称する大量生産品も安価に製作されていました。おそらく、根付を分業で製作するための下職がおり、根付問屋があったことだろうと推測されます。
現在の価格
現在の価格は、江戸自体とは異なり、美術品としての完成度と希少性、保存状態、コレクターの蒐集の競争状態で価格が形成されています。象牙を使用した並の彫りであって、保存状態の良い根付であれば、数千円から数万円程度で簡単に手に入ります。一方、江戸時代でもプレミアが付いていた有名根付師の根付は、現在でも相当高額な価格が形成されています。
具体的には、上田令吉の著書「根附の研究」に掲載されているクラスの根付師の在銘根付であって、状態の良い物であれば、10万円〜数十万円で取り引きされています。さらに、友忠や岡友といった200年以上前のトップスターの根付であって、真贋に疑いがなく、保存状態の良い物は、最低100万円以上で取り引きされています。
さらに、トップスター根付師でも、とりわけ彫りが素晴らしく意匠に希少性のある根付は、数年前までは、数百万円、数千万円といった最高価格が海外オークションで記録され続けました。その金額と同等の価値を、十分、根付に託せるコレクターが世界に存在するわけです。驚くべきことに、真贋に相当の疑いのある友忠の根付であっても、彫りが手の込んだものであるならば、数十万クラスで取り引きされています。
時代や地域によって、蒐集される人気の根付のタイプは異なります。外国人が根付に興味を持ちだした明治時代から昭和期初期にかけては、三輪の木刻や18世紀以前の仙人やオランダ人などの大型の立ち根付が好まれ、価格が高騰しました。現在の三輪人気はそれほどでもありません。また、日本人の一部は藻スクールの根付が好きなようで、海外オークションで高額で競り落としていた時期もありました。藻スクールは海外では日本ほどには人気はありません。京都の正直や友忠は一貫して最初から人気を集めており、岡友に代表される動物根付はオークションではいつも高値となります。仙人や人物、難しい日本の伝記物を題材とした根付よりも、愛くるしい動物ものに人気が集まるのは理解できます。
オークションの最高価格は4千万円
これまでのオークションの最高額は約4,000万円($260,000)です。有名なオークションハウスのSotheby's Londonで1990年5月に友忠の馬根付で記録されました。下の写真のとおり、実物は誰もが納得する素晴らしい根付です。わずか数十グラムの物体が、マンション一軒分の価値に相当するわけです。
この価格はオークションでの記録ですが、アンティークディーラーのギャラリーでのセールでも高額の根付が出現しました。例えば、根付取引史上の最高額といわれている「海女と烏賊」(無銘、象牙、10.5cm)の根付は、1983年にハワイのOriental
Treasures and Points West(ディーラー)で$250,000(当時のレートで約6,250万円)で取引されました。また、その前年の1982年には、同じディーラーが京都・正直の麒麟を約5,000万円、京都・友忠の親子鹿を約3,100万円で売り出しました。また、もしかしたら、個人間の相対取引の中では、更に高い値段で取り引きされたこともあったかもしれません。
しかし現在では、1980年代のようなハワイやロンドンを中心とした根付ブームは沈静化しており、投機的な側面を持ちながら、うなぎ登りに価格が急上昇するといった現象はなくなりつつあります。これは、良い根付は既にコレクターや美術館など納まるところに納まってしまい、市場に出回ってこないことが原因かもしれません。一度、美術館に収蔵されたものは半永久的に放出されません。また、根付全体としても市場に出回る数は年々少なくなりつつあります。根付を取り扱う古美術商に話を聞いても一様に同じ感想を持っています。よって、根付全体では、現在の価格レベルと同じか、またはそれ以上で推移していくと予想されています。
ところで、他の骨董・美術品との比較において、根付の価格が適正水準であるかどうかについても議論があります。焼物や浮世絵、書画の場合は、数十万円、数百万円、数千万円といったクラスで価格帯が形成されています。それらと比較すると、根付の価格帯は、一桁少ない価格で取り引きされているようです。100万円で買える骨董の焼物は、焼物全体の体系から言えば、たかが知れています。しかし、同じ100万円ならば、状態のよいトップクラスの有名根付師の本歌の根付が購入できます。このような視点で、根付は割安、という見方が一部にはあります。
歴代のオークション高額落札(第1位〜第5位)
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1位 友忠の馬
落札価格 $260,000
(3,900万円)
1990年5月にロンドンで記録 |
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2位 牙虫の貘
落札価格 $179,000
(2,700万円)
1987年6月にロンドンで記録 |
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3位 懐玉斎の鶴
落札価格 $188,000
(2,800万円)
1991年3月にロンドンで記録 |
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4位 龍珪の南国人
落札価格 $174,000
(2600万円) |
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5位 京都正直の親子猪
落札価格 $158,000
(2,400万円)
1990年5月にロンドンで記録 |
出典:1991年9月 Netsuke Kenkyukai Society ConventionのSotheby'sの広告等
※1990年当時の対ドル為替レート(1$=150円)で換算した。順位はイギリスポンドの価格順とした。
友忠の記録は、「ロンドン骨董街の人びと」(六嶋由岐子、新潮文庫)でも言及されている。
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1982年にハワイのOriental Treasures and Points Westが売り出した高額根付。
京都・正直の麒麟(左)は$200,000(当時のレートで約5,000万円)、京都・友忠の親子鹿(右)は
$125,000(約3,100万円)が売り出し価格だった。
(出典:INCS Journal Vol.10, No.1, 1982) |
根付は国際価格に左右
国内の根付の価格は、海外での取引価格に大きく左右されています。例えば、日本の焼物や茶道具のように、閉鎖的な国内市場だけで異常な価格が形成されることはありません。広い世界市場の中で、世界の数多くの眼で評価されたグローバルなスタンダード価格が形成されています。そのため、国内であってもきちんとした根付専門店での価格は、ある意味安心感があります。
根付の価格が国際価格で決まることは、やむを得ない面があります。実は、日本人全体の根付コレクターの人口よりも米国のコレクター人口の方がはるかに多いのです。これにヨーロッパ等の国々を加えると、日本人のコレクターは価格の決定に影響力を持ち得ません。人口だけでなく根付を主に取り扱う専門店の数で比較しても同じです。日本にはわずか2〜3店の専門店しかありませんが、海外では15店以上あります。
ただし価格には”内外差”もあります。外国人は、18世紀の古く、表情豊かで派手な根付を好む傾向があります。京都スクールによる馬や犬などの動物ものの根付が好まれるとも言われます。豊昌や京都・正直のように、外国人に大変愛好される根付師もいます。一方、日本人が好む藻スクール等の明治期の根付師は、外国ではさほど人気がありません。そんな好みの違いが、求められる根付の違いとなり、国内外の価格も微妙に異なってくるようです。
今後の根付の価格はどうなるのでしょうか。根付の収集家であれば誰もが気になることですが、正確な予測をするのは難しいです。根付のブームは過去に何度かあり、最近のブームは1980年代に外国(特にアメリカ)で起こりました。ハワイ等を拠点とする根付ディーラーが、質の高いスーパースターの根付を掲載した豪華なカタログを出版し、高額な価格で売りさばいていた時代がありました。続いて1990年代には有名コレクターが集めた根付の遺品が、サザビーズやクリスティーズといったオークションハウスで売りさばかれ、高値を呼びました。その時代は、ちょうど日本のバブルの絶頂期でしたから、日本人も高値で応札し、里帰りを果たした根付も多数ありました。
現在の価格は、概して、当時のブームで形成された以上の価格レベルがそのまま維持されているようです。今後の傾向としては、1980年代〜90年代と比較して、オークションハウスやディーラーで取り扱われる根付の絶対数は、確実に減少していると言えます。また、根付を専門的に取り扱う国内外のディーラの数自体も減少してきています。つまり、根付全体の流通量は先細りで、既に良い根付はしかるべき収集家や博物館のコレクションに納まってしまっている状況がわかります。このような状況のなかでは、もともと数に限りのある骨董品としての根付ですから、今後極端に価格が下がることはないと思われます。有名カタログに掲載されるハイクラスの根付は、今後もそれなりの評価を受けるとともに、流通がないため、逆に値段がつかない状態になる可能性があります。また、10万円〜数十万円といった中堅クラスの根付も、今後、評価が定まってくるにつれ、次第に適正な価格で評価されると思われます。
現代根付の価格
現代根付の新作は、数十万円(30万円〜70万円)程度で販売されているようです。現代人の平均的な月収と月々の製作ペースが1個〜2個であることを考慮すると、この水準の価格になるのだと思われます。ただし、アクセサリーのような簡単な根付であれば、もっと手ごろな価格で販売されているようです。
現代根付は、まとまった数の新作根付が頒布会という形で販売されることがあります。『月刊美術』(サン・アート発行)の平成14年11月号にも新作62選の全点頒布の紹介が掲載されています。新作根付に興味がある方は、そういった機会を活用すると良いでしょう。
現代根付の場合は、自分の好みを注文できる場合があります。現代根付師と知り合う機会があれば、”自分の干支にちなんだこういった作品を彫って欲しい。”といった注文をすることができる場合があります。好きな根付師に自分の好みの意匠を彫ってもらうことこそ、江戸・明治時代の最高の贅沢でした。世界に一つしかないものを手に入れることができます。なお、根付師によっては、得手不得手とするものがあるため、何でも注文できるわけではありません。現代根付師と知り合う機会がない場合は、根付専門店等に問い合わせてみることも一つの手です。
一方、現代根付に関して残念なことは、コレクターが将来、手放して処分することは、非常に困難だという点が挙げられます。例えば、50万円で購入した根付であっても、業者に引き取ってもらうときの価格は十分の一以下でしょう。それも、幸運にも業者が引き取ってくれる場合に限ってです。ほとんどの根付専門店は、現代根付の引き取りはしないのが現実です。現代根付は売れないからです。外国でも現代根付の評価は古根付と比較して低く、一部の外国人及び外国ディーラーが積極的に現代根付を推奨していた時代もありましたが、やはり交換市場が成り立たないことから、あまり人気がありません。
理由は、古根付と比較して、現代根付師の評価が定まっていないことが挙げられます。有名な中村雅俊氏は現在でも一定の評価が与えられていますが、それ以外の根付師はたとえ有名であっても、市場での交換価格は古根付ほどには高くならないようです。市場価格が安いことから、サザビーズやクリスティーズでも、現代根付は全くと言っても良いほど取り扱いません。もし現代根付で50万円を支払う余裕があれば、格段に質の良い古根付が手に入ります。市場での評価の定まらない(つまり処分できない)根付を買うよりも、一定の評価が確立している古根付を手に入れる方に安心感がある、という考え方の人もいます。
街の骨董屋や各種骨董市、インターネットオークション、根付専門店、サザビーズやクリスティーズといったオークションハウスで入手できます。
初めて根付を購入される方は、良心的な根付専門店に一度足を運ばれるか、または、根付の専門書やカタログで本物の根付を見られることを強くお勧めします。根付展示がある美術館で根付をご覧になられることも良い方法です。特に、材質(特に象牙材)と銘の真贋は、初心者にはわかりにくく、騙されやすい状況となっています。
根付を取り扱う専門店と呼ばれるところは、日本では片手で数えられる程度に数が少ないですが、信頼の置ける良心的な店がほとんどです。なかには、”初めての方は半年ほどよく考えられてから購入をご検討下さい。”と親切にアドバイスしてくれる、根付解題研究の第一人者が居る店もあります。そのような店を探しましょう。
最も手軽な入手場所は、インターネットオークションのヤフーです。オークションに参加して入札・出品するためには登録が必要です。良質の根付が出品されることもありますが、出品のうち99%がキャラクター・アクセサリーや偽物根付です。ヤフーオークションは、偽物根付の壮大な展示場です。気を付けてください。
骨董の真贋偽物にまつわる本としてお奨めできるものは次の通りです。根付の売買も骨董売買という範疇を免れません。魑魅魍魎の世界を正確に理解した中で、ご自分にご縁のある素敵な一品を見つけだしてあげてください。
『骨董買いウラ話』 光り芸出版編集部、昭和57年5月
『骨董偽物雑学ノート(七たび問うて書画を疑え)』 佐々木三昧著 1995年11月 ダイヤモンド社
『文福茶釜』 黒川博行著 2002年5月 文藝春秋
それでは実際に根付を見てみましょう。
根付は、二次元の絵画とは異なり立体的な彫刻であるため、六面のどこからでも楽しむことができます。これは他の大型彫刻とは大きく異なる点で、仏像や置物は底面には彫刻は施しません。根付は、ケータイストラップと同じように、他人の視線にさらされることを十分意識して用いられる装身具です。よって、紐を通して帯からぶら下げたときに、六面のどの面が向いても良いように彫刻されています。
根付は実用的であるように、紐通しの穴の位置や形状にも工夫が凝らされました。 また、手持ちぶさたの時には、持主は、おそらく、煙管をふかしながら掌(てのひら)に転がして楽しんでいたものと思われます。触って、転がして、撫でたときの”手触り”の官能も、根付の楽しみ方のひとつと言えます。
正一の玉獅子
下の写真は、江戸時代末期から明治初期に活躍したの正一(まさかず)(1839-1891年)という根付師が製作した獅子根付です。写真では大きな彫刻に見えますが、実物の高さはわずか
3.4cmです。この根付を例に取り、根付の鑑賞のポイントをおさえてみます。
正一は、根付師の正利の弟で、名古屋で生まれましたが、後に大阪に出て黄楊や象牙の根付を作りました。上田令吉の著書によると、正一は澤木萬次郎と称し、奇峰堂又は奇峰齋と号していたようです。神仙、人物、獣、虫、仮面の根付を作っていたようです。明治維新後は実用根付の需要が減退したために、主に観賞用や貿易用として、人物や獣などの根付を作製していました。
正一の作品であることは、写真4の「銘」で判別できます。銘は、根付の底面や裏側に彫られていることが多いです。
根付には偽物の銘が沢山あります。最初から他人の作風を真似して他人の銘を勝手に入れる者。全然関係のない既製の根付に、有名な根付師の銘を真似て入れてしまう者などです。美術品として売り出すためには、有名な根付師の作とする方が高額で売れるからだと思われます。
こうした真贋については、鑑賞しながら、彫りの勢いや凄み、意匠の独自性、バランス、彫刻技術、材質とその古さ(時代性)などの視点から、真贋を総合的に判断します。彫りの勢いや凄みは、様々なな良い根付の実例を勉強しながら、自分の感性を踏まえて判断します。例えば「獅子」は、根付の題材としては最もポピュラーですが、根付師の技量が最も試される、彫刻には難しい題材です。獅子の起源は古代オリエント、インドにあるといわれ、中国では寺院や陵墓の前に像を守護として置く習俗があります。天に向かって咆吼している構図を取り、神様と宝珠(玉)の守護として、魔物を排除する姿を表現しなければなりません。
この根付を更に子細に観察してみると、次のようなポイントがよくできていると発見することができます。
・咆吼する凄みのある表情、強調された唇の輪郭、バランスのとれた全体の構図(写真1・2)
・起伏があり力強い巻毛(写真3)
・宝珠(玉)を支える三点の手足の絶妙な配置(写真1)
・左手足と玉で巧みに構成された紐通し穴(写真4上部)
・象眼された両目(写真2・6)
・秘伝の方法により口の中に封入されて動く、丸い遊び玉(写真2)
・爪先や牙の緻密な彫り(写真5・6)
・手を抜かずにきちんと彫られた底面、確信を持って彫り入れられた銘(写真4)
・綺麗な飴色に変色している象牙(写真3・4)
・良好な保存状態(写真3・4)
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