圜銭(かんせん)、古圓法(こえんぽう)


  戦国中晩期に円形の貨幣(圜銭、従来より古圓法と呼ばれています)が登場します。
  玉壁から変化したもので、主に「周」、「秦」、「趙」、「魏」、「燕」、「斉」などで作られ流通しました。

   玉壁:円形(ドーナツ状)の玉で、肉(穿孔の縁から外郭に至る間の部分)と好(穿孔)の比が2:1のもの
      (古来より商品交換の媒介物として用いられた。)

  圜銭には、円孔(中心部が丸)と方孔(中心部が角穴)があり、中心部の孔の周囲や外周部に縁が設けられる圜銭
 もあります。
  一般に圜銭の面は鋳造地や秤量単位等を鋳出されており、背は平坦になっています。

  圜銭は当時、政治、経済が他の国より進んでいた「魏」にて最初に作られました。
  「魏」の圜銭は「垣」、「共」(垣、共は地名)の字を鋳出したものが最初に作られ、後に鋳造地と秤量単位「釿」
 を鋳出したものが作られました。また、全て円孔の圜銭です。
  圜銭は携帯に便利であり、大きさも適当だった事から、他の各国にも普及、使用されていきます。
  「趙」「周」で作られた圜銭の面文は、鋳造地のみ鋳出され、円孔の圜銭となっています。
  「秦」で作られた圜銭は、鋳造地は鋳出せず、秤量単位「朱」「両」を鋳出し、円孔より逐次方孔に変化して
 いきました。
  戦国末期になると「秦」の影響力が大きくなり、刀幣流通地域の「斉」「燕」でも圜銭を作る様になります。
  「斉」「燕」の圜銭は共に方孔の圜銭です。

分類

貨幣名称

特徴

鋳造年代

鋳造した国、流通地域

円孔円銭

垣字銭
共字銭

 中心部の穴は丸穴。
 面には地名、秤量単位を鋳出。

 戦国中晩期

魏、秦、趙、周 等

方孔円銭

えき六化
(旧称・寶六化)
えき四化
(旧称・寶四化)
えき
(旧称・寶化)
両畄(※2)
明化(明匕)
一化(一匕)

 中心部の穴は角穴。
 面には秤量単位等を鋳出。
 穴の周囲あるいは外周部に縁がある物も存在する。

 戦国中晩期〜末期

魏、秦、燕、斉 他

(※1)

  従来は「」字とされていますが、「えき(えき、貝+益)」字が正しい解釈の様です。
  従来の呼称を、旧称として表記しておきます。

(※2)

 =巛+田(下記)

し

東周銭(面)

東周銭(背)

西周銭(面)

西周銭(背)

面(表)

背(裏)

面(表)

背(裏)

円孔円銭(東周銭)「周」

円孔円銭(西周銭)「周」

共字銭(普通品、面)

共字銭(背、普通品)

共字銭(大様、面)

共字銭(大様、背)

面(表)

背(裏)

面(表)

背(裏)

普通品

大様

円孔円銭(共字銭)「魏」

垣字銭(大字、面)

垣字銭(大字、背)

垣字銭(中字、面)

垣字銭(中字、背)

面(表)

背(裏)

面(表)

背(裏)

垣字銭、大字

垣字銭、中字

円孔円銭(垣字銭)「魏」

垣字銭(小字、面)

垣字銭(小字、背)

垣字銭(伝形、面)

垣字銭(伝形、背)

面(表)

背(裏)

面(表)

背(裏)

垣字銭、小字

垣字銭、伝形

円孔円銭(垣字銭)「魏」

漆垣一釿(面)

漆垣一釿(背)

襄陰、小様(面)

襄陰、小様(背)

面(表)

背(裏)

面(表)

背(裏)

漆垣一釿

襄陰、小様

円孔円銭(漆垣一釿)「魏」

円孔円銭(襄陰、小様)「魏」

えき六化(面)

えき六化(背)

えき四化(面)

えき四化(背)

面(表)

背(裏)

面(表)

背(裏)

方孔円銭(えき六化、旧称・寶六化)「斉」

方孔円銭(えき四化、旧称・寶四化)「斉」

えき化(面)

えき化(背)

面(表)

背(裏)

方孔円銭(えき化、旧称・寶化)「斉」
俗称:草鞋虫

明化(面)

明化(背)

明四(面)

明四(背)

面(表)

背(裏)

面(表)

背(裏)

方孔円銭(明化、明匕)「燕」

方孔円銭(明四)「燕」(参考品)

一化(面)

一化(背、工、吉)

面(表)

背(工、吉)

方孔円銭(一化、一匕)「燕」

一珠重一両十(面) 一珠重一両十(背)

両シ(面)

両シ(背)

面(表)

背(裏)

面(表)

背(裏)

円孔円銭(一珠重一両十二)「秦」

方孔円銭(両畄)「秦」

 「両畄銭」は、古文銭の「半両銭」より変化したものです。

 「畄」、「両」共に秤量単位で下記の関係があります。

 一両=二十四銖

 一畄=六銖

 よって、

 一両=二十四銖=四畄となります。
 両畄=二畄=十二銖=1/2両=半両

 となり、両畄と半両は同一の秤量単位となります。

  当時の半両銭は一枚単位での流通ではなく、秤量貨幣的な流通をさせる為、重さ調整がしやすい様に大小
 様々な大きさ、重さで作られていましたので、額面は「半両」と言えども個々の価値は額面通りとはなって
 いません。しかし、両畄銭は大きさが半両銭に比較し大きさ、重さがほぼ一定にて製作されている点から
 元々は一枚単位での流通を意識した貨幣と考えられます。


  「秦」による中国統一により、各国で異なっていた貨幣は、方孔円銭の「半両銭」の制度に統一されます。
  同時に、各国の貨幣(布幣、刀幣等)は廃棄され、これ以後二千年に渡り貨幣の主要な形態となります。

貝貨 秤量貨幣 銅貝 原始布、空首布 平首布 刀幣

半両銭 五銖銭